スタール、王宮料理人に料理技術を教わりながら大道芸の練習に勤しむ
『星見の塔からの宣託』
忌むべき魔王、器用の王がその血を目覚めさせた。
五つの紋様の残滓を食らい尽くさんとして、古の英雄の眠る墓標へと向かっている。
他の魔王はまだ、その血を目覚めさせていない。
かの魔王は、たった一人で全てを終わらせようとしている。
魔法陣に血を捧げ、支配を完成させる前に、あの危険な魔王を排除しなくてはならない。
――司祭ヨクハのメモより。
流産するなどで死を一度身近に経験した子供は、生命の鼓動に深く触れる瞬間――生死の境を彷徨うことで、紋様の加護に深く馴染むことがある。
精霊たちは、基本的には英雄にしか見えないとされる。それは
紋様とは、血に溶けた愛や絆の形である。
知性の欠如した魔物が紋様を食べることでしか得られないのは、愛を知らないからである。ただし、知性を獲得した魔物は当然、紋様の加護を受け継ぐ。
『誰かの願いが叶うころ 誰かの心臓になれたなら
少しずつ命が色褪せる前に ゆりかごでそっと歌いましょう
誰かが眠りに落ちるころ 誰かの思い出になれたなら
少しずつ寂しさを感じる前に ゆりかごでそっと歌いましょう』
警告:心臓を食べることは、王の紋様を受け継ぐことである。
――禁書指定『聖天使祭・逝天死済』より。
スタールの朝は早い。
王宮料理人たちと共に、シャンドール領に届いている食材を確認する。
細かな点まで目の利くスタールは、氷魔術で冷やされた海鮮系の食材の目利きを担当させられていた。
(ええと、いいマグロと悪いマグロは……船に上がる前に死んだマグロは、血抜きがうまく行かず内出血のように赤い斑点ができるんだっけ。逆にいい大トロは、鹿の子模様の脂のサシの美しさが出るからそれを見ること。
カレイは大きさで味はあまり変わらないから、身が厚くて艶のいいものを選ぶ。身も尾までぎゅっと締まっているものが望ましい。逆にカレイの白い腹に血が上がっているものは、古いものだから避ける。
イカは、海水から揚げたてのものは透き通るような白色、少し古くなると赤褐色になって、そこから更に古くなると濁ったような白色になる。選ぶべきは身に弾力があって目が黒くはりがあるもの。
古いエビは、頭としっぽの縞が黒くなっていて、新鮮じゃないエビは体の横を押すとぺこっと凹むからそれを確認……)
続いて、昼食と夕食の仕込みを開始するため、一日のスケジュールや王の賓客を従業員同士で確認する。
午後からは大道芸の特訓があるため、スタールは途中で抜ける前提で仕事を分担し、仕込み作業を中心に仕事を行うこととなった。
他の料理人たちがメニューを考案する中、スタールは厨房の清掃と道具の点検を行う。
スタールはまだ
だが一方で、
具体的にはソースの準備やスープの調理など、基本となる作業である。
(これは正直助かった。追い回しの仕事だけだったら、洗浄力の強い洗剤で大量の洗い物をして一日が終わることもおかしくない。手のひび割れやあかぎれは馬鹿にできない。それだけで終わったら、大した技術も身につかないまま、あかぎれでつらいだけ、になるところだった)
王侯貴族に出す料理は、コース料理として提供することが多い分、バターなどの油分が皿に残りやすく、洗い物も多く出る。
そのため、皿洗いの仕事に忙殺されて終わることもしばしばあった。仮面の女給シャムシールが口添えをしてくれたおかげで、スタールは仕事が随分と楽になったのであった。
(
そして、
きっと今の環境はかなり恵まれているんだろう。忙しいには忙しいけど、口添えのおかげなのか、指導はとても丁寧で勉強になる)
香味野菜と子牛の骨をじっくり煮込んで作り出したブイヨンに、いくつか調味料の使い方の指導を受ける。
その後、
スタール
Lv:10.07
STR:4.37 VIT:5.80 SPD:3.83 DEX:127.91 INT:9.31
[-]英雄の加護【器用】
竜殺し
王殺し
精霊の契約者+
殺戮者
[-]武術
舞踊
棍棒術
槌術+
剣術+
槍術++++
盾術+++++++
馬術+++++
[-]生産
清掃++++ new
研磨++++
装飾(文字+++++ / 記号+++ / 図形++++)
模倣+++++ new
