第21話 寝坊



 強烈な喉の渇きを感じて目を覚ます。


 ゆっくりと覚醒する意識。カーテンの隙間から差し込んだ光が僕の顔を照らしていた。


 起き上がり、時計を確認する。そこで初めて、自分が昼過ぎまでぐっすりと眠り込んでいたらしいと気がついた。


 朝の9時にセットした目覚まし時計は、無意識のうちに止めてしまったらしい。


 珍しい事だ。僕はどんなコンディションの時でも目覚まし時計の音で起きなかった事は今までに無かった。よほど疲れていたのだろうか?


 久しぶりに長時間眠ったせいか、コンディションは良かった。いつもの習慣でコーヒーメーカーのスイッチを入れつつ、喉の渇きを癒やすために冷蔵庫を開け、中からミネラルウォーターの500ミリペットボトルを取り出す。


 キャップを開け、よく冷えた水を喉の奥に流し込んだ。


 水はゆっくり飲まなければならないと、どこかで聞いたような気もする。しかし、砂漠のように乾ききった喉に、一気に冷たい水を流し込む快感は何物にも代えがたかった。


 一気に500ミリの水を飲み干すと、まだ少し物足りなく感じた僕は、もう一本500ミリのペットボトルを取りだして、冷蔵庫から離れた。


 手元のペットボトルから水をチビリチビリと飲みながら、カーテンを全開にする。


 どうやら今日も良い天気らしく、真昼のギラギラとした陽光が部屋の中に一気に差し込んできた。


 あまりの眩しさに目を細めた。


 締め切った部屋から一気に昼間の世界に移り変わると、適応するまでにしばらくの時間がかかるらしい。


 常日頃から早起きをしている僕にとって、それは新しい発見だった。


 朝の支度をしていると良い香りが部屋中に広がる。出来上がったコーヒーをマグカップに注ぎ、取り急ぎ適温にするために冷凍庫から氷を二三投入した。


 熱々のコーヒーの中に、あっと言う間に解けていく氷の欠片。ズズッと啜ると、わずかにぬるくなった安もののコーヒーが口内を満たした。


 カフェインの影響かプラシーボか、やっと思考がハッキリする。


 今日も特にやることは無い……何をしたら良いものか?


 そんな時、ふとカナエの顔を思い浮かべた。


 「またね」と彼女は確かにそう言った。もう一度あの公園に行ってみるのも良いかもしれない。


 僕はマグカップのコーヒーを飲み干すと、出かける準備を始めるのだった。





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