第7話 魔の最北端

最北端の様子。

雪の国最北端。今日新しい命が産まれた。

最北端、それは年中雪に包まれた世界。一面真っ白な世界と真っ青な大空。

ただし、美しい絶景とは裏腹に途轍もない寒さと飢えがそこに住む生物を襲う。

年中雪、緑も無ければ水も無い。此処に住む生物は地下に深い深い穴を掘り地下で生活をする。

“速く、早く動け!”“後ろ!もっとしっかり荷物を運べ!”

そんな静かで誰も居ない地上が今騒がしい行列が歩いていた。

難民。

それは魔族との戦争で国と家族を失った者達の集まり。

服はボロボロ、体は痩せており誰もが苦しそうに自分らの大切な荷物を運んでいた。

寒さの為人々は時々倒れては道端へ捨てられていった。

難民の周りには肉食動物がうろつき、隙を見ては子供の一人や二人を攫う。

人々の悲鳴はもうない、ただうつろな目をして前へ前へ進んで行く。

弱ければ死んで強ければ生きる、ただそれだけの世界である。

“お母さん、あたい達どこいくの?”

“あなた達を安全な場所に移すの。私達はもう使い物にならないわ、だから希望をあなた達に託すの。”

“きいぼう?”

苦しい行列の中には老若男女全ての世代の人がいる、ただし強い者らはもう居ない。

勇者作戦。それは次世代の人間を育てる為の作戦で。成功させるには魔族に一番離れた最北端へ移動せざるを得なかった。

国総動員で次世代の強者らを護衛する為、自らの血と肉で道の獣を追い払い、安全な所で育てる。

次世代、それはセカンドと呼ばれ多くは強力な血縁を持った子供達の事。彼らは魔族と戦う為の訓練を受け、魔族を殲滅させる為に結婚させられる。そしてその内の最強の子供らが勇者の希望とされ重宝され育てられる。

“かあちゃん。足寒いよ..”

“我慢よ。”

“かあちゃん。お腹すいた。”

“我慢よ。”

ここに居る子供達の大半は飢えで死ぬ、だがそのような環境だからこそ逆境を生き抜く強者が現れる。

“ガルル…”

獣だ、又オオカミの群れがやって来た。しかも沢山。その数、数千頭。辺り一面を覆い尽くす銀色の毛は死と恐怖を意味していた。

“大変だ!銀狼王(ぎんろうおう)だ!この雪山の長の御出座しだ!”

老人一代にはこの最北端について知る者も少なくない。最北端には魔物がいる、大陸の魔族とは全くの別物のとある魔物らにより統率されている。それらの魔物は五種目、それぞれが五王と呼ばれた。霊狐、銀狼、白虎、金竜そして、唯一人間に友好的な種族、知袁である。これらの魔物は生まれつき独特な力を持っており例え当時の界者でさえ攻め入るのを拒んだ。そして此処は誰もが知らないそして誰もが恐れる魔の地と化した。此処の魔物のレベルは不明な物が多く数多くの人や魔族を葬って来た。

“我の名はミレア.フロンテ。知袁族の長の娘、未来この地の主となる女だ!此処に居る者には誰にも触れさせない!”

顔は若く人間の子供のような少女は長い手足と、まるで雪の棒のような真っ白な尻尾を腰に巻いていた。まるで白い猿の着ぐるみを着た少女のようだった。

知袁一族、それはギルド連邦が長年良き交易を施している数少ない魔族である。

魔族と言っても全てが悪ではないと人も知っているが、正直通信も無い今回は偶然と言っても過言ではない。

“共に北に住む同胞よ、今回は我が知袁一族の面に置いてこの者らを此処へ置いてはくれぬだろうか。”

彼女は北の国の言葉で銀狼族と会話した。

“我々は領地を守るだけだ、人の者らは我らを狩り我らは怯える。今立場が変わっただけだ。”

銀狼王、それは銀色の毛並みをした三目のオオカミの化け物。彼は銀狼一族の事を誰よりも知り誰よりも人間を嫌う。人は獣を狩りそれらを食す。それは全ての生物と同じ。ただし銀狼一族は毛皮と血だけの為に人々に狩られた。彼らの強き力、それは長年人間との交戦により自然と身に付いた物なのである。

“屈せよ、我ら知袁の盾にでもつくのか!”

