第17話 VS『黒鎧&仮面の男』
とある建物内にて
「ほう…あの冒険者達、なかなかやるな。あの不意打ちを凌ぎきるとは」
月明かりの影で佇む一人の男。そしてその近くでは、一匹のシャドウすり寄っている。
「おおよしよし…大丈夫、お前が悪いわけではない。相手が少しばかり想定外だっただけだよ。現に先ほどはお前が圧倒していたではないか」
男がそういうと、不安げだった影が元に戻り始める。
「そうだ、不安がることはないさ…なにせ私達にはあの方が認めるほどのチームワークがある。それに、直々に教えていただいたこの魔法さえあれば敗北などありえないさ」
そんな男の言葉を聞いて、やる気を漲らせるように動く影。
「よし、その意気だ。私達の狙いはあの弱そうな男だ…だがあの二人がそれを阻止してくるだろう。つまりは…分かるな?」
その言葉の後、シャドウは影で小さな人影を三人分作り出す。一人は細く弱そうな、一人はしっかりとした、一人は小さい影。次に弱そうな影を守るように二人の影を配置し…両方を貫く。
「おお、そうだともそうだとも!さすがは私の
誉められて嬉しそうなシャドウと不適な笑みを浮かべる男。
「では…いこうか、相棒。まずはあいつからだ」
──────────
仮倉庫内部にて
真夜中の倉庫…なるべく死角を作らないように三人で周囲をカバーしているが、いつまでもこのままではいけない。敵の戦法からすれば今の状況では自分達は格好の獲物だ。覚悟を決めるように、口を開く。
「…まずは倉庫を出よう。月明かりの下ならここよりも戦いやすいはずだ」
「…そうだね、でもそう簡単には逃がしてくれないとは思うよ。カラルさんは足に自信はある?」
「に、逃げ足ならなんとか…」
「それならきっと大丈夫ですよ。移動する際は敵の攻撃に対応できるように僕が後ろでいいかな?」
「…わかった、それでいこう。帰り道は覚えているから前は任せて」
次の行動を話し合い、カラルさんを挟み込むように移動する。入り口まではそれほど遠くないのは幸いだった。敵の気配も感じていない今がチャンスだ。
「…いくよ!」
「はい!」「了解!」
彼女の合図により、移動を開始する。来た道を戻り迷路のような倉庫内を駆けていく。
(ここを曲がれば…!)
しばらく走った後に通路を曲がり、見えたのは入り口。距離にして残り数十メートル…そう、たったそれだけだった。
(後少し!)
カラルさんが入り口から出ようとした、そのとき。進行方向の上空から何かが降りてくるのが見えた。それは闇に紛れるような黒い影。だが奇襲は予想済みだ。カラルさんを守るための距離は保っていた。
だが…やつの狙いは彼ではなかった。
(この向き、敵の狙いはまさか…!)
すぐに剣を抜いて敵の攻撃を受け止める。だが完全には受けとめきれず、後方に少し押し戻される。
「レオネス!」
「レオネスさん!」
前方から二人の声が聞こえたがそれもすぐに途切れる。奴はすぐに扉を閉め、自分を倉庫から逃がさないようにした。
「…急に狙いを変えるとはね。僕を倒してからカラルさんをやるって方針にしたのか」
扉を叩く音が響く。鍵はレジーナが壊したはずなのに、敵は何らかの方法で扉を固定したらしい。
(芸達者なやつだ。やはりこいつは普通のリビングアーマーとか何かが違う…)
「……!!」
鎧がこちらを真っ直ぐ向き…その目を光らせる。
(来る!)
初動は突進からの振り下ろし。相手のパワーはすでに認知しているゆえに受け止めるのは悪手だろう。だが…
「甘い!」
自らの剣で受け流すように攻撃をいなし、反撃を敵の
(なに!?)
リビングアーマーは通常、鎧の結合さえ切れれば再生はしない。だから基本的な戦い方は人間と同じ…そのはずだった。だがやつの鎧にはあるはずの隙がなかった。
考える暇もなく敵の反撃が自分を襲う。それをなんとか剣で受け止めるが後ろに押し返される。
(こいつ、継ぎ目を固めてある…! 敵は
リビングアーマーの弱点を無くす芸当がされているということは、こいつは自立している訳ではないということ。この作られた鎧をどこかで操っている奴がいる…だが、そうなるとかなりまずい状況だ。
始めと変わらず攻撃一辺倒の敵。それを避けることを優先しつつ、動きを観察することに専念する。
(やはり鎧に隙は無い…! このまま戦っていたら体力が先に尽きるのはこっちだ! なら出し惜しみをしている場合ではないな…!)
