第14話 遭遇
チカバリの森前にて
思わぬ形でリーゼラルと再開した僕達。それもそのはず、彼女もとても慌てている様子で正直申し訳なかった。
「レオネスって…もしかして、リゼのもごもご」
一人の騎士が何か言おうとした時、リーゼラルがその口を素早く押さえた。
「んー! むー!」
「こほん…えっと、どうしてあなたがここに…?」
リーゼラルの様子を確認したジーノが、なにやら予想通りみたいな顔をしながら話し始める。
「なに簡単な依頼中だ、落とし物を探すっていうな。困っている子供のためにどうしてもってこいつが言うから付いてきたんだが…もしかして立ち入りは許可されていない感じかな?」
「ええ、一般人が森に入ろうとしたら止めるようにも言われておりますので。ですからチカバリの森には入らないでもらえますか?」
「そうか…わかったよ、でも残念だなぁ。その子供達はもうすぐ遠くの故郷に帰ってしまうから、頑張ってお金を用意してお父さんの形見であるそれを探してきてほしいって依頼してくれたのに…でも、騎士様方がそう言うなら仕方がないか…帰ろうぜ、レオ」
「う、うん?」
(なんか話を誇張してないかな…あの子達のお父さんを勝手に亡き者にしてるし…)
わざとらしくとぼとぼと歩くジーノに付いていこうとすると、後ろから声がかけられる。
「…待ってほしい! あなた達は魔物の討伐にきたわけではないんだな?」
「そうだけど、誰も森に入れるなって命令なんだろ? それなら迷惑をかけたら悪いだろうし、俺達は帰るぜ」
「確かにそうだが…ど、同行ならば許可しよう!」
リーゼラルの口から予想外の言葉が飛び出す。子供の依頼だと知って、協力してくれるのだろうか。
「え…いいのかい?」
「ああ。だが、勝手な行動は許可しない。あくまでも同行だから、探し物が見つかりしだい帰るんだ。私は第二騎士団副隊長のリーゼラル、よろしく頼む」
「そういうことなら…ありがとうリーゼラル。こっちはジーノで僕はレオネスだ。後ろの三人もよろしくね」
なんだか相手の良心につけこむようであれだけど、ジーノによる迫真の演技?のおかげで依頼は続けられそうだ。
そのままリーゼラルの後ろにいる三人に挨拶をする。しかし、さっきからこそこそと話しながら見られている気がするのは自分の気のせいだろうか。
「よろしくね、二人とも! 私はアンジュっていうんだ!」
「私はドゥルミナ。よろしくね」
「ボクはトロワーゼ。まあ、よろしくだね」
「おう、よろしくな。それにしてもべっぴんさんばかりだな…さすがは騎士の華である第二騎士団だぜ!」
「改めてよろしくね。ジーノはまあ、いつもこんな感じだから気にしないで」
こうして、騎士の四人と一緒に森を捜索することになったのだけれど…まだ出てきていないシシゴウはどうするのだろうか。小さな声でジーノに聞いてみる。
「ねえ、ジーノ。シシゴウはどうするの?」
「あいつは単独で捜索だ。案外身軽な奴だから探し物を見つけるのにはあいつ一人でやるほうが早いだろ。なら、俺達はこっちを引き付ける役目ってわけよ」
「なるほど…何事もなく落とし物が見つかればいいね」
「だな。まあ、知らないままの方がなにかと都合が良かったとはいえ話さなかったのは謝っておくぜ」
「確かに相手の気持ちを利用したのはあれだけど…ジーノのおかげで森に入れたんだし大丈夫だよ」
そのまま六人で歩いていると、今度はアンジュがこっそりと僕に話しかけてくる。
「ねえねえ、レオネスさん。リーゼラルとはどういう関係なの?」
「どういうって…一緒に鍛練を積んだ仲かな」
「ええーそれだけ?」
「まあ、そうだね。リーゼラルは鍛練が終わったらすぐに帰っちゃうから」
「ははーん、なるほどね…教えてくれてありがとう!」
「えっと…どういたしまして?」
それだけを聞いて、アンジュは離れる。それが一体どうしたというのだろうか…
それからしばらく歩くと、何かが腐ったような変な匂いがしてくる。他の人達もそれに気がついたようで、騎士四人は渋い顔をしていた。
「うっへぇ…なにこの匂い」
「近くで何かが腐っているのか?ん、あれは…」
そう言ったリーゼラルの視線の先には、食い散らされた動物の死体が転がっていた。
「あれから…ではないね。あれはまだ殺されてから新しい…」
「…静かに。なんか近くにいるぜ…」
ジーノが静かに注意を促す。そのまま矢に何かを取り付けて、背中の弓を構える。
「気配だけ気づかれている感じか…なら、誘きだしてやるぜ…!」
そのままゆっくりと弦を引き、遠くの木に向かって矢を射る。すると、木に矢が刺さった瞬間に大きな音が鳴り響く。
次に聞こえたのは、何か巨大な生物が走るような音。すると、矢が刺さった場所に向かって生物が、ジャイアントボアが突っ込んで来た…!
