第9話 行商人と共に
夜 平原にて
月明かりが照らす中、休憩を挟みながら馬を走らせる。
その途中で道の外れた場所に魔物を見たが、運良く襲われることなくハテチカ町に着くことが出来たのだった。
ハテチカ町 門前 朝
「これがハテチカ町…大きい…」
今まで村の外には出たことがなかったから、ある意味新鮮だ。しかし、門の近くには衛兵らしき人達が立っている。
(何も言われなければいいけど…)
そう思いながら、町の中に入ろうとする。しかし、横を通りすぎようとした時に案の定声をかけられてしまった。
「君、一人かい?」
「え? あ…はい。近くの村から届け物を頼まれて」
とっさに嘘をついてしまったけど、大丈夫だろうか。
「そうか。手伝い熱心なのは感心するけども、最近は魔物の動きが活発なんだ。帰りは行商人の人とかと一緒に帰るんだよ?」
「わかりました。教えてくれてありがとうございます」
どうやら、なんとかなったみたいだ。馬の疲労も溜まっていることだし、今日は宿で休もうと歩き始める。
「それにしても広いなぁ…っと、いけないいけない」
初めて見る町に少しわくわくするけれど、寄り道せずに今は宿屋に向かわないと思い直し、目的地へと歩き出すのだった。
宿屋
馬を繋ぎ場に停めて、中に入る。多分一人でいることを聞かれるだろうけど、これで大丈夫…のはず。
「いらっしゃい。ん? 君一人かい」
「うん。父さんとこの町に来たけど、急用ができたみたいでね。宿で1日待ってろって言われたから泊めてほしいんだ」
「なるほどねぇ、ここには馬に乗ってきたのかい? 馬も停めるんだったら少し料金が増えるよ」
「そっか…じゃあ馬も停めたいから、それでお願いします」
そう言って、お金を渡す。まだ余裕はあるから無駄遣いをしない限り大丈夫だろう。
「はいよ、じゃあこれが部屋の鍵だ。場所は二階の一番奥だよ」
「ありがとう、おじさん」
鍵を受け取って、二階に向かう。そのまま部屋に入り、ベッドに身を横たえる。
(さすがに夜通しは疲れた…少し休んだら馬のケアをして、今日は休もう)
そう思い、昼頃まで休んだ後に馬のケアを行う。その後は明日に備えて疲れを取るために、早めにベッドに横になった。
次の日
「…もう朝か…」
窓から日の光が差し込む。だけど、いつも聞こえてくるシャルの声が今日はない。
「…自分で起きてこそだよね」
目を覚ますようにそう言いながら、ベッドから起きて支度をする。おそらく、朝に出発すれば魔物に襲われることは少ないはずだ。
出発の準備が整ったら、次は鍵を返しに一階へと向かう。
「鍵どうぞ。僕の父さんは来てた?」
「どうも。君の父親っぽい人はまだ来てないかな」
「そっか、じゃあ僕は門の前で父さんを待つかな。部屋ありがとう、おじさん!」
「どういたしまして。君も気を付けるんだよ」
宿から出たら繋ぎ場から馬を離し、またがる。軽めの朝食をとった後、地図を見ながらドトール方面に出られる門へと向かう。
(ここから道なりに進めばドトールか…よし)
しかし、門の付近にたどり着き出発しようとした瞬間、後ろから声をかけられた。
「そこの君、ちょっと待ってくれ!」
馬を止めて後ろを向くと、小太りのおじさんがこっちに近づいてきていた。おじさんの後ろには用心棒と馬車があり、おそらくは行商人だろうか。
「君、一人で外に行くのかい?」
「はい。ドトールまで頼まれている物があって…」
「ドトールか。それなら、私達と一緒に行かないかい? 最近は魔物の動きが活発化しているから、一人だと危ないよ」
それは予想外の申し出だった。しかひ、見ず知らずの人に付いていって大丈夫だろうか。
少し不審に思っていると、おじさんは慌てて話を始めた。
「おっと、ごめんごめん。見ず知らずの人に付いていくのは普通は警戒するよね。えーと確かここに…あったあった」
そう言ってポーチから何か四角い物を取り出し、渡してくる。
「…ケディア行商協会証明書?」
名前の所には、『ショゼフ・エイブラム』と書いてある。その他にも色々と書かれてはいるけれど、何の事だかは分からない。
「そうそう、ちゃんとした行商人だから安心してほしいな」
正直、見せられてもよく分からないけれど…信用できる人なのだろうか。
「おい、ショゼフさん。子供にそれを見せてもわからないんじゃねえのか?」
ショゼフさんと話していると、今度は用心棒らしき屈強な体格の男性が近づいてきた。
「おお、それはそうか。ううむ、ではどうすれば…」
「とりあえず、来たくないのか、来たいのかでいいんじゃねえか? それが手っ取り早いだろ」
「そんな無茶苦茶でいいのかね!?」
「で、どうなんだ坊主? 来るのか、来ないのか?」
そのようなやり取りの後、僕に同行について訪ねてくる。なんだか悪い人達ではないようだから、付いていったほうが安全かもしれない。
「…わかった、僕も一緒に行かせてほしいな」
「よし、決まりだな」
「君がそれで良いなら、とやかくは言わないが…うむむ」
二人は馬車と自分の馬の元に戻って行き、出発の準備を始める。準備が整ったら門に向かってくるが、馬車の横にはもう一人、馬に乗った女性がいた。
(この人も用心棒なのかな?)
