第14話 夜営と、昔語り
小休止を終えた二人が再び探索をはじめ、2階へ降りる階段を発見したのが数分後。2階も未だ魔物の配置が完了していないらしく探索は順調すぎるほど順調に進み、時計の針が夜を示すころには3階への階段を発見した。
「もう外は日が落ちたころだろうね。今日の探索はここまでとして、3階以降は明朝からだ。マルーイ、キャンプの用意を頼むよ」
「了解しました、ジャン師」
ジャンの指示でマルーイは手近な小部屋を制圧して野営の準備をてきぱきと開始する。
ジャンはその間小部屋の入り口を守りつつも、マルーイの手際には舌を巻いていた。二人はゆうにはいれるテントが組みあがるまで、およそ5分と掛からなかったことからも、その手際の良さがうかがい知れるというものだ。
「"土よ鋼と化せ 万物を阻む檻となれ"」
「ジャン師、お見事です」
「君の手際も相当だよ、マルーイ。誇っていい」
ジャンは微笑んで山刀を鞘に戻すと、マルーイが用意した携帯簡易かまどに火を入れ、鍋の中に水を生成した。魔法使いがいれば水に困らないで済むというのは大変重要で、マルーイが何リットルもの飲用水を持ち歩く必要が無いのはそのためだ。
さて、昼は簡素だった分、夜は少しばかり豪勢にいく。
マルーイは
「マルーイの
ジャンは
「収納方法にコツがあるんです。私たち
「おっと、煮えたようだね。さっそくいただこうか」
マルーイは
木椀にスープをよそい、マルーイに渡す。強引な話題転換ではあったが、しかし椀から匂い立つ香りは鼻腔をくすぐって心地よい。それは真実であった。
「
「ん?」
ゴロゴロとした根菜の入ったスープをはふはふと口に運んでいたところ、おもむろにマルーイが切り出した。
「
「いきなりだね」
ジャンは堅いパンをスープにふやかしながら、少し厭世的な笑みを見せた。
「その、昨夜のエリネール卿とのお話で……」
「ああ、
「……ええ」
マルーイは少しだけ言いづらそうにしていたのを汲んで、ジャンは確認をとった。マルーイはおずおずと頷き、「差し出がましいことを聞きました」と謝罪した。
「いや、構わないよ。もうずいぶん前の事だしね」
ジャンはマルーイに頭を上げさせると、ふやけたパンを口に運んで飲み込んで、「どこから話そうか」と思案顔をした。
「僕がもともと、ホーデンスの
「ええ、高名な学者先生であられたと聞き及んでいます」
「照れるな」
ははは、とジャンは後頭部をかいた。
「だがね、僕の研究は少しばかり
ジャンはスープをすすって、「あちっ」と体を跳ねさせた。
「
フゥと一息ついて、十分温くなったスープを胃におさめる。ジャンの話はそれで終わりだった。
「
「ん?」
鍋からお代わりをよそっていたジャンが手を止めてマルーイを見ると、彼女は手にした椀を見つめながら少しの決心をしたようだった。
「
「……」
マルーイの問いに、ジャンはしばし沈黙した。鍋からスープのお代わりを自分の椀によそって、それに浮かんだ波紋が消えるまで黙ってから、おもむろに口を開く。
「
ジャンの声は鉛のように重かったが、マルーイにはそれの重要さというものが皆目見当もつかなかった。ゆえに、すこし間抜けな顔をしてしまったのは仕方のない事だろう。
「それが、
「ダンジョンの外殻の形状は知っているね? おおよそ一辺二十キロメートルの立方体だ。これの示す意味は、わかるかな?」
ジャンはマルーイのその顔がおかしかったのか、少しふきだしてからそう問うた。
「それは、急に言われましても……あっ」
マルーイは少し面食らった様子であったが、すぐに何かに思い当たったようだった。
「魔法陣、ですか」
「いかにも」
ジャンは嬉しそうに笑って、しかしすぐにハッとして語気を硬くした。
「マルーイ、この話は忘れなさい。そして追及もしないように。君の身を滅ぼすことになる」
「は、はい」
マルーイは若干気圧されながらも返事を返すと、ジャンはそれっきり口をつぐんで、お代わりのスープを黙々と食した。
痛い沈黙は、二人が交代で就寝するまで続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます