第20話 トリビュの街観光

次の日の朝


 差し込む朝日と共に目が覚める。時刻は午前6時。洗い物を片付けるにはちょうどいいかもしれない時間だ。

 身支度を整えてから部屋を出ると、まだシャルネは眠っているようだった。


(起こすのも悪いから、静かに終わらせるか)


 それにしてもまだ朝は肌寒い。最近開発されたという物があれば多少はましなのだろうが…


(…今日にでも見に行ってみるかな)


 しばらくして洗い物が終わろうとしていた時に後ろから声が聞こえた。


「んー…あれ、レオ…? もう起きてたんだね、おはよー」


「おはよう、シャル。少しうるさかったかな?」


「ううん、大丈夫だよ。それにしても何だか懐かしいなぁ、朝起きたらレオがいるなんて。いつの間にか私より早起きになっているのには驚いたけど」


「いつまでも子供のままじゃないってことだよ。シャルも身支度を整えてきたら?」


「あ…そうだね。じゃあ部屋を借りるねー」


 準備している間に後片付けを済ませ、すぐに作業が進められるようにと書類を広げる。すると、昨日は見なかったがシャルネの名前に目が止まる。


(名前はリネス…か)


 聞いた事のない名前だが、だからこそ安心できる。書いたところまでに不備がないかどうか確認していると、シャルの方は準備が終わり部屋から出てくる。


「あ、用意しておいてくれたんだね。ありがと~」


「どういたしまして。特に不備も無い感じだったから早めに終わりそうだね」


「なら良かった。ジーノさん達はまだかな?」


「あー…ジーノは少し遅いかもね。何か本を読み始めるとそのまま読み続ける人だから。シシゴウはもう起きてるんじゃないかな? 自分の研究をしているだけで」


「なるほど。そういえばシシゴウさんの研究って?」


「まだ説明してなかったね。シシゴウは魔操忍具ってやつを作ってるんだ。確か…」


「…説明しよう! 魔操忍具とは光の地にて人知れず人々を救い、邪悪から民の身を守り続けていたを模した画期的な魔操具の事だ!」


 自分が説明する前に背後からシシゴウが答えてきた。正直びっくりするから正面から来てほしかったけども。


「シ、シシゴウさんいつの間に!?」


「ふ…これもまたニンジャの技よ。してシャルネ殿は魔操忍具に興味があるのか?」


「えっと、シシゴウ。説明はありがたいけど手短にね?」


「あいわかった。シャルネ殿も魔操具を使っているからわかると思うが、エレメントの属性は火、水、雷、風の四種類だ。そして魔操忍具はそれら全てを扱うことができ、それは男でも問題ない…それが魔操忍具だ」


「え!? それってすごいことなんじゃ…?」


「うむ。とは言ってもまだまだ制限が多くてな。使える回数に制限もあるが、重量もなかなかのものだ。まあ分かりやすくいうなら、帝国で第一騎士団が運用している機械兵装みたいな物だ」