道具作成+++
罠作成+
革細工
彫刻
冶金++
料理++ new
解剖 new
[-]特殊
魔術言語+++
魔法陣構築+++
色彩感覚+
錬金術
街に繰り出したスタールが次に行ったのは、大道芸の練習である。
これはククリからいくつか宿題を出されており、まず挑戦するのは「リンキング・リング」と「コンタクトジャグリング」と「ボイスパーカッション」の三つである。
リンキング・リングとは、輪っかをつないだり外したりする手品である。ヤコブの梯子という別名がついており、技の種類もいくつかある。
中でも主となるのは、別れているはずの輪っかを3、2、1の掛け声とともにどんどん繋いで一つの鎖にしてしまう技である。
(種があるのは分かっているんだ。キーリングという切り込みのある輪に素早く通して、切り込み部分を隠すんだけど――これが結構至難の業だ)
右手に細かい動作を期待できない以上、スタールができるのは左手芸だけである。
よってキーリングの切り込みの握りこみと、素早い動作が左手の技術に求められるのだが、これが言葉で言うほど単純ではなく、何度も失敗を重ねる羽目になった。
基本技のこれができないと、リンキング・リングの技の全てが、殆ど意味をなさなくなる。練習あるのみである。
(コンタクトジャグリングはまだマシかもしれない。こっちは手先の器用さじゃなくて体全体を使うからな)
コンタクトジャグリングとは、ボールを接触させたまま体のあちこちに転がすジャグリングのことである。
水晶玉を肩の上に乗せて、それを首の後ろから反対の肩へ。
腕の上を転がして、手の甲まで到達したら、ぽいと放り投げて、また反対の手へ。
水晶玉を自在に転がすのはとても難しかったが、体重移動の技術と運体術を鍛えられることに気付いたスタールは、これを更に突き詰めることを考えた。
まだ一つの玉を転がすだけ、それも腕のあたりでぼろぼろと水晶玉を落っことしてしまうほどお粗末な出来栄えだったが、それでもスタールは技術を高めようと決意した。
(そして、リンキング・リングやコンタクトジャグリングをやりながら――)
ごくり、とつばを飲んで腹をくくる。
恥ずかしい気持ちを押し殺して、スタールは口を開いた。
「ボッ ツ カッ ツ ボッボ ツ カッ ツ」
ボイスパーカッション。
打楽器の奏でる音色を、そっくりそのまま口で表現する技術にして、一連のドラム音を声や息で表現するアカペラの一技法。
何よりもハードルが高いのが――。
「ボッ、プス! ボッ、プス! ボッ、プス! ボッ、プス!」
「ヒッツク、パンツク、ツクツクパンツク ヒッツク、パンツク、ツクツクパンツク」
「ドッチカッツートブス、ドッチカッツートブス、ドッチカッツートブス、ドッチカッツートブス」
下手なうちは、頭が可笑しくなったようにしか見えないところである。
大道芸をしながら、よく分からないことを口ずさむ少年――通りすがりの人に奇異な目で見られるのがとても心に負担となった。
(……ククリ、なあ、これって本当に役に立つのか……?)
今はどこかに行って、他の英雄たちの補助に回ったり、調べ物やら何やらに忙しい
ボイスパーカッションをやりながらだと非常に気が散る。
集中は途切れがちになるし、人の目はとても気になるし、何よりも喉が乾いて仕方がない。
それでもスタールは、ボイスパーカッションを欠かさずに行いながら、大道芸に邁進するのであった。
スタール
Lv:10.12
STR:4.37 VIT:5.80 SPD:3.83 DEX:129.07 INT:9.34
[-]英雄の加護【器用】
竜殺し
王殺し
精霊の契約者+
殺戮者
[-]武術
舞踊+ new
棍棒術
槌術+
剣術+
槍術++++
盾術+++++++
馬術+++++
[-]生産
清掃++++
研磨++++
装飾(文字+++++ / 記号+++ / 図形++++)
模倣+++++
道具作成+++
罠作成+
革細工
彫刻
冶金++
料理++
解剖
歌唱+ new
演奏 new
曲芸 new
[-]特殊
魔術言語+++
魔法陣構築+++
色彩感覚+
錬金術
詠唱 new
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