スタール、毒団子を設置して回り沈殿池を下見する

 下水道の入り口に、血まみれの団子を点々と置いていく。

 途中、妖精のククリが何やらの笛を吹いていたが、スタールにはそれがよく分からなかった。どうやらネズミ退治のおまじないらしい。



「〜〜♫」



(ネズミの駆除の際は、笛を吹くとネズミが溺れるという逸話があるらしい。僕はそんなまじない、聞いたことないけど)



 ククリの吹いている笛は『まだら男の笛』というけったいな名前がついているらしい。妖精のおとぎ話フェアリーテイルでは有名らしいが、スタールには初耳であった。





















 街を通る下水道には、様々な水がそのまま垂れ流されている。

 市民の調理や洗濯などで生じる生活排水。

 公衆浴場や精肉場や鍛冶工房・染物工房などから排出される産業排水。

 他にも、天から降り注ぐ雨を街の外へと流して捨てるという重要な機能も持っている。



 シャンドール領の下水道の約四割は地下にある。

 正確には、北区・東区〜中央区までの区間に大掛かりな下水道が整備されており、中央区に至っては高さが盛り上がっているので自然と中央区の下を下水道が通るようになっている。

 地下にある理由は単純で、匂いを防ぐのと衛生を保つためである。



 では、シャンドール領の南部や西部はどうなっているかというと、単に道の脇に下水溝が掘ってあるだけである。

 当然匂いもするし、大雨のときは下水が道路まで溢れる。



 ネズミがうじゃうじゃと湧くのも無理はなかった。



 ただ、これでも南部にある沈殿池を一旦通るので、下水の質はましになった方である。

 沈殿池を作っていなかった時代は、色んなごみがそのまま南部に流れていたので、疫病が南部で広まり大事件になったという。



 それよりは、たくさんの海藻や貝を養殖する沈殿池を作り、そこで一旦細かいごみを沈殿させて流したほうが衛生的である、と昔の領主は判断したのである。

 ごみを分解する微生物や、汚れを食べて育つ貝などの養殖にも役立って、まさしく一石二鳥であった。



「まあ、そんな貝は食べたくないんだけどね? あれ、あくまで真珠づくりの貝だからね。貝って毒素をとんでもなく溜め込むらしいからさ」



「……」



 ククリはうへえと舌を出していたが、そもそもククリが毒にやられるのかは疑問である。が、スタールはそのことは敢えて口にしなかった。



「……やっぱり、下水溝の近くはひどい匂いだな」



「ねー。とりあえずぱぱっと毒団子を置いていこうよ。多分、南シャンドールと西シャンドールの二区域だけやれば十分だよ。設置して回るだけで時間がかかるし全部は回ってられないね」



「ネズミ駆除の証明部位の切り取りはいいのか?」



「血の匂いがするからといってそんなにすぐ食べに来るわけじゃないよ。ネズミが活発になるのは夜だしね。明日以降、もう一回散歩すればたくさんネズミが転がっているのが見つかるよ。

 それより今日は沈殿池に足を運んで、ドブさらいをどうやるのか視察だけしとこうよ」



 もっともな意見である。

 先程の工房で、毒団子は袋で抱えるほど作ってある。これを色んな場所に設置するだけでもかなりの手間であろう。



「運が良ければネズミの王様を倒せるかもね。そうなればスタール、君は王殺しさ」



 と、ククリは何かを企んでいる顔で頷いていた。





















 南シャンドール沈殿池には、各地から集まったごみによる異様な匂いが漂っている。

 これは、生活排水や産業排水そのものの匂いだけでなく、微生物が代謝の過程で出すガスが沈殿した腐敗汚泥を浮上させたりするからである。



 この腐敗汚泥を取り除くことで、周囲に漂う腐敗臭を減らすことが、このドブさらい作業の主な目的である。



「……こいつは、気分がかなり萎える匂いをしてるな」



「気付いてる? ここ、硫化水素やメタンやアンモニアを始めとした有害ガスが漂ってるんだよ? ボクが保護アルジズ癒やしベルカナのルーンで守ってるからいいけど」



「……もしかして、その瓶に採集してるのか?」



「もちろんだよ?」



 前の仕事で多めにもらった羊皮紙の切れ端に何かを書き込んだククリは、そのままその羊皮紙を手のひらに載せ、ふう、と一息吹きかけた。

 瞬間、紙が千々に千切れる。

 そのまま沈殿池へとひらひらと舞い落ちると、その落ちた場所から泡がぽこぽこと立ち上った。



「今のは?」



「触媒だよ。活性が低くても化学反応しやすくなる効果があるの。明日はこれをたくさん作って、気体をいっぱい瓶詰めしようね」



「……」



「もちろん、長年溜まりに溜まった腐敗汚泥をさらって、煉瓦を作る材料に使うのもするけどね。どっちもできて一挙両得。楽しいね!」



「……もしかしてこの前ギルドで『煉瓦造り』の依頼を探してたのって」



「もちろんだよ?

 ねえ、前に鍛冶屋さんの炉を借りたけど、あそこをもう一回借りようよ。煙突含めてぴかぴかに掃除したから向こうも喜んでたでしょ?」



「……」



 嬉しそうに語るククリをよそに、スタールは微妙な気持ちになっていた。

 働く分には文句はない。むしろ色んな知見が広がって楽しかったりする。実際のところ、ククリと一緒にいるおかげで様々な勉強になっているのは確かである。



 だが時々、スタールはこの妖精が何か企んでいるような気配を感じてしまうのだ。



(何だろう、どんどん僕を色んなことができる便利人間に仕立て上げようとしてるような気がするんだよな……)





















 スタール

 Lv:7.76

 STR:3.02 VIT:4.25 SPD:2.96 DEX:100.18 INT:6.04

[+]英雄の加護【器用】

[-]武術

 舞踊

 棍棒術

[-]生産

 清掃++

 研磨+++

 装飾(文字+++ / 記号+ / 図形++)

 模倣+++

 道具作成+

 罠作成

 革細工

 彫刻

 冶金

[-]特殊

 魔術言語++

 色彩感覚+

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