「えっと…機械兵装? ってなんでしょう?」


「ああ、まだ騎士団の構成も聞いていないのか。ならちょうど良いからここで説明しちゃおうか」


 コーボス帝国には騎士団と呼ばれる、国から認められた自衛組織がある。それは第一から第四までの四つに別れており、それぞれには違いがある。

 基本的には団長よりも副団長の方が戦闘能力が高く、事務作業と実戦をそれぞれが請け負っている。


 主に男性で構成されている、機械兵装を用いて戦う第一騎士団。ここの副団長であるジークハルトは帝国最強で有名だ。


 主に女性で構成されている、魔操具を使い戦う第二騎士団。ここには絶凍の騎士と呼ばれている副団長、ラジェンダがいる。


 普段は研究をしており、あまり公には姿を表さない第三騎士団。団長が数多くの技術発展に貢献しており、噂ではかなりの美人らしい。


 実力のある冒険者や傭兵で構成された第四騎士団。他に比べてやや荒くれ者のイメージを持たれることも多いが、魔物の被害を減らすことに一番貢献しているのはここだろう。


 時間がかからないようにざっくりとした説明になってしまったが、今はこれで大丈夫だろう。自分の説明にシャルネも理解してくれたみたいだった。


「なるほど、騎士団ってそういう仕組みだったんだね。でも女性主軸の第二騎士団かぁ…どんな人がいるんだろう」


「興味があるなら今日、騎士団を見に行ってもいいかもね。丁度知り合いがいるから紹介できるかもしれないし」


「え、騎士団に知り合いがいるの?な、なんか緊張しちゃうな…」


「大丈夫、怖い人じゃないから。しっかりとしていてかっこいい人だよ」


 仕事中の彼女は少し厳しい態度だった気がするけど、その時は顔を見せるだけでいいだろう。


「さて、話はこれくらいにして書類でも書き始めるか。二人とも早く街に出たくて仕方がないようだが、終わらせないと出られぬぞ」


「あ、そうだった!」


 軽い朝食をとった後、書類を書き進めていく。その途中でジーノも起きてきて、昼を回る前には書き終えることができた。


「はー、終わった! 後はこれをギルドに提出するだけですか?」


「うむ。それが終わったら街を見に行っても大丈夫だな」


「俺達も依頼の件でそっちに向かう用事があるから一緒に行っちまうか」


 支度を整えた後に早速ギルドへと向かう。その中にはレジーナやガルさんの姿は見当たらなかったが、ひとまず無事に書類を受け取ってもらえた。

 依頼があると言っていた二人はギルドに残ることになり、シャルと共に外に向かう。


「さて、どこから見に行こっか? レオのおすすめの場所とかある?」


「実は最初に案内したい場所は決めてたんだ。まずはそこからにしようか」


「おおー、やるじゃん。じゃあ案内よろしくね!」


 話ながら大通りへと出る。人の通りが多いこの場所は、もちろんお店も多い。その中でも僕が案内したいのは…


「さて、到着だ。ここが紹介したかった場所さ」


「パン屋オレパン…ここからでも良い香りが漂ってきてるね」


「だね。とりあえず中に入っちゃおうか」


 そのままパン屋の中に入ると、久しぶりに聞く元気な声で出迎えられる。


「いらっしゃい! オレパンにようこそ…ってレオネスじゃないか!いやー、元気でやってるか?」


「お久しぶりですブラッドさん。色々ありましたけど元気に冒険者としてやってます」


「おお、そうか! そりゃ良かった! で、隣のお嬢さんはもしかしてあれかい? 早速連れてくるなんて憎いね~このこの!」


「え!? あ、いや違います! 私はレオの姉で…!」


「ありゃ、違ったのかい。結構雰囲気が違うから姉弟だったとは思わなかった、いやーすまないすまない! そうだ、今レナのやつを呼ぶから顔を見せてやってくれ! きっと喜ぶぞー!」