明らかな殺気を感じ怒りを現にするフロンテ。銀狼は狼だ。もし弱みを握られれば例え知袁であろうとも殺される。


“黙れ小娘、たかが知袁の跡取りが何を偉そうに!”銀狼王の側近が怒りの唸り声を上げる。強者が生き弱者は死す、それは氷の大陸で長年生きて来た者の共通点だ。

“あのお!…け、喧嘩は良くないよ、フロンテさんに銀狼王!”

争いが始まろうという頃に一つのか細い声が人群れから出た。

それは黒い髪の毛をしたやせ細っている少年。その傍には五人の子供が震えながら立っていた。

“ほほう、面白い。まさか人間に我ら北方の言葉を喋る者がいるとは。”

面白そうにその六人を見る銀狼王。周囲の銀狼も興味深そうに見つめる。

“…この六人が例の子供らか…流石ギルマスが認めるだけあるな。…”ミレアフロンテも攻撃を止めた。小さい子供らだが彼女には感じる、この子供達の潜在能力は此処に居る自分ら王族と変わりはしないと。

“銀狼。フロンテの娘よ。”

それと同時に天空から巨大な金色の大蛇が横切った。大蛇は大きく例え巨大な銀狼王でさえまるで子犬のように見える。

大蛇は空を横切り、空一杯の金の髑髏を巻いて衆人の真上に立った。

“これは、金竜王の側近金閣殿ではないか!何故頂点で有る金竜(そなた等)が。まさかこの人間らの為に!”

“ちがう、かつ正解でもあろう。”

金竜は空を静かに舞いながら答える。その言葉には此処に居る絶対的な存在と権力を表す。

“今は界者が目覚めた。世界が荒れるのも当然、犠牲も当然。ただし、人間には界者を殲滅させる任務が有る。そしてその任務が我々金竜にとったら重要だ。だから保護するよう命じられた。

ただし、そなたの意思も解かっておる。領地を分けるのは命を分けるのも同然。

我らは神族、程序を守るのは当然の役割。

フロンテ一族は長年人間との善良な関係を結んで来た、今さら断ち切ろうとも出来まい。

今そなた等銀狼が此処に居るものを皆殺しにすればフロンテ一族との交戦も考えた方が良い。それはお互いに嫌な結果であろう。

だからこそ約束が必要だ。

人間はフロンテ一族の領地以外足を踏み入ってはならぬ。踏み入ったならこの契約はその人には通じない。そして、フロンテ一族には我ら金竜から新しい領地を一個渡す。そこに人間は住め。そして魔族の対戦に向け準備せよ。”

金竜はそう言うと去って行った。

“そうか。ならば仕方あるまい。”

残された金色の光をしばし眺めた後、銀狼王は背を向けた。

“ふう…”

去って行くオオカミらの姿を見て多くの人はそのままへ垂れ込んで生きた心地を取り戻せた。

“金竜神に感謝、そしてフロンテの王女に感謝。”

難民らはこうしてフロンテ一族の元へ無事送られたのであった。

ただし人の手ではなく魔族の手により送られたのである。

一体主人公はいつ目覚める?

そしてこの判断は果たして吉か?凶か?

続きは

第八話

戦況の落ち着きと新たな風潮

まで。

~世界がもし全てが生死によって繋がるとしたら~

七話最後までお読み頂き誠に有難うございました。


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>作者からの一言。

醤油って放置したら雪みたいな結晶が出るんだな…しょっぱ!!

*賞味期限切れの醤油がぶ飲みはいけません。くれぐれもカイサンのマネはしないように!

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