外伝11話 大蛇神の姿
崖下の川原にて
「…大蛇神を、倒す?」
「疑問に思うのももっともだよな。どこから説明するか…まずは理由からか…?」
意を決したように一呼吸置いて、彼は話し始める。
「見ての通り、俺はストリヴォーグと一心同体なんだ。俺の中にこいつがいるって言えば伝わるか? とにかく、こいつが大蛇神に恨みがあるって言って聞かないから活動してるんだが…」
「恨み…つまり、過去に大蛇神に殺された仲間を弔うために…?」
「…こいつはな。だけど、あの姿を見て俺の考えは変わったよ。神様を殺すなんてって思っていたけど、あれはそんなものじゃない。あの姿はまるで…魔物みたいだった」
彼の言葉は真剣で、とても嘘を付いているようには感じなかった。
しかし、そうなると危険なのは村だ。魔物を信仰しているなんて帝国に知られてしまったら、村人全員が魔物崇拝の罪で重罪となってしまう。
「…あなたは恨みではなく、村人を助けるために戦うんだね」
「まあ…そうだな。おそらくは大蛇神の実態を知っているのは村の中でも上の立場の奴だけだ。そいつのせいで回りも巻き込まれるのを知ったらさ、こいつの復讐にも意味があるのかなって…それだけだよ」
ばつの悪そうに返事をするトーリ。
初めは警戒していたが、その不器用な態度は逆に信頼が出来そうだと感じた。
「…分かった。まだ全部を信じている訳ではないけど…悪人ではなさそうかな」
「…はは、話してみるもんだ。まさか少しでも信じてもらえるなんて。こんな見た目だから、誰かに出会ったら退治されるかと思ってたんだよ」
「…なんとなく共感は出来るから。そうだ、誰にも言わないって約束してくれるなら…私からも見せたいものがある。どう?」
「見せたいもの…? わ、分かった。誰にも言わない、というより言う相手がいないけど…約束する」
「ありがとう。じゃあ…」
フードを脱いでから、右腕を隠すように着ていた部分を顕にする。彼に機械の腕を見せると、表情は驚きへと変わる。
「おい、これって腕が…さっきの崖から降りた時に使ったのもこれか…?」
「…まあね。私も訳ありなんだ。帝国では違法技術だから隠してるの」
「…あんたも大変だな。結構隠すのが難しそうだが、大丈夫か?」
「…一応は大丈夫かな。表向きには、風の元素使いとして冒険者をやっているからね。ちなみにあなたはどうしてその…魔物の体に?」
「俺? 俺はその…実は、詳しくは分からない。覚えているのは崖から川に落ちて、どこかに打ち上げられて死にかけていた時、赤く光る石に手を伸ばしたらこうなったってだけで…」
(…赤く光る石。もしかしてあの時の…?)
赤い石…帝国周辺に散らばっている謎の赤いライトストーンだろうか。
もしあの石にそのような効果があるとしたら大変な事態だけれど、別物の可能性も拭えない。
「…どうかしたか?」
「…いや、何でもない。とりあえずは、私も大蛇神の姿を見てみようと思う。もしあなたが言っていることが正しいのなら、これが一番手っ取り早いし」
「そうか…でも気を付けろよ。遠くからでもヤバイって分かる見た目だったからな。俺は基本的にここに居る、確認が終わったら、いつでも戻ってきてくれ」
「…うん。じゃあまたね、トーリ」
その後は崖を登り、大蛇神の元へと向かう。彼の言うことが本当ならば…その場所で全てが分かるはずだ。
──────────
蛇祀りの洞穴
「誰もいなさそうかな…?」
周囲を警戒しながら目的地へ到着したのだけど、付近に警備しているような人影は見当たらない。どうやらこの場所を常に見張ってはいないようだった。
「…よし。ちょっと罰当たりかもしれないけど、お邪魔します」
動物避けに建てられていたであろう柵を跨いで、洞穴へと向かう。
中はライトストーンにより照らされており、思いの外歩きやすかった。
(…この奥かな…)
少し進むと、奥に広い空間が見えた。しかし…その場所に近づく程、私の中の『何か』がざわつくような感覚に陥っていく。
(何、この感じは…?)
ここで引き換えそうかという考えが過った時、空間の奥で何かが動く。
そして…その『六つの眼』と目が合ってしまった。
(…!!)
─それは蛇と呼ぶにはあまりに巨大で、そして…あまりに邪悪な姿だった。
暗闇と同化するような黒い鱗からは神聖さなど微塵も感じることは出来ない。
見ているだけで心を黒く染められてしまいそうな程…ただただ恐ろしい存在。
(…逃げないと…!)
咄嗟の判断で、私はそう思った。
相手の気が変わらない内に急いで入り口へと駆け出す。幸いなことにこちらを追いかけてくる気配はなく、特に何事もなく洞窟から脱出する。
「はぁ、はぁ…!!」
気が付けば息を切らしてしまうほど夢中になって走っていた。初めて…いや、魔物に恐怖を抱いたのは二回目かもしれない。
(…あれを信仰して、何をする気なの…?)
今はまだ、その理由は分からない。しかし、私一人でどうにか出来るような相手でもないことだけは確かだ。
(…一旦戻ろう。トーリにも伝えて、少し…考えないと…)
おそらく、トーリとの連携は必要不可欠だ。幸いにも時間的な余裕はある。コタクさんからも、大蛇神の情報は聞けるはずだと考えて、村へと歩き出す。
…だけど、この時の私は気が付いていなかった。その後ろから見ていた、何者かの視線を。
「……………」
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