幸いにも今なら自分を見ている人間はいない。実戦で使用するのは初めてだが…成功させなければ負ける。
(まずは集中するための時間を作る…!)
そのまま攻撃を捌いていると、後ろに荷物がある場所に追い詰められる。だがこれはこちらとしても好都合な状況だった。わざと荷物の近くで隙を作り攻撃を誘発させ、敵の剣を荷物にぶつけさせる。
「そこだ!」
動きが鈍ったところに突きを放ち、大きく距離を離す。そして敵が怯んでいる間に意識を集中させる。
(…力を貸してくれ、魔神!)
『了解した。我が力、存分に奮うがよい』
体の奥底にある力を自らの右腕に集める。すると黒い靄が腕を覆い始める。
(この感覚…いける!)
十分に靄が腕を覆った瞬間に力を込めると、靄が形を成していく。次の瞬間、自分の右腕を覆っていたのは魔神の腕を模したまがまがしい力を放つ籠手…そしてその手には黒い剣が握られていた。
(これは…黒い剣…?)
『ほう…我が魔剣の体現に成功したか』
魔神がそう言うとほぼ同時に、敵がこちらに向かい攻撃を仕掛けてくる。その剣撃を受け止めようとしたときに自分が感じたのは、敵の剣が自分の剣をすり抜けるような感覚。
一瞬何が起こったのか判断が遅れたが、魔剣が敵の剣を受け止めただけで切り飛ばしたのだ。
「…! これで終わりだ!」
武器を失った敵に対して魔剣による一閃を食らわせる。その一撃は相手の胴を捉えたまま切り抜け、真っ二つにする。上下に切り飛ばされた鎧はそのまま地面に落ちた後、活動を停止した。
「…すごい。これが、魔神の力…」
『終わったか。ならばすぐに力を解いたほうがよい、体への負担が大きくなる』
(わかった。力を貸してくれてありがとう、魔神)
『力を貸すのは当然のことだ』
鎧が動かなくなったことを再確認しようとしたとき、まるでその場所に元々存在していなかったかのように鎧が霧散する。
「鎧が…消えた?」
鎧操師は自らが作成した鎧を操る魔族。だからこそ、鎧が消えるなんてことはありえないはずだが…
(…外の様子が気になるな)
消滅を確認した後に力を解いて入り口に向かう。先ほどまで開かなかった扉に手をかけてみるとすんなりと開くが、そこに二人の姿は無かった。
「…カラルさん? レジーナ?」
「…レオネスさん! 無事だったですね!」
呼び掛けに反応するようにカラルさんが物陰から飛び出してくる。この様子だと彼は無事みたいだ。
「この通りなんとか。レジーナは?」
「それが、一人でマニピュなんとかを倒しに行くと言い残してどこかに…」
「なんだって?」
おそらく彼が言いたいのはマニピュレーターのことだろうか。それならば急いで彼女と合流した方が良さそうだ。
「…わかりました、急いで追いかけましょう。彼女はどちらへ?」
「確かあっちの建物です、行きましょう!」
――――――――――
少し前
分断後、倉庫の外
「どうしましょう、レオネスさんが中に!」
隣でカラルさんが声を上げる中、二度目の風の魔弾を扉にぶつける。しかし扉は開くことなくその場にあり続ける。
「…だめ、開かない」
それにしても妙なのはこの扉の間に付着している黒い物体だ。まるで金属のような光沢を放つこの物体が扉を固く閉ざしている。こうしている間にも扉の裏からは剣と剣がぶつかる音が響いてくる。
(どうにかしないとこのままじゃ…でもどうすれば?)
どうにかして状況を打開しようとエレメントの流れを読んだ、その時だった。
(…? この物体、どこからか流れが…?)
黒い物体に対して意識を集中させると、扉の内側からではなく外側からの流れが見える。
(…まさか!)
