第19話 姉との再開

 ドトールを出発してから夕方になろうとしていた頃、トリビュに無事到着する。その道中にレジーナと話した結果、まずはギルドへの報告が最優先だろうということでそちらに向かうことになった。



ギルド内部にて 


 中に入り受付へと向かうとカナさんが対応してくれる。夕方ということで人が集まってきていたが、そこまで待ち時間があったわけではなかった。


「あら、レジーナちゃんとレオネス君。戻ったのね、少し遅かったじゃない」


「こんばんは、カナさん。まあ結構大変だったというか…」


「…ちょっと色々あってね。はい、報告書」


「はい、どうも…あら?」


 渡された報告書に目を通していく彼女だったが、その内容に気がついたのだろう。一通り目を通した後、こちらに再度話しかけてくる。


「…なるほど、そっちも大変だったみたいね。実は最近こういう報告ではないんだけど、魔物の被害報告が多くって…やっぱりが関係しているのかしらねぇ」


「…前の魔物達との戦争からおよそ百年。それが今だからだよね」


「そうそう。フェイル王国の方では勇者って呼ばれる人も現れたんでしょう?もうすぐ大きな戦いでもあるのかしら…って疲れているのに暗い話をしちゃってごめんなさいね。それじゃ、二人ともお疲れ様」


「カナさんも大変でしょうけどお仕事頑張ってください。それではまた」


「…またね」


 報告を終えてギルドを出る。しかし…魔神の存在と魔物の活発化は何か関係があるのだろうか。後で魔神に聞いてみるのもいいかもしれない。


「さてと、レジーナはこれから腕を見てもらうんだよね」


「…そうだよ。だからここでお別れだね」


「了解。レジーナも今日はゆっくり休むといいよ。それじゃあ依頼お疲れ様!」


「お疲れ様。ばいばい」


 レジーナと別れた後、真っ直ぐ自分達の家へと向かう。二人ともギルドの中にいなかったからおそらくは家にいるのだろう。


(さて、帰ったらどこから話そうかな…ってあれ?)


 家の前まで戻ってくると、何やら入り口の前に人影が見える。扉の前をうろうろしているみたいだけど、どうしたのだろうか。


(依頼の話かな? でも結構しっかりしてる服装だな…まるで冒険者みたいだ)