 そう言って彼は後ろのドアを開けて奥に入っていく。その勢いに若干押され気味のシャルだったがまあ大丈夫だろう。


「なんというか…すごく勢いのある人だね」


「あはは…最初はそう思うよね。でもいい人だよ」


「あ、ほんとうにレオネスだ!」


 少し待つと奥から声がかけられる。そこにいたのはまだ小さい子供の姿。このパン屋の一人娘のレナだ。


「あら、かわいい~!」


「久しぶり、レナ。元気にしてた?」


「うん! レナは元気だったよ! でもそっちのおねーちゃんはだあれ?」


 しゃがんで目線を合わせるようにしてからシャルは話始める。


「私はシャルネって言うんだ。レオのおねーちゃんだよー」


「そうなの!? レオにおねーちゃんがいたなんてはじめてしったー!」


 なんだかんだシャルは子供と相性はいいみたいで、これならすぐに仲良くなれそうだろう。


「おっと、ここで話していると他の人の邪魔になっちまうから後はあっちのお食事場でな!レナちゃんもそれでいいかな~?」


「うん、わかった! じゃあいこ、おにーちゃんにおねーちゃん!」


「あ、それじゃあ先に二人で行ってていいよ。僕は軽いパンでも買っておくからさ」


 ここの名物であるティルトパンを買ってから遅れて二人の元に向かう。まだ出会ってから少ししか経ってないけれど、二人ともすっかり仲が良さそうだ。


「お待たせ。はいどうぞ」


「ありがとうね。ほらレナちゃんの分もあるよー」


「ありがとー! おとーさんのパンはおいしいからおねーちゃんもきっとほっぺたがおちちゃうはずだよー」


 食べて食べてと言わんばかりにシャルネを見ているレナ。シャルもそれに気がついたのか、早速パンを食べ始めた。


「じゃあ早速…ん! おいしーい!」


「でしょー! おとーさんのパンだからね、とーぜんだよ!」


 まるで自分の事のように喜ぶその姿を微笑ましく思いながらパンを食べる。


「それで、レオネスは今ぼーけんしゃなんだよね? おとーさんもおかーさんもたいへんなおしごとだっていってたけどだいじょうぶ?」


「ああ、大丈夫だよ。とは言っても色々大変だったことは確かだけど…」


「でしょ! 体がいちばんたいせつだっておとーさんがよくいってるから、レオネスもたいせつにしないと!」


「あはは…気を付けます」


「それならよかった! それでおねーちゃんはなにをしてる人なの?」


「私は冒険者見習いってところかな? いや、まだなってないから冒険者志望?」


「女の人なのにぼーけんしゃなの? すごーい! まるできしだんの人みたい!」


 騎士団の人…おそらく第二騎士団の事を言っているのだろう。あそこはまさに才色兼備といった人が多いから様々な人達からの憧れの対象になっている。


「いやー、騎士団の人みたいなんて言われたら照れちゃうなぁ」


「まだ冒険者でもないのに、もうなったつもりでいる…」


「まあまあ、いいじゃない! それでレオはここの人達とずいぶん親しいけど何かお世話になったりしたの?」


「ここは僕が冒険者になる前に働かせてもらっていた場所なんだ。今は学校にいると思うけど、ブラッドさんの奥さんのバーンズさんも素敵な人だよ」


「学校にいるって…もしかして先生?」


「そうだよ、おかーさんは学校でみんなにおべんきょーをおしえてるの!」


「へぇー、じゃあレナちゃんが学校に行く年齢になったらお母さんのかっこいいところがいっぱい見られるね。そういえばレナちゃんっていくつなの?」


「ごさい!」


「おおーちゃんと言えて偉いねー」


 ちゃんと言えたご褒美にシャルが頭を撫でると満足そうな顔をする。楽しそうな二人を見ていると、やはり連れてきて正解だったのかもしれない。

 その後も他愛のない話を三人でしていくが、お昼を回ろうとしていた時に他の案内したい場所の時間が迫ってきていることに気がつく。


「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ行かなくちゃが帰っちゃうかも」


「あれ、もういっちゃうの?」


「大丈夫、またすぐに会いに来るよ。だからその時にまた話そうか」


「そうそう! それに、レオが来れなくても私もいるからね」


「うん、わかった! 今日はおはなしありがとー!」


「いえいえ、どういたしまして。こっちも美味しいパンをありがとうね」


 席を立ち、出口へと向かう。元気いっぱいに手を降るレナとブラッドさんに見送られながら外に出ると、シャルは満足そうだ。


「はぁ、楽しかった! レナちゃんかわいかったねー」


「赤ん坊の頃から変わらない、明るい子だからね。さてと、じゃあ次の場所に行ってみようか」


 オレパンを出ると、大通りを抜けて帝国本部近くの道にやって来る。すると遠くからでもわかるちょっとした人だかりがあった。


「お、ちょうど今からみたいだ。発明おじさんのあれが見られるね」


「発明おじさん?」


 人だかりに近づくと、ちょうどおじさんが今週の面白発明と題した看板を簡易ステージに張り付け終わったところだった。


「えー、おほん。皆さま、今週もお集まりいただき誠にありがとうございます! 今回も面白おかしい、けれど我らの明日を支えるかもしれない…そんな発明を紹介しますぞー!」


