外伝4話 偽りと、幸せと
ユラからの依頼をこなしてからは、時間が空いたら孤児院に出向き、それ以外の時は依頼こなす。それを繰り返していき時間が流れていった。
レジーナの家にて
そんな日常を送っていたある日の朝、ガルが珍しく早起きをしていた。身だしなみを整えてから部屋を出てくると、声をかけられる。
「おはようさん。ちょっといいか?」
「おはよう、今日は早起きだね。どうしたの?」
「お前に良い知らせがあるんだ。話すより見た方が早いから、とりあえず付いてきてくれ」
そう言って案内されたのは、ガルの部屋。一体どうしたのだろうとは思ったが、詳しくは教えてくれなかった。
少しにやにやしながら扉を開ける彼。そして、その中に居たのは驚くべき人物の姿だった。
「…ユラ!?それにリーズガルドさんも…どうしてここに?」
「おはよう、レジーナお姉ちゃん」
「やあ、レジーナ君。驚いたかな?」
「驚いたも何も…ユラの体は大丈夫なの?」
「この前にショゼフの奴が作った薬が効いたらしくてな。ちょっとは動けるようになったからここに挨拶に来たって訳だ」
「そうだったんだ…よかったね、ユラ」
「うん、皆のおかげだよ!ありがとうね、ガルおじさん、レジーナお姉ちゃん!それでね、今日は私からお願いがあるんだけど…お姉ちゃんは今日は時間あるかな?」
「時間?今日は依頼も入れてないから…うん、大丈夫だよ」
「本当!?それならね、一緒にお出かけしたいなっ!お食事したりお洋服を買ったみたり、それとね…」
考えて来たであろう予定を目を輝かせて話す彼女。余程楽しみにしていたことがその素振りから分かり、なんだか微笑ましく思えた。
「…ふふふ。大丈夫、私は逃げたりはしないから。順番にやっていこう?」
「あ…うん!」
「ではユラを君に任せても大丈夫かな?せっかくの機会だから二人で楽しんできた方が良いだろう」
「リーズガルドさん…ありがとうございます」
「俺はめんどくさいからパスな」
「…ガルはもうちょっと言葉を考えて」
「買い物する時は必要な物だけ買いたい人間なんだ、それに俺がいても邪魔だろ?」
「まあまあ、きっと気を遣ってくれてるんだよ」
「お、ユラは分かってんじゃねぇか。そういうことだ、楽しんで行ってこい」
「…はあ、調子がいいんだから。じゃあ行こっか」
「うん、それでは行ってきます」
「ああ、気を付けるんだよ」
―――――――――――
「…なあ、本当にこれでいいのか?」
「ああ、彼女が望んだんだ。それを拒むのは残酷だろう」
「…そうか。すまないな、レジーナ…」
―――――――――――
ユラと手をしっかりと繋いでから外に出る。今日の彼女は足取りも軽く、薬が効いたというのは本当そうだ。
「ねえねえ、まずはどこ行こっか?服屋さん、それともご飯?」
「まずはご飯かな。お腹減っちゃった」
「あ、お姉ちゃんって大食いだもんね。いつもペコペコだったりするの?」
「食べる時にしっかり食べるだけだよ」
「そっか…なるほどなぁ…」
そういってある部分をまじまじと見てきた。さすがにこういった場所では恥ずかしいから注意をする。
「…あんまり見ちゃだめだよ?」
「あ、ごめんなさい!それではお姉ちゃんおすすめのご飯を食べにいこー!」
普段からは想像も出来なかった彼女の元気な姿に安心する。昔の元気を取り戻したようで本当に良かったと思いながら、二人でご飯を食べに向かうのだった。
酒場
「おおー、なんだか大きな建物…」
「ここは酒場。私はいつもここでご飯を食べているんだ」
「ガルおじさんみたいな人が似合いそうな雰囲気だね」
「ふふ、まあ当たってるかな。でもまだ朝だから大丈夫だよ」
中に入ると夜のように騒がしくはなく、どちらかというと静かな印象だ。とりあえずは近場の席に着いて注文を決める。
「お姉ちゃんはいつもどれを食べるの?」
「私?うーんと…これとこれとこれと…これ?」
「えぇ、本当に!?この量がお腹に入るの…?」
「うん。ユラは何を食べる?」
「ええと…私はこういうのでいいかな」
そう言った彼女が選んだのは小さめのセット料理。注文が決まったら店員さんを呼び、しばらく待つと料理が運ばれてくる。
実際に比べるとユラと私の食べる量の差がすごいとは思ったけれど、気にせず食べ始める。
「それじゃあいただきます」
「いただきまーす!」
美味しそうに料理を食べるユラを横目に、軽く会話を挟みながら食べ進めていき、注文した料理を食べ終わるまではそう時間はかからなかった。しかし、食べ終わったら隣ではユラが目を丸くして驚いていた。
「すごい、本当に食べちゃった…」
「ごちそうさまでした。お腹いっぱい」
「大丈夫?動ける?」
「心配しなくても動けるよ。なんならもう少しいけそう」
「な、なるほど…素敵スタイルの道のりは険しいんだね…」
「大丈夫、ユラにもこれからがあるから。きっと大きくなれるよ」
私が言った言葉に、一瞬だけ止まるユラ。しかし何事も無かったように話を続ける。
(…?)
