第2話 神殿の乱と心の違い
転生、それは魂の一生を終え、新しい一世を迎える儀式。
死神の手を離した先には、薄暗い実験室が続いていた。
知らず知らずに、機械の中に入れられ。
無意識のうちに、私は緑色のカプセルらしき容器に包まれた。
転生する者は必ず魂からこうして加工されるようだ。
運命だろうか…
私は、まるで一列一列の薬品のように並ばれた私と同じような者達の間をすり抜けて一番先に立たされた。
私はその時数万も有る魂の中で一番小さかった。
私達の心の希望は誰よりも大きく、誰よりも心を躍らせていた。
けど、声出ない私達は一番静かだ。
静かすぎて、まるで今にも消えそうだ。
“ガシャン…”
小さな音がする。
“ム?”
私は、急に不安な気持ちに包まれた。
理由は簡単、悲鳴が聞こえたからだ。
魂は繋がる。
心は通じ合う。
だから痛みはもっと解る。
“ギギギ……”
“何か違う!”
その時私はようやく危険を察知した。
だが、何も出来ない。
動けない。
喋れない。
ただ無数の絶望と恐怖が、音と共に弾け、散っていった。
“ガシャン!!!!”
凄い地響きと共に巨大な住が空から降って来た。
“なに!なになに!!ここから出して!出して!”
真っ白な頭がさらに真っ白。
動けない緑色のカプセルの中、私は確かに人影が走る音が聞こえる。
混乱だ。
私は混乱に陥ってしまった。
恐怖。
それは、混乱を招く物。
そして、混乱した者は。
事を理解する。
“死んでいる、皆死んでいる!!”
何かが割れる音、何かが潰れる音。悲鳴、罵倒、騒ぎ。
無念の心が次々と黒い霧となって宙へ舞う。
何が起きているのだろうか。
急すぎる展開に、私はただ本能に逃げようとする気持ちでいっぱいになった。
…私が道で見たのは全て死んだ同胞が流した血だったのか?ここは罠なのか?すべてはどうなってるんだ!…
“#$%&’()(’&%$!!!”
次々と柱につぶされる同胞を見て、私は悲鳴にならない声で叫んだ。
けど、誰もいなかった。
絶望、それはまだ早い。
だが、希望の心を壊すのは。
それで十分だった。
“やっとだ、あの女の魂に感謝しないとな。”
その時。
神殿内、あの男が立っていた。
男は死神では無い。
人々の知らない修羅場を経験した彼は、今こうして目標を達成しようとしてた。
三千万年も待った修羅場の道を。
そして、周りには数百もの剣や槍を持った。
黒い兵士らが彼を取り囲んでいた。
彼らの顔には、恐怖、恐れ、そして妬みが有る。
…先は悪いことをしたな。ただし、そうしなければこいつらを消す事も出来ない。そしたら、三千万年も待ったかいが無い。…
男は無情の運命に少々罪悪を持つが、所詮は変えられない物。
驚きも無ければ恐怖の微塵すらない。
むしろこいつらの事よりさっきの魂に悔いが有る、それが彼の本音だ。
しかし、運命は彼の迷いを許しはしなかった。
“悪魔!神殿に現れるとはいい度胸じゃないか!皆の者、生け捕りにしろ!”
髭の生えた中年神兵が大きく叫ぶと、皆一斉に武器を抜いた。
黒の勢力。
彼らはずっと傲慢に満ちていた。
三千万年もの間、この神殿をわが物顔で歩いてた彼らは自然と元居た主の恐ろしさを忘れていた。
理由は簡単。
元悪魔だった彼らにとって神は悪魔。
彼らが死ねば、自ら神と名乗ればいい。
こうして偽りを突き進んで行った全てを今更変えられはしない。
そして此処での絶対的な武力と兵力で、全てはひれ伏した。
だが、たった今招かざる者が神の力を見せたのだ。
例え男は何を持ってなくても、鋭い槍と剣で彼を殺そうとする。
殺せば奴の力を奪い、全てを自己の為に利用する。
例え、相手が誰であろうと。
力で伏せれば、悪で伏せればいい。
だが。
“フフッ、お前らごときでか?この元元帥の私に?”
