I'm in love because I can't reach it.




例えばヘアアイロンが熱されるのを待つ瞬間。





音がしないから鬱屈していると自覚できる。

自覚できるからきらい。

その矛盾がやがて浅はかであると自覚する。

世は夜こそがリアルである。






だから私は、ワタシは。










「うっわ、」

「なに」

「また負けた」

「授業全然聞いてなかったね」

「今はキューケイ」

「ずっとゲームしてんじゃん」

「俺のこと気になる?」

「全く。フツーに嫌でも目に入る」







幼馴染はいつも雑多を具現したみたいに忙しない。音という音を集めに集めて固めたような、そしてやがて有形と化したみたいな、そんな人。




授業中窓際の私の席から左前を傍観していると、お構いなしでゲームをしているのが自然にみえる。画面を横にして、熱心に指先をスライドさせているのが。



無駄に顔がいいから人を無条件に寄せ集めてしまうが、当の本人にはなんの気もない。だからゲームが好きらしい。通じ合うものが何も無いから。






× × ×




退屈に流れるものは午前と似たような英文の羅列だった。読みあげなさい、そう言われたのは聞こえたけれど、退屈に退屈で返す意味がわからず狸寝入りを貫いた。私のできる抵抗なんてこんなものだった。





続く退屈を撫ぜるようにして、遠くからピアノがこぼれ落ちていくのが聞こえた。


ひたすら巻き物が唱えられていくような退屈の向こうに、絶対に見えたと思った。


シャーペン、スマホ、音漏れ、英文、エアコン、全ての生活音の向こうに溶けるようにしてそれは落ちた。宝石の粒がパラパラと落ちるのと、流れる音は重なる。




たまらなくなって立ち上がったら、教師がこちらを睨み、クラスメイトの視線がこちらへと集まった。天然記念物でも見るみたいだった。





×

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