「…そうだよね!お姉ちゃんをあっと言わせてみせるんだから~」
「楽しみにしてるよ。じゃあ休憩したら次の場所に向かおうか。次は服屋さんかな?」
「うん!お姉ちゃんとおしゃれ、おしゃれ!」
嬉しそうな彼女の頭を撫でながら、一休みをする。さっきの違和感はきっと…気のせいだろう。
そのまましばらくして、服屋へと歩を進める。私はあまり詳しくなかったのだけれど、どうやらユラが調べてくれていたらしく彼女に案内される形で向かうのだった。
服屋 フロントファッション
「…ここは?」
「ふっふっふ…ここが街の女の子が通うおしゃれなお店!らしいよ」
「そ、そうなんだ…」
服屋と聞いていたから私がいつも行くような所かと思ったけれど…全然違かった。色合いも服装もなんというか、派手だ。
「えっと…本当にここに…?」
「さあさあ、中に入ろ!早くー」
「え、あ、ちょっと…!」
正直なところ抵抗しかなかったけれど、無理矢理中に連れ込まれる。お店の中には今まで着たことの無いような服がたくさん並んでいた。確かに、たまに見かけるような服もあるけれど…
「わあ、かわいい服がいっぱい!ほら、お姉ちゃんも選ぼ!」
「う、うん」
とりあえず近くにあった服を手に取るけれど、これは…危ない。特にお尻が。
(…風が吹いたら下着が見えそう)
…とてもじゃないけど着られない。色々な意味で危ないと思うけれど、これがおしゃれなのだろうか。
困惑する私に対して、ユラは目を輝かせながら服を選んでいる。やがて一着の服を重ねながら私に対して見せてくる。
「どうどう、似合う?」
それは白いワンピースだけれど、所々に装飾が付いていて彼女に良く似合っていた。思わず感想を口に出してしまう。
「あ…可愛いね」
「本当?えへへ…お姉ちゃんに誉められちゃったー」
照れ臭そうにしているユラだったけれど、すぐに他の服も選び始める。でもなんだかこちらをちらちらと見ているのは気のせいだろうか。
「…これだ!はい、どうぞ!」
「へ?」
すると、突然服を重ねられる。どうやら私に合う服を選んでくれていたみたいだ。
「あ、可愛いー!お姉ちゃん似合ってるよ!」
「えと、その…あ、ありがとう…」
いつもの服はなるべく体を隠すようにしているから当たり前だけれど、人前でこういう格好をすると考えるとやはり恥ずかしいと感じてしまう。そんな時、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これが今どきのファッション…なかなか攻めてるなぁ。いきなりこういう格好をしたら驚かれるかな…うむむ」
「…あれ?あの人は確か…」
「どうしたの?あの人と知り合い?」
そこに立っていたのはレオネスのお姉さんだった。名前はシャルネさんと言っていただろうか。どうやら彼女も服を選びに来ているように見える。
「うん。でも服を選んでいるみたいだし…」
「わあ、偶然だね!そうだ、一緒に服を選ぼうよ!」
「へ?えっと、でも…」
「そうと決まれば私が行ってくるね!すみませーん!」
服を買いに来ている所を邪魔したら悪いと思ったのだけれど、ユラは向かって行ってしまう。その声に気がついた彼女はこちらを見ると驚いた様子だった。
「はい?って、レジーナさん?それとあなたは…見ない子だね。初めまして、私はシャルネっていうんだ」
「初めまして、私はユラっていいます!今はレジーナお姉ちゃんと服を選んでいるんだけど、一緒に選びませんか?」
「へぇ…レジーナさんでもこういうお店に来たりするんだ」
「いや、あの…こういうお店には初めて来て…」
「あ、そうだったんだね。でもそうなると初めて同士の三人組ってわけかぁ…うん、面白そう!私も一緒に選ばせてもらおうかな?」
「よろしくね、シャルネさん!早速だけど私達の持ってるこれ、似合うかな?」
「あ、可愛いー!シンプルだけどなかなかいいね!」
「でしょでしょ?私もそう思ったんだー」
…完全に2人で盛り上がっている。このままそっとしておいた方が良いかと思ったのだけれど、だんだんと話の雲行きが怪しくなっていく。
「でもね、やっぱりお姉ちゃんに似合う服が難しいんだ。あんまり肌が露出してなくて、可愛いのってないかな?」
「肌が露出していないのかぁ…あれなんかどう?」
「あの、二人とも…?」
「おお、可愛い!しかも服が試着出来るみたいだよ!」
「へぇ、試着も出来るんだ。なら色々着てみないとね!さあさあレジーナさんも!」
「あ、うん…」
こうして私は長い間試着を試すことなり、結局服を買う頃には時刻は夕方になろうとしていた。最終的に買ったのは少し清楚な雰囲気の、黒が基調の服。ふりふりとした部分も多かったからどうかとは思っていたけれど、今ではなんだかんだ気に入っていた。
「…もう夕方。あっという間だったね」
「うん、でもとっても楽しかった!」
「私も!実はここに来るのは初めてだったから助かっちゃった。今日はありがとうね」
「ううん、こちらこそありがとうございました」
「じゃあ私はこれで!また会ったらお話しようねー」
手を振ってシャルネさんと別れる。あまりこういう経験はしてこなかったけれど…私自身も楽しいと感じていたのだろう、その後ろ姿を見ると少し名残惜しく思えた。その後はしっかりと手を繋いでから帰路に着く。
「シャルネさん、良い人だったね」
「うん。私もあの人とは出会ったばかりだったけど…こういうのもいいね」
「お姉ちゃん…うん、そうだね!あ、私は孤児院まで送ってもらえれば大丈夫だよー」
「了解。じゃあ行こうか」
二人で大きく手を振りながら帰り道を歩いていく。夕日に照らされたユラの顔は、いつもより輝いて見えた。
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