男は慌てるどころか,軽く嘲笑った。
“げんしい?ブハハハハハ!!”
中年神兵は将軍の如き大笑いをする。
周りの兵士もそれと共に笑う。
“元始の天神、竜神と言えばわかるのかな、つまらない低能が。”
彼はまるでまるで馬鹿を見るような周囲の目を見て眉をひそめる。
かつて、この名を聞けば無数の尊敬と奉仕を得る彼。
今になれば全てはまるで阿呆の名。
聞けば笑われ、言えば馬鹿になる。
“黙れえい!青臭い小僧がでしゃばるんじゃねえぞ。
此処は神の所だ!私達は神なのだ!
お前は神を侮辱するとは良い度胸じゃねえか?”
周囲の
そして、真剣が飛び交う中素手で彼らの頭。
あの中年神兵を捕らえた。
そして軽く一捻り。中年は息を絶えた。
“き、貴様!!”
驚いた兵士は剣を振り。
斬首を試みるが全てが水の泡。
意味が無かった。
早い、そしてとんでもなく速い。
弓矢だろうが、鉄屑だろうが。
彼の目の前ではまるで歯が立たない。
“ウワア!殺さないでくれえ…!”
戦う兵士は徐々に少なくなり、震える少数人になってしまう。
だが、それでもこの男の怒りは収まらない。
“全ては無駄だ。当時貴様らが神殿を荒らした時、そこにいる人の命をいつ大切にしたというのかね?今もそう。そこに集めた数万もの魂、たかが貴様らのような馬糞にもならん糞どもの為に命を絶つのか!”
彼はそう言い、顔に隠してあったフードを破いた。
そして、その顔を見てすべての兵士はすぐに解った
…彼らの死因を。
時を遡る事数分前。
私は、緑と黒の液体の淵に転がっていた。
“き、貴様!!”“ウワア!殺さないでくれえ…!”
門外の騒ぎは続く、時折あの死神らしき笑い声が聞こえる。
声はもう出さない。
どうせ出しても早く死ぬだけ。
意識は強い。
恐怖も強い。
だが、全てを出し切ってしまえば無いも同然。
無の心になってしまった私はようやく落ち着いた。
死ぬのは嫌だ。
けど回避できないのに馬鹿みたいに叫ぶのも嫌だ。
いっそ運命に任せればと思った。
そしたら生きていた。
ただそれだけである。
“ハアアアアア!!”
門が破壊される音と共に、すごい爆風が起き、私は飛ばされた。
“あ!”
迫りくる壁を見て私は一瞬思考停止に包まれた。
もしこの容器が割れれば、例え魂でさえこの世から消されてしまう気がした。
そうなれば本当に、何もかも終わりだ。
“死にたくない!来世を生きたいんだ!”
私はそう必死で叫び、気を失った。
“目覚めたか。”
静かになった。
あれほどたくさんいた魂も、騒ぎも。
全て消え去ってしまった。
暗闇はいつの間にか消え。
無数の星空がまるで水面の上みたいに、平らな地面に反射している。
そして、死神のあの目が私を見てた。
話す力が無い、例え今彼の膝の上に居ても。
不思議と、不安が消えていた。
だが、安心とは程遠い。
ある意味では凄く緊張していた。
“事情を説明しなくてすまない、私のせいだ。”
彼は星を眺めながら話した。
暗くて彼の顔はやはり見えなかった。
だが、瞳は空を見てる事を伝えている。
“此処にいるのは…いや。かつていたのは、神殿を裏切った罪人だ。
私は彼ら、彼らの所有物と共に全て…殺し。
全て無に返さねばならなかった。
そうしなければ、死んだ天族に会う面が無い。
彼女にも…だ。”
彼はそう言い私を見た。
その眼は暗く、生気が無かった。
私は悟った。
自分は騙されてたと。
全ては嘘で、全ては偽り。
ここに居る魂、私を含めて全て家畜のように飼育され。
さっきのように黒い栄養分として此処に住んでいたモノらの食べ物になっていたと。そして彼も私を殺す、理由は家畜として最後の尊厳を保たせたいためである事。
正直、恨みたい気は有った。
けど、事実上一番のやり方は此処を全て無へ帰す事だ。
私に何が出来る?何も出来ない。
“そなたも察したであろう。私は、そなたを殺そうとしたと。だが…おい。”
“…”
私は起き上がろうとした、そして話したかった。
けど悲しみで声が出なかった。
動けはもっとできなかった。
“最後まで聞け。
…聞いてくれ。”
私の悲しみを感じ彼は少々慌てた。
“けど…まあいい。
そなたはここに居るべきではない。
私もそうである。”
彼はそう言い私と目を背ける。
“私はそなたを放っておけなかった。
そして、私も有る意味で必要だ。
そなたの事が。”
此処にいては、いずれ彼じゃなくても。
誰かが必ず私を殺す。
だから彼は私を連れ出す。
そういう事だろう。
“私はそなたを傷つけない。
だから、一緒に付いてくれ。”
私の唖然とした様子を見てまるで焦るように喋る彼。
“....何で私は殺さないんですか?”