 気になることもあるけれど、まずは近づいて話しかけてみる。見てみると女性のようだが何やら大きな荷物も抱えている。


「すみません、どうかしましたか?」


「え!? あ、いや私は決して怪しい者では…!」


「…え?」


 彼女が振り返り、その顔を見た瞬間驚く。それは忘れるはずのない、小さい頃から一緒に育ってきたあの人物そのものだった。


「…シャル?」


「え? じゃあもしかしてあなたが…レオ?」


「やっぱりシャルなんだね! 随分と服装がしっかりしてるから近くに来るまで分からなかったよ。でもどうしてここに?」


「ええと…い、色々あって? それにしても随分たくましくなって…私も最初、あなたがレオだって分からなかったよ。改めて久しぶり、レオ!」


 彼女が本当にシャルネで驚いた。でもその腰には二本の剣があり、立ち振舞いもなんだか昔と比べてしっかりしているような気がする。一体何があったのだろうか。


「そうだ、こんなところで立ち話もなんだから上がっていきなよ。知ってるかもしれないけど、ここが僕達の拠点であるフトーフクツだからさ」


「あ、うん。実はさっき入ろうと思ってたんだけどなんだか緊張しちゃって…でも会ってみたら中身は昔と変わらなさそうで安心した!」


「…中身も成長したって言って欲しかった気もするけどまあいっか。じゃあどうぞ。二人ともただいまー」


「ありがとうね。お邪魔します!」


 扉を開けて中に入る。リビングではジーノが本を読んでくつろいでいた。シシゴウは…ここにいないなら自室で研究だろう。


「お、帰ったか。後ろのお嬢さんは依頼の用件か?」


「あ、いや。知り合いというかなんというか…」


「あなたがジーノさんですか? 私はシャルネ・アークベルトっていいます!」


「…アークベルト? ということはなんだ、レオ。もしかしてお前の?」


「まあ、そうだね。僕の姉ってことになるかな」


「なるかな、じゃなくてしっかりと姉です! レオがこっちで色々お世話になったみたいでありがとうございます」


「ふーん…」


 そう言って本を片手にまじまじのシャルネを見るジーノ。しばらくして小さく呟く。


「ははーん、なるほど目が肥えてたのか」


「へ?」


「いやこっちの話だ。自己紹介が遅れたな、俺はこのフトーフクツのまとめ役…つまりはリーダーのジーノだ。よろしくなシャルネちゃん」


「よろしくお願いします。それとシシゴウって人もいるって聞いたんですけど…今は留守ですか?」


「いや、奥の部屋にいる。ちょっと呼んでくるわ」


 立ち上がってからシシゴウの部屋の扉をノックし、中に入っていく。少し待つと中から二人が出てきた。


「話は聞かせてもらったぞ。そなたがシャルネ殿か? 拙者はシシゴウと申す。このフトーフクツの名付け主であり戦闘担当といったところか。よろしく頼む」


「私はシャルネっていいます。レオネスがこちらでお世話になったみたいでありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね、シシゴウさん!」


「ああ。しかしなぜここを訪れたのだ? 向こうで何かあったのか?」


「そうでした! えっと、実は頼みたいことがあって…」


 こほんと改めて後、シャルは驚くべき言葉を言った。


「冒険者になるために、私をフトーフクツの一員に加えてください!」


「え…冒険者に?」


「ははぁ…なんとなーくそんな感じはしてたけど、なるほどなぁ」


「ふむ…随分と藪から棒だな」


「シャルが冒険者になるって…一体どうしたんだい? 後、ヤブカラボー?」


「光の地で『唐突に』という意味表す言葉らしい。これでまた一つ詳しくなったな」


「へぇ、シシゴウさんって光の地について詳しいんですね。すごいです」


「感心しているところ悪いけど…とりあえず訳が聞きたいかな」


 冒険者になるということは簡単な依頼をこなすだけではなく、魔物と戦ったり、時には人間と戦う可能性だってある。魔物恐怖症である彼女にはとてもじゃないけど向いているとは思えない。


「あ、そうだよね。えっと…訳は…」


 ちょっと考えた様子の後に言葉を続ける。


「し、心配だったから…?」


「気持ちは嬉しいけど、それでシャルが危険な目に合うのは…」


「あ、待って! そこは大丈夫! しっかりと腕を磨いてきたから! その証拠に…」


 そう言って荷物をほどくシャル。その中に入っていたのは少し大きめの機械。それを見たシシゴウが反応する。


「ほう、それは魔操具ではないか」


「まさか魔操具を使えるなんてな。で、肝心の適正元素はなんだ?」


「私のは水です。怪我を直したり体調を整えたりとか、少しですけど水を操ったりもできます」


「シャルが魔操具使いに…驚いたな」


 だが、基本的に魔操具使いになるためには専門の訓練が必要だ。その主な訓練はここトリビュや帝国本部で行われているのだが…もしかしてあの後、彼女もトリビュに移動していたのだろうか?


「だがこれは…珍しい見た目の魔操具だな。もしやオリジナルか?」


「はい。とはいっても自分で作ったわけではなくて作ってもらったんですけどね。魔操具以外にも剣の心得があります」


「うーむ…人材としては良さそうだが、一つ大きな問題がある」


「大きな問題?」


「それは…ここにはもう部屋が無いってことだ!」


「ああ…確かに」


 言われてみればそうだった。自分がここに来たときにシシゴウの倉庫部屋を整理して空き部屋を作ってくれたが、今は空きなんてない。


「流石に女性にリビングで過ごせとは言えねぇしなぁ。かといって同じ部屋で過ごせとも言えない。そこら辺の考えがあるならこっちとしては歓迎なんだがな」


「あー…なるほどです。それなら…うーん…」


(昔だったら自分の部屋においでよみたいに言えたかもしれないけど…シャルにもシャルのプライベートがあるだろうしな。なかなか難しいかな…)