不可思議なリビングアーマーに、鎧と似ている黒い物体。そして外側からのエレメントの流れ…もしかしたら倒すべき敵は他にいるのかもしれない。
「…カラルさん、少しの間ここで隠れていてくれないかな?」
「何か分かったんですか?」
「…おそらくは。本当の敵はあのリビングアーマーじゃないかもしれない。だから大元である
マニピュレーター…それは鎧を操る魔族だ。あの鎧がまるで自らの意思があるかのように動いていたから騙されたけれども、相手がこいつなら納得がいく部分が多い。
「マニピュレーター…?」
「…つまりあの鎧を操っているやつがいる。私はそいつを倒しに行く。だから少し待ってて」
そう言い残しエレメントの流れを辿るようにこの場を離れる。後ろを振り返ると手近な物陰に隠れる彼の様子が見えたので、少しの間なら大丈夫なはずだろう。
(…それにしてもずいぶん遠くから操ってる)
マニピュレーターは遠距離で操るほど力が落ちるからあまり離れた場所にはいないはずだけれども、今回の敵は違う。
(…仕組みははわからないけど大まかな位置は分かった。それだけで十分)
そのままとある建物の中に入り、上へと昇っていく。おそらく場所は四階だろう。
(…ここのどこかに居るはず)
階段を上りきる前に一旦止まる。相手はあの距離でも鎧を動かせる手練れだ。慎重にいかないと…こっちがやられる。
突入のタイミングを窺っているその時、奥から男の声が響いてきた。
「ほほう…よくここがわかったものだね、お嬢さん」
(…!)
「何故こちらの位置がばれたのかは気になるが…まあ良いだろう。君もなかなか面白い特技を持っているのだね」
「…それはお互い様。それよりも答えて、あなたの目的は何? どうしてカラルさんを狙うの?」
「答える気は無いと言ったら?」
「…力ずくでも聞き出す!」
そう自分で言い放つと同時に四階に乗り込む。眼に映ったのは仮面を被った男性の姿。寂れた建物で佇んでいた彼は、この空間で異質な空気を放っていた。
「残念だが、近づけば有利になるという考えはハズレだよ」
風の力で加速しようとしたその時、前方に
(…何か仕掛けてくる!)
次の瞬間、地面から鋭く不透明な水晶が飛び出す。水晶を蹴り返すようにして直撃を避けるが敵の攻撃は止まらない。移動した先にも水晶が飛び出す予兆が見えた。
「逃げた先にも…!?」
風の力を使い間一髪の所で追撃を避けながら、なんとか物陰に避難する。
(こいつ、マニピュレーターじゃない! まさか…!)
「これくらいは避けきってみせるか。いやはや、魔操具使いというのはなかなかに面白いものだ」
水晶から感じるのは水のエレメントの流れ。しかし、これは普通の流れではない。水のエレメントに混じって何か別の力を感じる。
(魔術師…いや違う! この人は一体…!?)
「さて、どうした!さっきの威勢はどこにいったのかな!」
男がそう言い放つと同時に隠れていた壁にエレメントが集まる。
(視線を切っても無駄か…! なら!)
敵の攻撃が来る前に物陰から飛び出し、こちらも風の魔弾で反撃を繰り出す。しかし、予想は出来ていたが展開される水晶により全て防がれてしまう。
(やっぱり風じゃ火力が足りない…!)
腕の不調がなければここで火のエレメントの力を借りるが、今はそれをすることは叶わない。
「ふむ、なかなかの精度だが…私には届かないようだ」
(…上から来る!)
黒い流れが天井に集まる。次の瞬間、無数の水晶が上から迫ってくるが、風を利用して素早く移動することで直撃を逃れる。
「…なるほどね、どうやら君は珍しい力を持っているみたいだ。その能力なら私を見つけることも出来るだろう」
(…!!)
「だがそれならば…ぐっ!」
男が何か言いかけた時、頭を押さえてしゃがみこむ。もちろんそのチャンスを見逃すはずはなく、すぐさま風の魔弾を打ちながら接近する。
体勢を崩しながらも的確に魔弾を防ぐ敵だったが、こちらの接近までは防ぐことは出来なかった。
「もらった!」
勢いそのままに風の力を乗せた蹴りを叩き込む。腕でガードはしてきたが、男は防ぎきれずに大きく後退する。
「くっ…!」
「逃がさない!」
続けて追撃をしようとした先に感じるのはエレメントの流れ。
(二度は食らわない!)