まるで子犬のように担がれながら、私は再び聞いた。
体力はまだ回復してない。
だがそれ以上に理由を知りたい。
“さあな。
お前の魂の笑顔が忘れられないからかもな。”
“答えになっておりませんよ。”
“仕方ない事だ。”
素っ気ない返事をした後。
彼はしゃべらなくなった。
果たして後悔してるのか、それとも何なのか。
彼は私を持ちながらでも体は俊敏に空間の間を走って行った。
そしてなぜだろうか、魂のはずなのに彼の温度が伝わってくる。
“これから、どこに行くんです?”
“…異世界だ。”
私がさっきの質問をしないと見て少々警戒ぶって彼は答えた。
“ハ?”
私は一瞬固まった。
けど、今この空間にいる事を考えると。
もう何でも有りみたいに思えてきた。
とにかく、生きるチャンスをもう逃したくない気持ちだ
…心の悲しみは放っておいて。
“道は少し長い。私の罪滅ぼし代わりに又少し話を聞いてくれないか?”
彼が言い訳をするのは聞いた方が良い。
どうせ暇だ。
話は良い暇つぶしだ。
改めて考えるが。
この死神。
さっきの焦りと言い、初めて会った時とは少々違う。
私は黙って頷き、静かに聞いた。
“私はずっと囚われていた。三千万年前にとある大罪を犯して、界から罰を受けてな。それから長い月日を得て、此処へ来た。実は、その…あれだ、実はもう私にはこの空間を自力で出ることは不可能だ。私はもし魂と異世界に同時転送するのであれば離脱する可能性が有ると聞いた。そなたは殺されてはいけない。だから、そういう事だ。又…そなたを利用する事になるが。”
彼は、黙った。
顔が赤くなったようにも感じた。
“つまり…又もや私を利用したっていう事ですか?”
再び聞いてみた。
なんか嫌を通り越して彼が焦る所が面白く感じる。
“す、すまない。”
“....”
焦る彼を見て私は又黙ってしまった。
どう答えればいいのだろうか。
彼の立場になって考えよう。
もし私が三千万年も憎しみの心に閉じ込められていたら?
きっと発狂しているに違いない。
私と話す時彼は理性は保っている。
そして、理由の中に私が逃げられない転生と言う利益も入れる。
その点、彼は凄いと思う。
だけど人の許可なく他人を自己に利用するのは性格が乏しい。
けど、もし、もし全てがそうだったらなぜ自分に打ち明けるのか?
正直不思議だ。
“何で教えてくれるんですか…利はあまり見られないけど?”
“....分からん。たぶん万年も喋っていないから気でも狂ったんだろう。”
“…それは災難でしたね。”
結果論としては、悪意は無かったようだ。
私が命を落とす前に救い、。の事情を説明する為私が起きるまで待ってくれた。
それだけで話はつく。
けど、隠し事が感じるのは何故だろうか…私は分かりはしなかった。
道は長い。
今日も、黒い煙が舞う星空の下で我々は走る。
果して異世界で私を待つのは吉か?それとも凶なのか?
続きは
第三話
旅立つ白鳥と黒稲妻
まで。
~世界がもし全てが生死によって繋がるとしたら~
二話最後までお読み頂き誠に有難うございました。
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>作者からの一言。
応援ありがとう!!
頑張るぞー!!!
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更新は
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