第12話 夜明け前と、出発


 迷宮監視塔ダンジョンモニターの庭にテントを張り、野営をして翌朝。まだ日も姿を見せぬ薄暗いうちに、ジャンとマルーイは準備万端整えて迷宮ダンジョンの入り口に立っていた。


「うむ、内部の魔力は落ち着いている。終わっているようだね」


 ジャンがヒヒイロカネの山刀で魔力の様子をひとしきり調べ、結論付ける。


「では」


「うん、行こうか」


 マルーイは自分の身の丈ほどある巨大な背嚢ザックを担ぎ直して、ジャンはGOサインを出した。

 迷宮ダンジョンの入り口は小さな廟になっていて、観音開きの戸がついた堂に地下へと延びる階段がある。


「ずいぶんと気配が違いますね」


「ああ。ずいぶん湿っている。それに圧迫感があるから、もしかすると中層の構造物がせりあがってきているのかもしれない」


「となると、中層の魔物の生存圏も?」


「だろうね」


 長い階段の終点はジャンの推測通り旧来の中層のそれで、今まで書きつけてきた地図が水泡に帰した瞬間を感じ、逆に奮い立った。


「ずいぶんと嬉しそうですね、ジャン師」


 マルーイは少しばかりの不安を表情に出していたが、視線の先のジャンは全くと言っていいほど現況にそぐわない表情をしていたから思わず聞いた。


「目の前に広がっているのが全くの未知だからね。わかるかい? この景色を見たのは僕と君が初めてなんだよ」


 ジャンは眼鏡をくいっと直して、普段の彼には似合わない好戦的な笑みを浮かべた。好奇心の最大限の発露である。


「それは……たしかに気分が高揚しますね」


 マルーイもぐっとこぶしを握って、わくわくとした顔で頷いた。

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