水晶が出現する瞬間に合わせて跳躍し相手の頭上を越える。
「これで…終わり!」
そのまま風の力でむりやり軌道を変えてから追撃の蹴りを叩き込むと、男は攻撃を防ぎきれずに吹き飛ばされて床に転がる。
だが、敵はまだ諦めてはいなかった。膝を付いた男の周囲にエレメントが集まっていくのが見える。
「くっ…! こうなれば…!」
(まだ何か仕掛けてくる…?)
だが相手の行動はこちらの予想とは違っていた。彼は自らの周りに水晶を出現させて防御の体勢をとる。しかし、見方によってはこれで彼は動けなくなったようなものだった。
「…自ら檻を作るなんてね。堪忍した?」
「なかなかやるじゃないか…君の連れの青年もね。まさか向こうが苦戦するとは思わなかったよ」
「あの鎧…あなたがマニピュレーターではないならあれは一体?」
「なに、私の仕事仲間…それだけさ」
「…正直に話す気はなさそうね。抵抗しないなら手荒な真似はしないと約束するけど」
「そうだね…確かにこのままでは痛い目にあってしまいそうだ」
「もう分かっているとは思うけど、小細工しても私には通用しないから」
「…どうやらそのようだ。分かった、おとなしく外に出るとしよう。今の私では勝ち目はなさそうだ」
「…賢明な判断だね」
魔術に頼っていることからおそらくとは思っていたけれど、荒事は苦手のようだ。とりあえずこれで一段落だろうか。男が指を鳴らすと水晶にヒビが入る。
そして水晶が砕けるように四散した、次の瞬間。中から飛び出してきたのは…あの
「なっ…!!」
間一髪の所で鎧の剣撃は避けたけれども、二撃目は避けきれない。敵の拳が腹部に直撃してしまう。
「ガハッ…!」
強烈な一撃に意識が遠退く。なんとか食い縛ろうとしたが、鎧は私の首を片手で掴み持ち上げる。
「…そう、
「…はな…せ…!」
「人に何か頼むときは上品に、だ。もっとも、ここまで邪魔をしてくれた責任はとってもらうがね」
「ぐっ…!」
抵抗を試みるが、鎧の化け物染みた力からは抜け出すことは出来ず少しずつ意識が遠退いていく。
(…だめ…もう、意識が…)
諦めかけたその時、突然自分を捕らえていた手が離される。
いや…
「ガハッ…!! ゴホッ、ゲホッ!」
「おや…まさかこんなところで出会うとは」
何とか繋ぎ止めた意識で横を見ると、そこにいたのは見知らぬ人物。主に白をベースにしており、黄色と緑色の装飾が輝く鎧の姿。その手に長剣が握られていることは分かったが、顔は兜で覆われており見ることはできない
「退け。退かぬのならば斬る」
「ふむ…どうやら君のボーダーに引っ掛かる行為だったかな、
(…サバキ…?)
聞いたことがある。悪と認めた者を魔物でも人間でも問答無用で斬っているという…あのサバキ?
「そう睨まないでほしいものだ…分かったよ、おとなしく引こう。君とは敵対したくないからね。ではさらばだお嬢さん。また会うことがないように願っているよ」
彼の一言により暗殺者達は退いていく。さすがはここまで噂が広まっているだけのことはあるのだろうか。
「…えっと、ありがとう。サバキ…さん?」
こちらからお礼を伝えるが、彼は気にせずにそのまま私の右腕を掴み小さく呟く。
「機械の腕か」
「…!」
それだけ言い残し、彼はこの場を去ろうとする。
「待って! あなたは一体…?」
「…………」
何者なのかを教えて欲しかったけれど、私の質問に対して彼は何も言わずに姿を消してしまった。
(…不思議な人。それにガルが言っていた通り、どこか近寄りがたい雰囲気だった)
ひとまずは戻って二人に合流しようと建物を降りていく。すると入り口付近でこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
「レジーナ!」
「…二人とも、無事そうだね」
「はい…ってどうしたんですかその怪我!?」
「ちょっと派手にやられちゃったかな…」
そう言いながら近寄ろうとすると、ふらりとよろけてしまう。倒れる前にレオネスが受け止めてくれたから地面に転がらずにはすんだ。
「ふらふらじゃないか…一旦街の宿に戻ろう」
「そうだね…肩、借してもらうよ」
その後、二人の力を借りながら宿に戻る。そしてベッドに横になると同時に意識を手放すのであった…
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