第15話 港街スイムールへ
トリビュの街にて
トリビュに着いた後、拠点で一晩休んでから宿屋に向かい人形を届ける。時間を指定しているのは母親には内緒にしておきたいかららしいけれど…ちゃんと話せば理解してもらえたのではないかと考える自分もいた。
「さて、これにて依頼完了だ! まあ苦労の割には報酬が少ないのが気になるけどな…」
「そういうなジーノよ。今回は子供の笑顔が報酬としようではないか」
「うん…でもどうしてあの子達のお母さんは反対したんだろう? 大切な物だってちゃんと話せばもしかしたら…」
「…あんまり言いたくはないけどよ、金が関係してるんじゃねえかな。子供からすれば魔物の脅威が知らなかったのかもしれないけど、母親側からすれば危険な依頼を頼み込むわけだ。あの魔物と接触するならそれ相応の金がかかると思ったのかもな」
「でも…」
「まあ、価値観の違いかもしれぬな。なんにせよ、依頼は完了して子供達も笑顔になったから良いではないか」
「そうそう。いちいち相手の事情を考えてたらきりがないぜ? 俺達は依頼を受けて、終わらせる。いちいち相手の都合に首を突っ込んでいたら後で疲れちまうぞ?」
確かに依頼が生活に直結しているからそう考えるのもわかるけれども…すんなり認められないのはまだまだ甘いということだろうか。
「…そうだね、確かにそれも大切だ」
「だろ? なら早速ギルドで新しい依頼でも探そうぜ。割の良いやつが入っているかもだ。レオも大切な用事があるんじゃねぇか?」
「うん、レジーナと依頼を…ってまたからかってるでしょ。とりあえず僕達は…」
また二人にからかわれながらもギルドにたどり着く。中に入ると、そこには見慣れた二人の姿があった。
「ん? おう、フトーフクツの奴らじゃねえか。依頼の帰りか?」
「そうだよ、ガルさん。レジーナもこんにちは」
「…こんにちは」
「ガルさんこんにちはっす。ちなみに、レオの初依頼ですよ。いきなり子供からの依頼に目をつけたんで報酬は少なかったですけどね」
「ほう、初めての依頼を達成したのか。それなら今日は酒場で歓迎会といくか? 俺が奢ってやるぜ」
「おお、それは良いですな。久しぶりに拙者も羽を伸ばすとしましょうかな」
夜に向けて盛り上がりかけている会話に対して、抑えるように言葉を続けるレジーナ。
「…だめ。今日は依頼が入ってる」
「なんだ、依頼なんて受けてたのか?」
「さっき受けていたのがある。それをレオネスと一緒にこなす約束をしてた」
「なんだ、そうだったか…なら歓迎会は後回しだな。何の依頼かは知らんが頑張れよ」
「わかった…早速だけど、レオネスは大丈夫?」
「大丈夫だよ。じゃあ行ってくるね、皆」
「おう、楽しんでこいよー」
「…楽しむ?」
そのままレジーナと共にギルドの外に出る。彼女は楽しむという言葉に疑問を抱いていたけれども、ジーノのいつものやつだと話したら納得してくれた。
「ちなみに、どういう依頼なんだい?」
「…護衛。ドトールからスイムールへの道の途中にある灯りの交換をしたいみたい。ドトールで待ち合わせだよ」
「なるほど、簡単そうな依頼だね」
内容はわかったけど、これなら彼女一人でも出来るのではないだろうか。そんな考えが浮かんだけれども、強いとはいえ女性一人だと何かあった時に大変だからだろうと自分で納得しておいた。
(まさかジーノの言ってた通りじゃ…いや、そんなはずはないか)
馬の準備をした後にドトールに向けて出発する。港町スイムールには初めて向かうから、どのような景色が観られるのか少しだけ楽しみにしながら馬を歩かせた。
ドトールにて
街に着いたら依頼人が待っている場所に向かう。そこにいたのは自分と年が近そうな青年で、戦闘には不慣れそうな印象だ。
「…こんにちは。あなたが依頼人のカラルさん?」
「はい、こんにちは。あなた達が依頼を引き受けてくれた冒険者さん達ですね? 私はカラル、ドトールの街で商いをしている者です」
「僕はレオネスといいます。よろしくお願いしますね、カラルさん」
「…私はレジーナ。よろしくね」
「レオネスさんとレジーナさんですね、こちらこそよろしくお願いします。では早速ですが出発しましょうか」
依頼人と合流した後、そのまま彼に付いていくように街を出発してライトストーンの交換をしていく。取り付けに少し手間取っている様子から、あまり慣れてはいなさそうだった。
それでも道にある物を着々と交換していると、途中でカラルさんが僕たちに愚痴のようなものを話始める。
「いやぁ、それにしても助かりました。魔物が出没する中で一人は不安でして。用事もあったとはいえ父のうっかりには困ったものです。交換の当番を忘れていたから急いでやっておいてくれなんて…」
「そうだったんですね、ご苦労様です」
「ああ、こちらこそすみません…つい愚痴をこぼしてしまいましたね。次のやつで最後ですからささっと終わらせてしまいましょうか」
カラルさんが交換作業をしている時に、ふとレジーナの右腕が目に入る。手袋などを着けているから外からはわからないけれど、人間の手と同じように動くこの機械を一体誰が作ったのだろうか。周りに人がいないことを確認してから質問をする。
「ねえレジーナ。そういえばその魔操義手って誰に作ってもらったの?」
「…これは魔操具を作っているお店で特別に作ってもらった物。でも、これ自体の研究はもう中止されているみたい」
「そうだったんだ…じゃあそれを着けているのはレジーナだけなんだね」
