第8話 旅の支度と、思案の煙
"寂柳亭"に戻ったのは、出立の約束の正午まで半刻を切った頃だった。文字通り尻尾を振りながら迎えてくれたサッカウから鍵を受け取ると、2階の自室へと向かう。
"寂柳亭"の客室はいかにも大衆宿といった趣で、豪奢な調度はないが質実剛健である。約十畳の板間にシングル用の寝台が置かれており、後は鍵つきのチェストと簡単な書き物のできる程度の机椅子が置かれている。
ジャンの部屋には職業柄、特別に
「さて……」
ジャンは背負子を床に降ろすと、寝台に腰掛けてしばし一服した。
美しい螺鈿の施された煙管は
フゥーと長い息とともに、
「まあ、健康のためにもいいこと、か……」
ジャンはもう一度目いっぱい煙を吸い込んで味わってから吐いたあと、火皿に溜まった灰を捨てて寝台から立ち上がった。
とはいえ準備という準備もない。大まかな備品の調達はマルーイに一任しているからだ。やることといえば、普段着から
方針が決まれば、早速行動だ。
ジャンは作り付けの
靴は黒色の半長靴で、先端には鉄芯の入った安全靴仕様だ。長年履き続けて革がてらてらになっているが、その分履き心地は他に代えがたいものがある。
今着替えるのはここまでで、
あとは先ほど買ってきた新品のザイル(登山用のロープ)だとかランタンだとかを詰め込んで、小物を入れる頑丈な皮のポーチを首に掛け、ベルトに
準備も終わってひと段落。といったところで、控えめにドアがノックされた。
「どうぞ」
ジャンが
「ジャン先生、下にマルーイさんがお見えですよ」
「おっといけない、もう約束の時間だったか」
時間に正確なマルーイのことである。懐中時計を見るまでもなくジャンの遅刻は明白だった。ジャンは少しばつが悪そうにサッカウに礼を言うと、ずいぶん重たくなった
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