「やっぱりジャイアントボアだったか…! いや待て、あれは…!?」
突進の衝撃で倒れる木をよそに、魔物はたいしてダメージを負っていない様子だ。しかし、驚くのはそこではなく魔物の姿の方だった。
それは体の肉が一部欠けている、異常な姿。その足は骨が見えているというのに魔物は平然と活動している。奴が通常のジャイアントボアと違うのは、明らかだろう。
「この匂いはあいつから発生していたみたいだな。だけどこいつはヤバそうだぜ…見たことのない、化け物だ」
「あんなやつがいるのに偵察の任務だと? 上は一体何を考えているんだ…?」
「どうするの、副隊長? 一応ボク達の任務はこれを報告して終わりだけども…」
視線がボアに集まる中、不意に何者かの気配を感じる。振り替えると、そこには複数のゴブリンの姿があった…けれどもその体は肉が欠けており、顔も崩れている。
「…けども、まずいね。どうやら囲まれているみたいだ」
「グギャラガァァ!」
ゴブリンがその声をあげると同時に、ボアもこちらに気がつく。
「全員、魔操具を展開! 来るぞ!」
「「了解!」」
掛け声の後に、魔物達が一斉に襲いかかってくる。飛びかかってくるゴブリンをそれぞれの武器で振り払った後に、ボアが自分達目掛けて突進してくる。それを僕とリーゼラルが左に、他の四人は右に避ける。
(木をなぎ倒すほどの突進か、食らったら一溜りもないな…!)
回避した直後にアンジュが腕を構え、機械を纏ったその拳を叩きつける。
「出力安定、食らえー!!」
行動の隙を付いて放たれた一撃。しかし、炎の拳が直撃した魔物はその肉が吹き飛ばされようとも怯みはしなかった。
「うそ、効いてない…!?」
「ぼさっとしてるな、また来るぞ!」
攻撃したほうに向き直り再度突進をする魔物だったが、アンジュをジーノが引っ張ってそれを回避する。続けてリーゼラルとトロワーゼがそれぞれの魔法を打ち込む。
「氷の刃よ…! 食らえ!」
「ウィンドブラスト!」
リーゼラルは鋭い氷を発射し、トロワーゼは風の弾を放つ。どちらもボアに直撃するが…相手は怯まない。体に氷が刺さろうとも、今度はドゥルミナに向き直り突進をする。そして、それを間一髪かわす彼女。
「くっ…! 敵に攻撃が通じない…いえ、痛みを感じていないとでもいうの…!?」
「お前達、奴への魔法は効き目が薄い! 魔操具を使用することでの体力の消耗は抑えるんだ、今は奴の突進をかわすことに集中しろ!」
(魔法が、いや攻撃が効いていない…? どうしたらあいつを倒せるんだ…?)
リーゼラルがそう指示した直後に、頭に直接響くような声が聞こえてくる。
『…聞こえるか、宿主よ』
(魔神…? もしや、あの魔物を知っているのかい?)
『ああ、おそらく奴の弱点は核である何かだ。先ほど額にそれらしき反応を感じた。それを狙えば倒せるかもしれぬ』
(狙うって、どうすれば…!)
奴の動きは早い。突進の硬直を狙うのも距離を離されてしまうから難しいだろう。どうにかして奴の動きを止めなければ…!
「うわっ、離せ!」
考えている最中に聞こえてきたのは、トロワーゼの声。その背中にはゴブリンが組み付いており、何とかそれを振り払おうとしている。しかし、ボアはその隙を見逃してはくれなかった。
「この…ウィンドブラスト!」
なんとか張り付いていたゴブリンを魔法引き剥がすが、その直後にジャイアントボアがトロワーゼ目掛けて突進を始めていた。
(このままでは彼女が危ない…!)
