二人のピアニスト

バブみ道日丿宮組

お題:嘘のピアニスト 制限時間:15分

二人のピアニスト

 彼女は秘匿しておかなくてはならない。

 だから、かわりに僕が表に出る。それはいつものこと。

「えっとそうですねーー」

 本物が知ってることを偽物は知らない。

 知識と、知恵はまるで違うもので、僕は知識だけでインタビューなどの情報誌に答えてた。あってるあってないなんて構わず口にした。

 実際に軽くピアノがひけるからよかったものの、まるでわからなかったらこんなにも長い時間持たなかっただろう。

 僕は偽りのピアニスト。

「わかってます。それが狙いでやってました」

 けれど、偽りはいつか必ずバレる。

 10年持たせた。

 長い時間かけて彼女の心を開いた。あとは彼女が選択するだけだ。

「それじゃ、これでーー」

 僕は追求から逃げるようにタクシーへと向かう。

「……」

 その中には彼女が先に座って待ってた。

 じーと見つめてくる彼女は人形のようで、幻想的だ。

 僕が手をのばすと、彼女も手を伸ばして掴んできた。

 そうして、僕もタクシーに乗り込み、家の場所を運転手に告げる。

「……」

「今日は新しい先生に会ったんだ」

 タクシーの中で今日起こったことを彼女に伝える。彼女は相槌をうつだけで言葉を作らない。

 幼い頃から彼女はほとんど口を動かさない。

 特別な病気だとか医者がいってたらしいが、僕は違うと思う。

「……」

 彼女は……必要なときは声に出してくれる。

 それは僕と二人っきりの時、主に夜に言葉にしてくれる。

 アレをしてほしいとか、アレが欲しいとか、願望が主に彼女の口を動かす。

 いろんな要求をこなして、彼女は音楽を作る。

 僕にはない知恵を使い、新しい曲をひく。

 僕はそれを自分の曲だとうたい、世の中へ出す。

 そんなことを考えてたら、家の前にタクシーが到着した。

「……トイレ」

 家につくと彼女は口癖のようにいう。

 とことこと歩く彼女は子犬のように可愛い。

 僕は彼女が戻ってくる間に晩ごはんを作ることにした。

 彼女のトイレは凄く長い。実際に要件を済ますときは凄く短いのだけど、でかけて帰ってきた時は違う。彼女は夢の世界へと意識をダイブして新しい世界を脳に作り出す。

 そうして失った体力を僕の料理が補完する。

 ご飯を食べながら楽譜を書くのはやめてほしいとは思うけど、それも彼女という1パーツなんだと思うとずっと眺めてたいと思う。

 これが僕と彼女の関係。

 いつか終わるかもしれない物語を僕たちは歩み続けるーー終わらないことを僕が祈りながら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人のピアニスト バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る