 おじさんが集まった人達にそう言うと、辺りから拍手が鳴る。最近は見に来れてなかったけどまだまだ元気そうで安心だ。


「さて、本日初めに紹介するのはこれ! この小さな石!」


 彼の手にあるのはただの小さな石。何かからくりがある石なのかもしれないが、今のところは分からない。


「ただの石だと思うなかれ、実はこの石にはものすごい秘密が隠されているのです。さて、分かりますかな~?」


 そう言って集まった人の一人に石を渡す。その人は上や下から覗いてみたり、太陽の光に当ててみたりしているが検討はつかなかったみたいだ。


「うーん、私はただの石にしか見えないなぁ。レオはどう?」


「僕も同じかな。ただあの人のことだから何かあるんだろうけど…」


「おやおや、見抜ける人はいないのですかな~?」


 わかる人がいないことにやや大げさにリアクションをとるおじさんだったが、それに対してどこからともなく声がした。


「全く、お客さんを焦らすのもいい加減にしなさい。残り少ない髪の毛が抜け落ちますよ?」


「な、なんだと! 一体全体そんなことを言ったのは誰だー!」


 集まった人達を見る彼だったが、その声は彼から…いや、彼の持つ石から聞こえてきた。


「私よあなた。こんな方法だとお客さんが帰ってしまうんじゃないの?」


「も、もしやその声は…わしの妻!? しかもこの石から声が聞こえるぞー!?」


(このオーバーなリアクション、懐かしいなぁ)


 自分の中では石が喋った驚きよりも懐かしさが勝っていたが、回りの人は驚きの声を上げていた。


「と、いうわけで最初の発明はこちらの声が聞こえる石! 名付けてメモリーストーン!なんとこの石、音を記憶することが出来るのです!」


「おおー!」


「すげー」


「どうなってるんだろう?」


「詳しい説明は長くなるから省略させて貰いますが、エレメントが振動を記憶する石という代物なのです。もしかしたらこの技術が発達すれば遠く人と会話ができる…かもしれないと言われている技術ですな」