 宿を借りるにしても根本的な解決にはならない。となれば…


「着替えとかは僕の部屋に置いたりして、寝るのはソファ…とか?もしも嫌だったら僕がソファで寝ても大丈夫だよ」


「え!?」


「え?」


 想像以上に驚かれた。さすがにソファで寝ることを提案するのはだめだったかもしれない。


「いや…でもそれなら大丈夫そうかも?」


「シャルが良ければそれでいいけども…本当に大丈夫?」


「うん、いいよ。こっちこそいきなり来てこんなこと言ってごめんね。ジーノさんもシシゴウさんもごめんなさい」


「まあ気にすんな。さすがにこれ以上増えたら困るけど、うちのチームの清涼感が増すからな!」


「清涼感?」


「またそんなこと言って…カナさんに言いつけるよ?」


「おっと口が滑った。じゃあ改めてよろしくなシャルネちゃん」


「そうと決まれば善は急げ、明日には冒険者登録の手続きを進めるとするか。今日はもう遅いから休むといい、ハテノ村からここまでは距離があるから疲れただろう」


「確かに距離がありましたね。あ、馬はどこに繋げればいいですか?」


 二人の会話にジーノが反応する。どうやら自分と同じ疑問を抱いたみたいだ。


「ん、さっきハテノ村から到着したのか? オリジナルの魔操具とその心得があるからてっきりトリビュに住んでいたのかと思ったが…違うのか?」


「あ、はい。実はさっきトリビュに来たばかりで…心得と魔操具は私が師匠って呼んでいる人からです。でもそれ以外のことは口止めされていて…ごめんなさい」


 師匠…おそらくグレイヴさんではないだろう。案外、魔操具の心得がある人が近くにいたのだろうか。


「なるほどな。ま、レオネスも急に来たから今さらか。馬なら管理所がここを出て右側の突き当たりにあるからまずはそっちの登録でも行くか」


「拙者が済ませておこうか? 少し外に出る用事があるからそのついでにな」


「あ、それじゃあお願いしようかな。ありがとうございます」


「あいわかった。それでは行ってくる」


 会話の後にシシゴウが外へ出る。ちょっとだけ自分がここに来たときの光景を思い出しながら、三人で話を続ける。


「さてと、荷物を部屋に運ぼうか。結構少ないから僕の部屋で十分足りそうだね」


「そうだね、こっちは私が運ぶからそっちお願いね。後、これが終わったらお風呂借りていいかな?」


「大丈夫だよ。というより今日からここの一員なんだから自由に使ってもらっていいよ」


「そうだぜ、場所は入り口の右手側なー」


「それもそっか。じゃあ運んじゃおー!」


 荷物を運び自分の部屋に整理する。中身はちょっとした日常品と着替えが少し、それとお金が結構入っていた。


「あれ、結構持ってるんだね」


「えへへ、すごいでしょ。頑張ったんだよ」


 素直にすごいとは思うが…それだとしたらなぜ冒険者に?シャルは僕の事が心配だと言っていたが、よほど心配だったのだろうか。


「…ありがとう、シャル。それと心配かけてごめん」


「え…?」


「あの時、何も言わずに村を出ちゃったからさ。本当は話をしたかったんだけど…」


「…確かに心配だったよ? でも、会ってみたら心配なんて吹き飛んじゃった。中身は昔と変わらない、あの時のレオのままだったから」


「シャル…」


(昔と変わらない、か…)


 あの時の村での事件。グレイヴさんは自分の正体に気がついていたけれど…シャルは知っているのだろうか。僕のあの力を見ても、昔と変わらないと言ってくれるだろうか…


(…今考えても仕方がないか)


 軽い会話を挟みながら作業を進めていくが、もともとの量が少なかったおかげか終わるのにはそう時間はかからなかった。


「さてと、整理完了! こっちに私の服とかまとめて、場所も少し作ったからこれでよし!」


「お疲れ様。でも着替えはこれだと少ないと思うよ?」


「あ、それはね…えっと…」


 自分がそう言うと少しもじもじとするシャル。


「い、いつでもいいけど時間がある日に一緒に街を見て回りたいかなー…なんて…どうかな?」


 なんだかんだ街に来て浮かれているのだろうか。気持ちは分かるけど、なんだか微笑ましい光景で笑みがこぼれてしまう。


「…ふふふ」


「ちょっと、笑うのはひどくない!?」


「いや、ごめん。シャルも女の子らしいところがあるんだなって」


「え?」


「やっぱり大きい街に来るとわくわくするよね。女の人は買い物が好きみたいだし、ここなら村で買えない物もいっぱいあるはずだから見て回るのもいいね」


「あ…うん。そ、そうだね。ここに来る途中も見慣れない物がたくさんあったから楽しみにしてるね! じゃあ私、お風呂に入ってこようかな」


「了解。ゆっくり使っていいよ」


「じゃあお言葉に甘えて…じゃあね!」


 話を終えて部屋を出ると、シャルはそのまま浴室に向かっていった。リビングでは引き続きジーノが本を読んでいる。


「そういえば、さっきから何を読んでるの?」


「んー? 光の地に興味が湧いてな。シシゴウの持ってた本をちょっと見てんだよ」


「光の地か…」


 光の地。自分がここに来てすぐの頃は平和だったみたいだけど、今は魔物の手の内にある。

 落とされた理由は未だに不明だが、今ではリビングアーマーやゴーストの類いで溢れかえっているらしい。他にもクビナシと呼ばれている怪物もいるらしいが…自分の目で見たことはない。


「そ。向こうで勇者ってやつが現れたんならもうすぐ取り返しに動くかもしれねぇし、この前の奇妙な魔物も無関係とは思えないからな。内容がまとまったら後で教えるぜー」


「わかった。それと明日ってシャルネは一日中やることがあるかな? 時間があるならトリビュを案内したくてさ」


「んー…書類まとめちまえば面接まで自由なんじゃないか? だから時間に余裕はあると思うぜ」


「了解。じゃあ明日にでも時間ができたら案内しちゃうね」


「おう、エスコート頑張れよ。でもその前に聞いておくが、シャルネちゃんも俺の名前借りた方が良さそうか? どうやらお前を心配してこっちに来たみたいだが…」


 言われてみれば、名前はアークベルトで大丈夫だろうか。自分は素性を少しでも隠すためにジーノの名前を借りたが、三人目はさすがにどうなのだろう。


「うーん…お風呂から出たら聞いてみるよ」


「おう、頼んだぜ」


「そうだ、光の地で思い出したけど…」


 シャルとの再会で忘れてしまっていた本題をジーノに伝える。仮面の男、リビングアーマー、サバキ。それにあの倉庫の出来事。

 一通り伝えると、彼は難しい顔をする。


「…そっちは大変だったんだな。あっちこっちで妙な事が続いていることを偶然だと考えるか、それとも…って現状では判断は難しいか」


「だね。二人にも後で話しておくとして…」


 昨日の出来事を伝え終わった時に、扉が開く音が聞こえる。どうやらシシゴウが帰ってきたようだ。


「今戻った。ギルドから登録用の用紙も貰ってきたぞ」


「お、助かる! これで明日の朝に向かう手間が省けたぜ」


 丁度シシゴウが座ろうとした瞬間、また玄関付近から声が聞こえた。どうやらシャルネもお風呂が終わったみたいでリビングに戻ってくる。


「はぁ~さっぱりした! やっぱりこっちは違うなぁ、髪もすぐに乾いちゃった」


「シャルもお疲れ様。そうだ、さっきジーノと話していたんだけど…」


 そのまま帰ってきた二人にも昨日の出来事や明日にやることなどを説明する。しかし、前者の話をするとシャルネがかなり驚いた様子だった。


「そんなことがあったの!? 怪我は? 大丈夫なの?」


「幸いにも怪我はなかったよ。レジーナっていう一緒に依頼を受けた人は腕を少し痛めたみたいだけど、ひどい怪我ではなかったからね」


「ふむ、しかしそやつらを退けるとは…サバキとは一体何者だ?」


「さあな。分かることといえば恐ろしく強いってことか?」


「ギルドにはもう報告してあるから大丈夫だとは思うけど、一応気をつけてねって感じかな」


「オーケー、わかったぜ。さて、そんじゃそろそろ飯にでもするか! このまま話をしてたら晩飯がなくなりそうだぜ」


「確かにそうだな。それと、そっちが作っている間に少しでも書類を進めておくか?」


「それもそうですね。結構書く場所はあるんですか?」


「そんなに時間はかからないと思うよ。それとちょっといいかな?」


 そう言った後に手招きをする。首を傾げながらもシャルが近づいてきてくれたので、耳元で話をする。


「名前はアークベルトで大丈夫かな? 結構父さんの名前って有名らしいよ」


「そうなの? じゃあ変えた方がいいかな…でもどうしよう…」


 少し考えこむ様子のシャルだったが、何かを決心したように頷く。


「…よし、これでいこう。教えてくれてありがとうね」


「どういたしまして」


「話は終わったか? では早速書き始めるとするか」


 こうしてジーノがご飯を作り終えるまで書類書きを進めていく。量的に見て半分程を書き終えたところでジーノから声がかかる。


「お前ら、テーブルを片付けろー。飯ができたぞー」


「はーい。じゃあまた明日だね」


「そうだね。でもジーノさんのご飯かぁ…どんなのだろう」


「ああ見えて奴は料理が上手いからな、期待して良いと思うぞ」


 テーブルを片付けるとジーノが料理を持ってくる。彼が味付けをしたたっぷりの肉や野菜をパンで大きく挟み込んだそれは、良い香りも相まってこちらの食欲を大いに煽った。


「お待ちどうさん。俺特製スタミナサンドの登場ってな」


「わあ、美味しそう! もっとこう、男の人の料理だから豪快なのが来ると思ったけどお洒落ですね!」


「はっはっは、だろ? 味も保証するぜ」


「これに関しては僕も同意かな。それじゃあいただきます」


 意外にもジーノの作るご飯は美味しい。味も酒場の料理にも引けを取らない程で、食べ進めていくとあっという間に平らげてしまう。それは二人も同じようだった。


「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」


「それならよかったぜ。皿はあっちな、シシゴウかレオが後でまとめて洗うから」


「それなら僕が明日やっておくよ。ごちそうさま」


「腹も膨れたことだ、さっさと寝る準備でもするか。今日の様子からして、書類の方はそう時間はかからないだろ?」


「それなら明日に街を見る時間は確保できそうだね。後、今日は僕がソファで…」


「今日は私がソファでいいよ。レオもお仕事大変だったみたいだし…そっちの方がゆっくり休めるでしょ?」


 会話の途中で思い出したが、今日は魔神にも聞きたいことがあった。ここはシャルネの意見に従った方が良さそうだ。


「じゃあそうしようかな。ありがとうね」


「いえいえ! まずはソファの寝心地も確かめなきゃだからねー」


 寝るまでに会話を挟みながら夜が更けていく感じに懐かしさを覚える。思い返せば村から離れてから六年…時が流れるのは早いものだ。

 じきに準備は終わり後は寝るだけになる。三人に挨拶を伝えてから部屋に入ると、自分のベッドの上に座り意識を集中させる。


(…こんばんは、魔神)


『我を呼ぶか、宿主よ。何の用だ?』


(いや、ちょっと気になることがあって。魔神の復活と魔物の活性化って関係があるのかなと思ってさ)


『ふむ…それらに直接的な関係は無い。だが間接的には関係ある』


(…つまり?)


『魔物達は我の復活を知らないが、周期は覚えている。つまりは復活の有無にかかわらず活性化する時期があると言えば十分か?』


(なるほど…そうなると魔物の目的は…?)


『人間を殺すこと。彼らはただそれだけだ』


(…そっか。じゃあ…君もそうなのかい?)


 魔物達の目的が人間の殺戮だというのならば、彼らに崇められている魔神自身の目的もそうなのだろうか。今は自分に協力的だが、それには裏がある…その可能性も捨てきれない。


『ふむ、当然の疑問だな。だが我の目的は違う…しかし伝えるにはまだ早すぎる』


(え?)


『今はまだ世界を見て回る時だ。安心しろ、その時が来たら話すと約束しよう』


(そっか…わかったよ。じゃあ…)


『…その前に問おう。宿主の目的はなんだ?』


 話を終わらせようとしたその時だった。おそらく初めてであろう魔神からの質問が来たのだ。


(僕の…目的?)


『ああ。何やら迷いを感じたから質問させてもらった。答えにくいなら答えなくとも構わないが』


(…いいや、大丈夫だよ)


 突然の質問に少し戸惑ったが、今も昔も考え方は変わらない。ならそれを魔神に伝えるだけだ。


(…僕は誰かの助けになりたい。目的かどうかはわからないけど、それが答えかな。でもこれをいつまで続けられるか…それが迷いなのは否定できないかもしれない)


『そうか。ならば宿主はその思いを忘れずに進めばいい。どう進むのかを決めるのは、いつもお前自身だ』


 この先に何が起こるかはわからない。だからこそ迷っていては自分の道が進めなくなってしまう…ということだろうか。


(魔神…ありがとう。君って案外優しいよね)


『優しい…そう言われたのは初めてだな。我は道を示しているだけにすぎぬ』


(他にも色々助けて貰ってるからね、僕はそう思うってだけさ。さてと、じゃあそろそろ明日に備えて寝ようかな)


『分かった。ゆっくり休むといい、我が宿主よ』


(うん。おやすみ、魔神)


 魔神との会話を止めて横になる。思えば街をじっくり見たことはないから、明日シャルに街を案内するのが楽しみだ。

 そんなことを考えながら目を瞑る。疲れた自分が意識を手放すのにそう時間はかからなかった。

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