第6話 その力は、誰の為に 視点:グレイヴ
ハテノ村 襲撃地点にて
「なんだ…あいつは…?」
それは、突然現れた存在。生物と呼ぶにはふさわしくなく、魔物と呼ぶにはあまりにもかけ離れているような存在。そう、それはまるで…
「…まさか、神…魔神なのか…?」
マーサ達に近づいていた魔物達はその存在の威圧感に押され、後退りをして逃げ出そうとしていた。
しかし、その存在が魔物のほうを見て
「魔物達が一斉に…!?」
一体何をしたのか、自分にはまるでわからない。魔物を倒したその存在は、次にドラゴンガーゴイルの方を向く。ドラゴンガーゴイルもあれを敵と判断したのか、咆哮をあげ臨戦体勢にはいる。
そして、二体の怪物が戦いを始める。それは人間が入る余地などない、力と力のぶつかりあいだった。
「よく分からんが今がチャンスか…!」
ドラゴンガーゴイルの注意が逸れている間に四人の元に急いで移動をする。
「お前達、無事か!」
しかし、そこにいるのは三人だけ。マーサとシャルネ、アッシュだけだった。また、シャルネは恐怖から気を失ってしまっている。
「…レオは、どうした?」
それは当然の疑問だった。先ほどまで倒れていたレオがいないのだ。もしや魔物に、そんな考えも浮かんだが、アッシュの口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「隊長…レオが、レオがあの黒いのに…」
「なに…?」
今ドラゴンガーゴイルと激しい戦いを繰り広げている
「それは本当か、マーサ…?」
その言葉に、静かに首を縦に振るマーサ。
(…やはり、レオが…)
「…とりあえず、今は西門に避難するぞ。俺がシャルネを運ぶから、お前はマーサを頼む」
「は、はい!」
幸か不幸か、あれはドラゴンガーゴイルを敵と判断している。西門に送り届けるならば今しかなかった。
ハテノ村西門
「隊長、アッシュ、皆さん! よくぞご無事で! しかし、一体あの魔物は…!?」
「話は後だ、サイモン! 今ならゴブリン達は全員いなくなっている! あれがこちらに牙を向く前に避難するぞ!」
「わ、わかりました隊長!」
急いで西門を開けようとした、その時だった。ドラゴンガーゴイルが西門目掛けて吹き飛んできたのだ。その衝撃で門の片方も吹き飛ばされる。さらに、追撃するようにあの存在も向かってきた。
「まずい! 全員西門から離れろ!」
そう叫び急いで西門から全員を離れさせる。その直後あの存在が近くを通りすぎて行き、倒れているドラゴンガーゴイルに一撃、また一撃と攻撃を食らわせる。
そして、その容赦ない攻撃を食らっていたガーゴイルはやがて動かなくなった。
やがて動かなくなったのを理解したのか、その存在は攻撃をやめてゆっくりとこちらに向き直る。
(まずい、こちらに注意が向いてしまったか…!?)
そう思った、次の瞬間だった。
「グガッ…! ガァア…ァァァ…!」
その存在…いや
「…レオ…?」
「グガァァァァアァァァ!!!!」
まるで苦しみを叫ぶような咆哮の後、その体から黒いものが離れてゆく。
そして、黒いものが完全に離れた後にその場にいたのは…レオの姿だった。
「…レオ!」
急いでレオの所に行き、体を起こす。気を失っていたが、呼吸は安定しており命に別状はなさそうだった。
「レオ…無事だったか…」
「あれはどういうことだ…?」
「あの黒い化け物からレオが出てきた…?」
しかし、安心する暇などなかった。これを目撃した村人達から疑問の声が上がりはじめる。その疑問を押さえ込むように、俺はこう続ける。
「…皆さん、一旦落ち着いてください。もうすぐ夜になってしまいますから、とりあえずは東門と西門を何か別のもので補填するのが先決です。レオは自分の家で寝かせておきますので、新たな魔物がくる前にこの作業を急いで終わらせないといけません」
俺がそういうと、とりあえずは村人達は納得した様子だった。村人達が門の修理に向かって行くなか、サイモンがこちらに近づいてくる。
「隊長、さっきのは一体…?」
「…わからん。だが、今は門の修復が先だ。わかったな、サイモン?」
「…分かり、ました」
そう言ってサイモンも門の修復に向かう。アッシュもいつものような明るさはなく、門の修復に向かっていった。
家でレオを寝かせた後、俺も門の修復に向かった。その作業は深夜前には応急措置レベルまでにすることは出来た。
そしてサイモンやアッシュ、一部の村人が見張りをしている最中に、村の中に作った緊急のキャンプ地で村の人達による話し合いが開かれようとしていた。
村中央部 キャンプ地
「グレイヴさん、レオに一体何が起こったんですか…?」
「…申し訳ありませんが、私にもわからないのです。気がついたらあのような姿になっていたというのがこちらから言えることです」
「気がついたらって、そんな…」
「レオは捨て子だったんでしょう?なら何か魔物の血を引いていて、それが出てきてしまったとか…?」
「そうだとしたらまずくないか? 最近ワーウルフの被害にあった村の話も聞いたし…」
「でも村を助けてくれたのはそのレオとも考えられるでしょう? それに狼破草も煎じた薬を飲んだときに効果がなかったからワーウルフではないわよ」
「あの力はワーウルフじゃなくてもっと別の魔物じゃないか?」
「そうだとしたら、その力がいつ自分達に向くことか…」
「明日に新しい騎士様が来てくれるから、帝国に調べてもらうとかどうだ?」
「うーん…それもいいかもしれないな…」
やはり、皆不安がっている。それもそのはずだ、あのドラゴンガーゴイルを圧倒するほどの力を持つ、獣のような姿になったレオ。それがいつ暴走するかわからないというのだから当然だ。
しかし、帝国にレオを引き渡すのはまずい。もし自分の考え通りなら、あの力は…
「…皆さん、聞いてください。この件は明日まで時間をいただけないでしょうか? 帝国にレオを引き渡すとしても、本人やシャルネ、マーサの気持ちの整理もあります。それまでに私からこのことを話し合って決めたいと思うのです。どうでしょうか?」
「まあグレイヴさんがそう言うなら…」
「確かに、気持ちの整理も大切ですよね」
「そうだよな、経緯はどうであれグレイヴさんの息子さんだもんな…」
「ありがとうございます、皆さん。それでは今夜の見張りは私とアッシュとサイモンが交代でしておきますので、自宅で待機していてもらえますか?」
俺の言葉に村人達は同意し、各々の家に戻っていく。ひとまずはこれで大丈夫なはずだ。
「…さて、アッシュとサイモンにも話をつけてくるか」
あの力が本当なら、俺のやることは一つだ。それにはアッシュとサイモンに話をつけておく必要もある。マーサやシャルネにも話をしなければいけないから、シャルネが目覚めていればいいが…
(明日には新しい騎士がこの村にやってくる。ならば、今夜のうちに決着をつけなければいけないか…)
おそらく、朝日が昇るまでがタイムリミットだろう。
それまでに、俺はあいつの父親として見極めなければいけない。シャルネには辛いだろうかもしれないが…もしもの場合は───
───やるしか、ないのだろう。
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