第18話 依頼完了

夜の平原にて


「いやはや、なかなか手強い相手だったようだね。彼は何か隠し球でも持っていたのかな? 何はともあれ、目的の物は手にいれたから依頼は達成だがね」


 夜の平原で影に向かって話す男。するとみるみる影が変化していき、そのときの状況を説明し始める。


「ふむ…ふむ。自らの剣が折られ、そのまま鎧が真っ二つに…か」


 しばらく考え込む様子の男だったが、何かに気がついたのかその顔を上げる。


「…私の魔氷鎧を断ち切るほどの剣、切られた際のあの反動。もしや…?」


 男の様子に不思議そうな様子の影。それを見た男は微笑みながら語りかける。


「おっとすまない、一人で考え込んでしまっていたね。そうだな…簡単に説明するならばが喜びそうな話かもしれない。では戻ろうか、相棒バディ


 

───────────




同時刻、ドトールの宿屋


 レジーナをベッドに寝かせた後、ドアの前で待機していたカラルさんと合流する。ドアを閉めたのを確認してから、申し訳なさそうな様子でこちらに話しかけてきた。


「あの…レジーナさんの容態はどうでしたか?」


「酷い怪我ではなかったので大丈夫かと思います。ただやはり、何者かと交戦したような形跡はありました」


「そうですか…やはり二人組で私を…」


「…確認ですが、本当に身に覚えはないんですね?」


「はい。やましいことなど何も…」


 改めて確認してみたが彼が嘘をついているようには見えない。そうなればもしやが関係しているのだろうか。


「…これはあくまでも推測にすぎませんが、おそらくあの赤いライトストーンが関係しているかもしれません」


「あの石が?」


「はい。実際、今回盗られた物はあなたが集めていたという石が入ったポーチのみです。実害も加えてきましたが、この動きからして狙いはそれだったんでしょう」


「しかし何故あの石を? その辺にたまに落ちている物なのに…」


「…そこはまだわかりませんが、ギルドに報告すれば調査が入るでしょう。詳しい情報は彼女が目覚めるのを待つとして、今夜はどうします? また襲撃してくる可能性もありますが、わざわざ人気のない場所に誘いこんだ奴らが宿まで追ってくる可能性は低いかと思われますが…」


 こちらの言葉に少し考え込む様子の彼だったが、方針が決まったのか顔を上げる。


「そうですね…私は協会の方の宿屋に戻ろうと思います。そこなら襲撃されるとは考えにくいですし。ですからそこまで送っていただけると助かるのですが…」


「そのくらいお安いご用です」


「ありがとうございます! では行きましょうか、あまり遅くなると父を心配させてしまいますので…もう遅いかもしれないですけれど」


 軽く会話を交わしながら目的の場所へと向かうが、何事もなく到着する。

 入り口には警備らしき人が立っていたので少し手前で別れ、その人達に連れられて建物に入るのを確認した後に、こちらもその場を離れる。


 その後、特に何事もなく宿に戻ってくる。そして借りた部屋のベッドの上に座ると同時に、少しだけ意識を集中させる。


(さてと…魔神、ちょっといいかな?)


『…どうした、我が宿主よ』


(さっきの奴らのことなんだけど、何か知っていないかなと思ってさ)


『ふむ…あのような術は我の記憶には無いな。百年の時の間に魔物にも変化があったのだろう』


(そっか…じゃあ詳しい事は彼女が目を覚ましてからかな)


『そうだな。それに我が力を使った負担もあるだろう、宿主も今日は早く休んだ方が良い』


(そう言われてみれば確かに疲れたような気が…)


 魔神に言うことを聞いて、動けなくなる前に休む準備をする。彼もこの体にいるから、疲れなどもわかってしまうのだろうか?


(じゃあおやすみ、魔神)


『ああ、ゆっくりと休むといい』


 まだまだ気になることは多いけれどひとまず休息が優先だ。魔神に挨拶をした後、ゆっくりと目を閉じた。





『…予想外だったがこれはこれで良い方向に事が動いたか? 今回の転生は今までと境遇が大きく異なるが…然程、問題ないか』






次の日の朝


「ん…もう朝か…」


 外からの光で目を覚ます。体を少しだけ動かした感じから、しっかりと眠れたのが理解出来た。


「…レジーナはもう起きてるかな?」


 やはり昨日の出来事が気になる。支度をしてから隣の部屋に向かい、扉をノックする。


「おはようレジーナ。もう起きてるかな?」


「…起きてるよ。ちょっと待ってて」


 声が聞こえてから少し待つと扉が開かれる。少し髪がぼさっとしていたが、寝起きの彼女を見るのは少し新鮮かもしれない。


「…おはよう。レオネスも早いね」


「ああ、少し昨日のことが気になってね。話をしても大丈夫かな?」


「いいよ。部屋は…近いからこっちでいいかな。入って」


 そのままレジーナの泊まっていた部屋にお邪魔する。


「さてと、昨日は大変だったね。怪我とかは大丈夫?」


「…うん。とはいっても腕の不調は直ってないから早めに見せないと。おそらくスイッチング機構がいかれたのかも…」


 スイッチング機構…聞いたことはないけども、なんとなく何に使うのかはわかる。ひとまずそのことは置いておいて今後について話す。


「なるほど、その腕を直すのはトリビュかな? それならこの出来事をギルドに報告するのにも丁度良さそうだけども」


「…トリビュだよ。ギルドにあの魔術師…なのかな。そいつのことを報告するのにも一回戻らないと」


「魔術師?」


 彼女の口から気になる言葉が飛び出す。自分と戦った相手が作られた鎧だったからてっきり鎧操師かと思ったのだが…。


「あ…まだ何があったか話してなかったね。私が戦った仮面の男…詳しくは分からなかったんだけど、彼は魔術師だと思う。水晶を操っていたんだけど、その水晶から水のエレメントが感じ取れたから」


「つまり…水のエレメント操作の氷の方?」


 たしか水のエレメントを操る際には

 『水のエレメント自体を操る方法』

 『エレメントに影響を与えて(凍らせて)から操る方法』

 の二通りがあるってジーノが言っていたはずだ。ならば水晶というのは後者に当てはまるだろうか。


「…そうだね。それに魔術師は大陸の東側では珍しい。もしかしたらフェイル王国からの流れ者の可能性もあるかもしれないけど…そうだ、レオネスの方はどうだったの?」


「孤立した後、なんとか鎧の奴には勝てたけど中身は空だった。それに倒した後に霧散したみたいに消えたのも気になるかな…」


「消えた…なるほど。私の方も追い込むことは出来たんだけど…途中で鎧の方が突然現れたことに何か関係がありそう」


「突然現れた?」


 確かにあの時鎧を真っ二つにしたけれど、その仮面の男とやらがまた鎧を作ったのだろうか。しかし魔術師となるとそれは難しそうだ。


「うん。首を捕まれて危なかったけど…サバキが助けてくれたんだ」


「サバキって…あのサバキが?」


「そう。目的はよく分からなかったけど…とにかく、不思議な人だった」


 …敵の正体も掴めていないのに加えて、あのサバキも関係している可能性も出てきた。これは本格的にギルドに任せた方が良さそうかもしれない。


「なるほど…じゃあとりあえずはカラルさんの様子を伺った後にトリビュに戻るで良さそうかな?」


「そうだね。じゃあ早速…」


 彼女が立ち上がろうと瞬間、ぐぅ~という気の抜ける音が鳴り響く。聞こえたのはどう考えても彼女のお腹からだった。


「…まずはご飯だね」


「ははは、そうだね。僕もお腹が空いたよ」


 恥ずかしがらずに黙々と支度を進めるあたりは実に彼女らしい。自分の二倍近くご飯を食べる彼女を横目に朝食を取った後、カラルさんが泊まっていると言う協会運営の宿までやってきた。


「昨日は夜中だからよく見えなかったけど…やっぱり立派な建物だよね」


 流石はケディア行商協会運営といったところだろうか。大陸の西から東の物流を担っているだけはある。


「…そうだね。でも商人達の安全を確保するためならこれくらいは普通かも」


「そう言われればたしかに…」


 そのまま入り口近くに寄ってみたが、明らかにガードマンらしき二人が立っている。昨日の時にも居たけれど…このまま通してくれるだろうか。

 とりあえずさらに入り口に近づくと、ガードマンの一人に止められる。


「止まってください。見たところ冒険者の方のようですが、こちらに何かご用でしょうか?」


「あ、はい。昨日、カラルという人物の護衛の依頼を受けたレオネスと申します。今日中にはトリビュに戻らなければいけないのですが、まだちゃんとした挨拶ができていないと思いましてこちらに伺わせていただきました」


「…了解しました。ただいま確認して参りますので少々お待ちを」


 そう言った後にガードマンが一人建物の中に入っていく。しかしこの堅苦しさ、自分はどうも苦手だ。戻るのを待っている最中にふとレジーナが呟く。


「…そういえばショゼフさん達はどうしてるかな」


「あれ、最近会ってないのかい?」


「うん。今は大陸の西側…フェイル王国周辺でとある病が流行っているらしくて。色々忙しいらしいからちょっとね」


「そっか…僕の方も最近会わないと思っていたらそういうことだったんだね」


 会話の最中に一枚の紙切れが彼女に飛んでくる。どうやら近くで配っていた号外のようで、それを手に取ってから話しを続けてくる。


「そう。でもフェイル王国の方にはがいるから安心かも」


「彼…もしかして勇者アゼルのこと?」


 アゼル。少し前に聞いたこの名前は大陸を救う者と呼ばれている人の名だ。闇を切り開く力を持つと言われているが詳細は定かではない。


「うん。なんだか向こうで活躍してるらしいね。ほらこの紙にも、とある場所を根城にしていた魔物達を退治したとか書いてある」


「へぇ…すごいね。でも勇者が守ってくれるのはあくまでも大陸の西側だ。東側…コーボス帝国の安全は僕らで確保しないと」


「…うん、そうだね」


(…勇者、か)


 自分が…魔神がいるなら勇者もいる。それはわかっていたけれど、その話を聞くとなんだか胸がざわつく。魔神が言っていたが、いつかはその光とぶつかり合う…それは避けられない宿命らしい。それでも…少しだけ考え込んでしまっていた。


(アゼル…どんな人なんだろうな)


 彼女とそんな話をしているとガードマンの男が戻ってくる。そしてその後ろには見慣れた姿もあった。


「お待たせいたしました」


「おはようございますレオネスさん、レジーナさん! 昨日は本当にありがとうございました!」


「いえいえ。そちらこそ、ご無事でなによりです。今日中にはトリビュの方に戻ってしまうので、昨日の確認もかねてご挨拶に来ました」


「わざわざご丁寧にありがとうございます。でもこのとおり体の方はぴんぴんしてますよ! まあ父にはちょっと怒られましたけども…」


 苦笑いを浮かべる彼の姿を見て安心する。どうやら別れてからは何事もなかったみたいだ。


「…元気そうでなによりだね。心配はいらなかったみたい」


「あはは…まあよかったじゃないか」


「あ、そうだ。今日に戻ってしまうのなら、仮倉庫の件は私が管理者に話をしておきますよ。なので相手がどんなやつだったか教えていただきたいのですが…」


「わかりました、ありがとうございます。ではお話すると…」


 彼にも宿で話し合った内容を共有する。これで倉庫の管理者も納得してくれたらいいのだが。


「…なるほど、わかりました。仮面の男に動く鎧…なんとも不気味な相手ですね」


「ですね。でもギルドの方に報告をすれば直に正体が掴めるかと。それではカラルさん、あまりお時間を取らせるのもあれですので自分達はもう行きますね」


「はい、また何かあったらご依頼させていただくかもしれないです。それではお気を付けて!」


「…またね」


「そのときはよろしくお願いします。それではまた!」


 倉庫の件は彼に任せ、自分達はトリビュに向けて出発する。戻ったらジーノとシシゴウからも話を聞いておくのもよさそうだと考えながら、馬を走らせた。

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