「トロワーゼ、避けろ!」
「…! しまった…!」
避けきれずに直撃すると思った瞬間、誰かが横からボアに向かって突撃するのが見える。それは、別行動しているはずであるシシゴウの姿だった。
「火遁…炎爆拳!」
ボアに右の拳で殴り、そのまま爆発を引き起こして突進の軌道を反らし転倒させる。その隙に、シシゴウは彼女の手を引いて避難させる。
「シシゴウ…! これは…今がチャンスかもしれない! リーゼラル、起き上がる時にあいつを氷で足止めできる?」
「足を…? 出来るかもしれないが、おそらく数秒だけだぞ?」
「数秒…それなら十分だ。それで任せた!」
起き上がる前になるべく奴との距離を縮める。決めるなら今しかないはずだ。
「おい待てレオネス! 一体何を…くっ、やるしかないか!」
起き上がった後、こちらに気がついたのか自分に向き直る魔物。その額には光る石のような物が見えた。
(狙うのはあそこか…!)
突進の準備をする奴だったがリーゼラルがボアに向かって地面を這うように進む氷を放ち、行動を阻害してくれる。その隙を逃さないように奴の額に目掛けて跳躍する。
「これで…どうだっっ!!!!」
そのままその額の石目掛けて剣を突き刺す。すると、その一撃により石は砕け散り…魔物は叫びながらその場に倒れる。
「グオォォォォォォ!!!!」
「…倒したのか…?」
そして次第に、魔物の体が崩れていく。やがてその体は原型を留めなくなり、何もなかったかのように消えてしまい…残ったのは核と思われる石の破片のみだった。それに、他にいたゴブリンの姿も見えなくなっている。
「レオ、大丈夫か!」
「うん、なんとかね。でもこいつは一体…」
「無事なら良かったぜ。でも妙な奴だったな…まるで痛みを感じていないような動きだった。シシゴウもナイスタイミングだったぜ」
「うむ。落とし物らしき人形を見つけて合流しようとしていた矢先に戦闘の音が聞こえたので駆けつけたが…もしや、こやつは…?」
三人で魔物について話しあっていると、リーゼラルが話しかけてくる。
「すごい…あの巨大な魔物を倒してしまうなんて。それと、その方は一体? 男性なのに魔法を扱えるとは…もしやそれは…?」
「拙者の名はシシゴウ、ニンジャを目指している者だ。本当は二人と共にいたのだが別行動をしていてな…騙すようなことをしてしまって申し訳ない。それとこちらの装備は自作だ」
「そうだったのですか…しかし先程はトロワーゼを助けていただき感謝いたします」
「えっと…ありがとうねシシゴウさん」
「なに、当然の事をしたまでよ。して、この件は騎士であるお主達に任せたほうが良いのだろうか?」
「そうですね。ギルドに報告して騎士団に伝えられるよりは、そちらの方が手間が少なくてすむでしょうから。後の事はこちらに…」
リーゼラルが喋っている途中に、アンジュがなにやら彼女の耳元で話す。その後にこちらとの会話を再開する。
「…おほん。とりあえず、後の事は我々に任せてもらえないか? あなた達は早くその落とし物を子供の元に返してくると良いだろう」
「じゃ、お言葉に甘えて帰るとするか! これなら子供達が帰る前に落とし物を届けられそうだな」
「だね。リーゼラル達も協力してくれてありがとう」
「礼には及ばない。我々はもう少しだけ周囲の調査を行おうと思う、三人ともいいな?」
「了解、副隊長!」
「じゃあ僕達はこれで。任務気をつけてね」
「そちらこそ、道中気をつけて」
ドトールへの帰り道
リーゼラル達と別れてドトールに戻る途中に、シシゴウが言いかけていたことが気になる。彼はあの魔物について何か知っているのだろうか。
「ねえ、シシゴウ。さっきなにか言おうとしていたけどあの魔物について知っているのかい?」
「うむ…集めた書物で見たような気がするのだが詳しくは思い出せないのだ。だから拠点に戻ったら確認してみようと思ってな」
「なーんかあったよな、それっぽいやつ。まあとりあえずは依頼を終わらせてからだな」
「それもそうだね。それじゃあ行こうか」
それからしばらくして、無事ドトールへと到着する。そのままトリビュに向かって移動を開始して、僕達は依頼人の元へ人形を届けに行くのだった。
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