第41話 夜は更けていく
◇
カナエと別れてから、僕は自室へと帰ってきた僕は、軽くシャワーを浴びてから冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを取りだし、中身を一気に飲み干した。
シャワーを浴びる前にスイッチをつけておいたため、部屋は適度に冷やされてシャワーで火照った体を冷ましてくれた。
体は疲れ切っている。すぐにでもベッドに潜り込み、朝までぐっすりと眠ってしまおうとも考えたが、その時、自分がひどく腹ぺこなことに気がついた。
他の人がどうだかは知らないが、僕は空腹だと熟睡ができないタイプの人間だ。
空腹ってやつはどうにも良くない。知り合いに、満腹になると集中力が無くなってしまうからと、昼休みに昼メシを食わない奴がいる。
僕から言わせてみれば、空腹で仕事をする方がどうかしていると思う。
腹が減っては戦は出来ぬ。
古い格言にもあるように、人間空腹ではまともなパフォーマンスが発揮できないものだ。
そんなわけで、僕はこの厄介な空腹を満たすために、簡単な夜食を作ることにした。
冷蔵庫を開けてみると、あまり食材が残っていない事がわかる。
今から食材を買い足すのも面倒だ。あり合わせのもので何とかするしかない。
幸いにも卵とパスタと……何枚かのスライスチーズが残っていた。卵が残っていたのはありがたい。卵さえあれば、幾分かまともな食事が作れそうだ。
パスタを茹でるために買った、大きなパスタパンにたっぷりの水を入れ、ガスコンロの火にかける。
一食分のパスタを湯の中に入れ、規定の時間が過ぎるのを待つ間。小さめのフライパンを取りだし、オリーブオイルを引いて火にかけた。
冷蔵庫から卵を二つ取りだし、十分に熱されたフライパンに割り入れる。少し熱を通したあと、少量の水を入れ蓋をして蒸し焼きにした。
出来上がったのはシンプルな半熟の目玉焼き。それを二つに分けて片方を皿に取り分けた。残った半分をフライ返しを上手く使って、フライパンの中で細かく砕く。
茹で上がったパスタを卵の入ったフライパンに入れ、小さく千切ったスライスチーズと供に混ぜ合わせ、塩胡椒で味付けをする。
出来上がったパスタを皿に盛り、別の皿に取り分けておいた半分の目玉焼きを上から乗せて完成だ。
イタリアでは「貧乏人のパスタ」と呼ばれる料理で、材料や行程はシンプルながら、非常に旨い。本当はニンニクもあると良いのだが、即席で作るのならこんなものだろう。
出来上がった熱々のパスタをフォークで巻き、一口。卵とチーズの旨みがパスタに絡まって非常に旨い。
ガツガツとパスタを食べながら、僕はカナエの事を考えていた。
年齢に似合わぬ、酷く疲れた横顔。今から家に帰るのだとは思えぬ、トボトボとした足取り。闇に消えていく背中……。
僕とカナエは、互いに名前を知っているというだけの他人だ。彼女の悩みなんて知るはずが無いし、そこに踏み込んでいく権利も無いだろう。
僕と彼女は、友人となるにはあまりにも年が離れすぎていたのだ。
パスタを食べ終え、空っぽの皿をボウッと見つめる。
明日も早い。もう眠らなくては……。
皿を片付け、歯を磨きながら、僕は窓辺に歩み寄り、カーテンを開けて外を眺めた。
窓硝子越しに見える夜空には、銀河鉄道どころか、やはり星すら見えなかった。
◇
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