「遠くの人と話せるかぁ…もしもそんなことができたらお父さんやお母さんを心配させないですみそうだね」


「だね。いつになるかわからないけど、また話せるといいな」


「あ…うん。そうだね」


 さすがに僕が村に帰れないことは知っているようで、少し申し訳なさそうにするシャル。こちらとしては気にしないで大丈夫だけれど…そうもいかないらしい。


「大丈夫、きっと戻れる日が来るはずだよ。それに、その時はお互いに顔を見ながら話せた方が安心させてあげられそうだからね」


「…そっか。うん、そうだね」


 再びおじさんに目を戻すと、二つ目の発明品を取り出している。何やら二本の紐状の何かが飛び出している機械のようだけど…


「さてさて、それでは次の発明品はこちら! 名付けましてラブチェッカー! なんとこの機械に繋がっている紐を男女で握ると自動で相性を占ってくれるのです!」


 彼は説明をしながら辺りを見渡す。そして若いカップルを見つけると手招きをして呼ぶ。


「おやおや、ちょうどよいところに! どうです、このラブチェッカーを試してみてはいかがですかな?」


 突然の指名に女性の方は照れていたが、男性の方が先導する形でステージに近づいていく。


「ちょっと恥ずかしいなー…」


「大丈夫大丈夫、俺達なら相性ぴったりだって」


「ご協力感謝いたしますぞー! では早速こちらを持っていただきまして…」


 おじさんが二人に紐を一本ずつ握らせると機械が起動する。機械からドラムロールが流れると何か表示されたみたいだが、ここからではよく見えない。


「でました! 結果は…なんと適合率96%!! いやーラブラブですな!」


 大きい声でそういうとカップルは恥ずかしそうだったが、まんざらでもなさそうだった。


「96%だって! すごいなぁ、きっとお似合いのカップルさんなんだろうね」


「だね。でもどういう仕組みなんだろう?」


「もう、こういうのはそういうことを気にしちゃだめだよ?」


 仕組みを気にするとシャルに注意される。確かに仕組みが分かってしまったら台無しか。


「これは後々の自由時間で置いておきますので気になる方達はそのときにでも試してくだされー」


「あ、あれ試せるんだ…」


 やはりシャルも仕組みが気になるのだろうか、少し考えるように言葉を発する。


「へぇ…自由時間になったら試してみようか?」


「え…え!? えっと…」


 冗談まじりでそういうと予想以上に驚くシャル。それにそんなに恥ずかしがられると、言ったこっちも少し恥ずかしくなってくる。


「あ、えっと…そんなに恥ずかしがられるとこっちも恥ずかしいというかなんというか」


「あ、だ、だよね! えっと、でも…ち、ちょっとくらいなら…いいかな…なんて…」


 触ることにちょっとも何もないと思ったけど、怒られそうだからそこは指摘しないでおこう。


「分かった、じゃあ後で試しにいこうか。お、新しい発明品が来たよ。なんだか大きい布が被せてあるけど…」


 ステージに目を戻すと何やら大きな物が用意されていた。その様子に集まった人達も少しざわついている。


「さて、本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。最後の発明品となりますは…こちら!」


 そう言って布を勢いよく取ると、そこにあったのは一回り大きなエレコンだった。


「エレコン?」


「なんか大きくない?」


「最新のやつを持ってきたのか?」


「ふふふ…そう、エレメンタルコンディショナーことエレコンでございます! エレコンといったらやはりその多様性。お部屋を暖めたり、涼しくしたり、はたまた灯りになったり。風を起こすことだってできる優れものでしたが…今回のエレコンはちょっと違いますぞー!」


 おじさんが機械を操作するとエレコンから暖かい風がこちらに送られてくる。


「なんとこちら、二つの属性を同時に操作することのできるエレコンとなっております!なのでこのように温風を送ったり…」


 彼がまた機械を操作すると、今度は冷たい風が発生する。確かにこれは便利そうだ。


「すごーい」


「これがあったら洗濯物も早く乾きそうねぇ」


「でも高そうだなぁ…」


「冷風を送ったりできるのです! 他にもいろいろな組み合わせでできることがありますが、そこはまだまだ開発途中。自由時間でも置いておきますが注意事項はしっかり確認してくだされ。さて、本日の紹介は以上となります! 今日も来ていただいてありがとうですぞー!」


 締めの言葉と共にお客さんが散っていく。残ったお客さんはエレコンの方に多く向かっている今ならあれを試すのに時間はかからないだろう。声をかけようと横を見るとちょうどシャルと目が合う。


「あ…」


「お客さんはエレコンの方に行ってるからすぐ試せるね。じゃあ行こうか」


「う、うん」


 様子を見るにまだシャルは恥ずかしがっているみたいだ。確かに100%とか出てきたら恥ずかしいだろうけど…そんなことは滅多にないだろう。

 先にやっていた一組の男女が終わるのを待ち、自分達の番になる。


「じゃあ僕は右にしようかな」


「わ、わかった。じゃあ私が左ね」


 握る前に、さっきの人達の数字がそのまま残っていることに気がつく。後続の人に見られるのはなんだか恥ずかしい気もするけれど、今さらか。

 しかし握ってみたのはいいものの、一向に機械が動く様子がなかった。


「…? 故障かな?」


「どうなんだろう…?」


 握って少し経つとおじさんが気がついたのか、こちらに近づいてくる。


「おや、どうされましたかな?」


「握っても機械の反応がなくて…」


「ふむ? 少しいいですかな?」


 機械が壊れていないか確かめた後にもう一度握ってみるように言われたが、やはり反応がない。


「うーむ、少し調子が悪いようですな。こうなったら今日はもう下げておくしかなさそうですな…しかしお二人の様子から、とても仲が良さそうに見えるので機械はいらないかもしれませんな! はっはっは!」


「お、おじさん!」


「まあまあ、いいじゃないか仲良しって」


「むう…」


 やや納得していない様子のシャルだったがすぐに機嫌は戻った。その後はエレコンを見てから次の場所に向かおうという話になり、案内を再開するのだった。

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