「多分そう。おそらく体質の問題なんだろうけど…私はお世話になりっぱなしだね。これのおかげでいろんな魔法を扱えるし、普通の生活も送れるから」
表向きには風の魔操具使いとして振る舞っている彼女だが、その実は火、水、風、雷の四つ全ての属性を扱えるらしい。一人で魔物討伐の依頼をこなしているのは、その四属性を扱う戦闘方法を存分に発揮するためだからとも話してくれていたはずだ。
「僕も負けてられないね。もっと強くなって君との差を少しでも縮めないと」
「…うん、応援してる…でも、それならレオネスはニンジャにならないの? シシゴウさんはかなりの実力者だから稽古をつけてもらえば、もっと強くなれるかも」
「シシゴウみたいに? うーん、難しいかな。あの人は色々と例外な気もするし…」
改めて考えると魔操具に適正があるのは多くが女性で、それぞれが一つの属性を操ると言われているのに男性で四属性を使うシシゴウって凄いと思う。その分、扱う際の欠点も多いらしいけども…
「…それに僕はこの剣がいいかな。憧れの人に近づきたいから…なんて、自分勝手な理由だけどね」
「…私は素敵な理由だと思うな。それなら、きっと強くなれるよ」
話をしているとカラルさんが交換を終わらせてこちらに戻ってくる。
「おまたせしました、これで最後ですね。後はスイムールでちょっとした用事を済ませてからドトールへ戻るだけです」
「わかりました。それではスイムールに向かいましょうか」
そのまま道を進むにつれて潮の香りがしてきて、遠くに広大な海が見えてくる。
「あれが海…話には聞いていたけど実際見るとすごいですね」
「レオネスさんは海を見るのが初めてでしたか。なら私が用事を済ませている間に浜辺に行ってみてはどうでしょう? きっと素敵な景色が見られると思いますよ」
「いいんですか? なら浜辺に行ってみようかな…レジーナもどう?」
「…いいよ、行こう」
「ではまた後で。用が済んだらそちらに向かいますね」
町に入ったらそのままカラルさんと別れて、海が良く見える場所まで移動する。そこから見えたのは、遥か先まで広がる青い世界。水面では光が反射してきらきらと光っている美しい景色。
「すごい…きれいな青だね…」
「…そうだね。この先に
嵐の壁…沿岸部から離れた場所にあると言われているやつだ。この大陸を囲むように発生しているらしく、まだ誰もそこから先に行っていないと伝えられている。帝国では嵐の壁を突破するための研究もされているらしいけど、あまり良い報告は聞かない。
「嵐の先にはどんな景色が広がっているんだろうね。僕達の大陸と似たような所があったりするのかな」
「どうなんだろう…いつか分かるといいね」
そう言い終わった後、海を見ていたレジーナが改めてこちらに向いて話してくる。
「…そうだ、レオネスに見せたい場所があるんだけど付いてきてくれる?」
「うん?別に大丈夫だよ」
次に向かったのは浜辺の端。見た感じだと、景色などはあまり変わらない静かな場所だった。その場所で彼女は立ち止まった。
「レジーナ? ここがその場所かな」
「…うん。ここなら話しても大丈夫そう」
「話…?」
そう言ってこちらに振り替えって、こう続ける。
「…君の
その言葉を聞いた瞬間、ドキリとする。彼女は今、確かに僕の力と言った。つまり魔神を宿しているとばれている…?
「…僕の力について? それはどういう意味だい?」
なるべく動揺を隠しながら返事をしたと思ったのだけども、彼女には警戒が伝わってしまったのか慌てて修正してくる。
「あ、その…別にどうこうするわけではなくて…えっと…相談に乗れたらいいなって」
「…相談?」
「…うん、相談。実は私、生まれつきエレメントの流れが見えるんだ。だけど、あなたのものはどこか他の人とは違う。でもそれを誰にも話していない様子だったから、私で良ければ相談にって思って…」
見えるということは隠していても無駄ということだろうか…しかし、魔神の力とは気づいていない様子だ。
「…そっか。心配してくれてありがとう、レジーナ。でもこの力で困ってはいないから、大丈夫だよ」
「…本当に?」
「うん、本当。前にこの力でいろいろあったけど、今は落ち着いているから平気さ」
「…そっか、なら良かった。でも一人で抱え込まないってことだけは約束してほしい。私で良ければ、いつでも相談にのるから」
「わかった、約束するよ…レジーナは優しいんだね」
「…そんなことはないよ」
そういった後、義手を見ながら彼女は言葉を続ける。
「…私もこの体質でいろいろあったから。この腕やガル、他にもいろんな人達に出会わなかったら…間違った道に進んでいたかもしれない。だから放っておけないだけ…かな」
そのまましばらく二人で海を眺めていると、遠くからカラルさんがこちらに向かって歩いてきた。
「どうです、ここの景色はきれいなものでしょう?」
「そうですね…いつまでも見ていられます」
「私も同感です。ですがあまり長居していると日が暮れる前にドトールに戻れなくなってしまいますね…私ももう少し眺めたいところですが、帰りましょうか」
「もうそんな時間でしたか…では行きましょうか」
「ええ、この度はありがとうございました」
こうして依頼を終わらせた僕たちはドトールへの帰路につく。レジーナとの用事も終わり、その心遣いをありがたく感じながら戻るのだった。
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