ローブを羽織っており顔はよく見えないけれど、きっとそうなのだろう。
「待たせたな、坊主。出発するぞ」
「うん、わかった」
後をついて行くように、僕も出発する。その道中で冒険者の男性が再び話しかけてきた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はガル。んでこっちの無愛想なのはレジーナだ。お前の名前は?」
(名前か…)
村でこの人達を見た覚えはないから、ここで嘘をついてもしょうがないかもしれない。なので、正直に名乗ることにする。
「僕はレオネス。よろしくね、ガルさん、レジーナさん」
「ドトールまでだがよろしくな、レオネス」
「…よろしく」
「へぇ、あなたレオネスっていうんだ!」
突然、子供の声が聞こえる。少し驚いていると、馬車の中から女の子が顔を覗かせてきた。
「私はカナン! よろしくね!」
「よろしく、カナンちゃん」
「こらカナン! 危ないからおとなしくしていなさい!」
「はーい、わかりましたー」
…どうやらこの子はショゼフさんの娘さんのようだ。でも、こんなに小さい子も旅に付いていっているなんて驚いた。
その後は雑談を交わしながらゆったりと進んで行く。ガルさんとレジーナさんは冒険者だけど、やっていることは何でも屋みたいなことらしい。
しばらく進むと、ガルさんが小さくこう言った。
「おっと、お前ら止まれ…敵さんのお出ましだ」
視線の先には、道をテリトリーにしようとしていたゴブリンライダーが三匹。僕も剣を抜いて戦闘に備える。
「ん、坊主も戦えるのか?」
「一応、鍛練は積んできたよ」
「そうか、なら一匹は任せたぜ」
ゴブリンライダーの一匹は横に回り込んできている。僕の相手はあいつだろう。馬から降りて、剣を構え直す。そして横に回り込んだと同時に、三匹は一斉に襲いかかってきた。
(大丈夫、教えてもらった通りに戦えば勝てるはず…!)
こちらに向かってくるゴブリンライダーはすれ違い様に攻撃を仕掛けようとする。戦いはこの対処からだろう。
(まずはこれをいなして…ウルフを狙う!)
ゴブリンの攻撃を弾いて、ウルフの足に蹴りを食らわせる。それによって体制を崩したウルフは地面に転がり、ゴブリンは地面を落ちる。
(よし、ゴブリンに追撃を…!)
転げ落ちたゴブリンに、素早く止めの一撃を食らわせる。
しかしそれは、今まで経験したことのない生々しい感触だった。止めと同時に魔物の首から血が吹き出す。
(うっ…これが、魔物を切る…いや、殺す感触…!)
初めて魔物を殺したことに動揺してしまう。しかし、その隙を逃さないかのようにウルフが飛びかかってきた。
「しまった! くそ…!」
ウルフに上に乗られてしまったが、なんとかその口に剣を当て凌ぐ。だけど、このままだとまずい。
(こいつっ、離れろ…!!)
そう思った、次の瞬間。突然上にまたがっていたウルフがおもいっきり横方向に吹き飛ばされる。まるで、強い風に打ち付けられたかのように。
「え…?」
吹き飛ばされたウルフは、そのまま動かなくなる。馬車の方向を見ると、レジーナさんが腕をこちらに向けている。さっきの技は彼女がやったのだろうか。
「…大丈夫?」
「あ…うん。危ないところを助けてくれて、どうもありがとう」
「…どういたしまして」
短い会話の後、馬車の近くに戻る。すると、ガルさんが笑いながら話しかけてきた。
「はっはっは、坊主! 鍛練は積んでいたようだが、まだ経験が足りなかったようだな!」
「むう…まあ、そりゃそうかもしれないけど…」
(ここまで大笑いしながら言うことはないと思うな…)
若干不機嫌になりながら話をしていると、レジーナさんがフォローしてくれる。
「…ガルは誉めてるんだよ」
「え?」
「ま、そういうこった。経験さえ積めばもう一人前くらいはあるのかもな。お前は騎士だか冒険者を目指しているのか?」
「うん、そうだよ」
「やっぱりな。冒険者になった時は同業者ってわけだ。なんか分からないことがあったらここを訪ねてこいよ」
ガルさんがそういうと、レジーナさんが小さな紙を渡してくる。そこには様々な情報と二人の名前が書かれていた。
「これは…?」
「俺達の拠点を記した紙、つまりは名刺だ。用事があったら来ればいいさ」
「ありがとう、ガルさん、レジーナさん」
…見た目は厳ついけれどガルさんは優しくて面倒見が良い人なのかもしれない。そう思いながら受け取った紙を懐へとしまい込む。
その後は馬車の二人と会話をしながら進んでいき、着々とドトールの町に近づいていく。そして、ついに街が見えるところまでやって来た。
「あ…! あれがドトールの街かな、ショゼフさん?」
「そうだよ、レオネス君。ようやく街に到着だ」
ハテチカ町よりもさらに大きな街、ドトール。そのことに心を踊らせながら、僕はその正門にたどり着いたのだった。
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