止まらぬ時を思いながら

「時間ある時連絡ください」

僕はすぐにメッセージを返した。メッセージを送った後に彼女からのメッセージが8時間も前に来ていたことに気づいた。さすがに返事が来るのは明日だろうかと、携帯を机に置こうとした時、メッセージが届いた。

僕は置きかけていた携帯をもう一度手に取ると、メッセージを開いた。

「今時間ありますか」

「あります」

僕は簡素に答えた。

携帯を眺めているとビデオ通話の画面になった。

僕は自分もビデオをオンにする。

「あっ蓮さん久しぶりー元気そうで良かった〜」

久しぶり彼女は、少し頬がこけただろうか。僕はとても複雑な気持ちになった。唯一彼女の元気さが以前と変わらないのは良かった。

「……朝霧さんも元気?」

「うん元気!!ずっと連絡できなくてごめんね。両親が過保護でさ。曲作りも途中だったのに……」

「いや、朝霧さんが元気なら良かった」

彼女は微笑んでいた。

「あのね。連絡したのは、前作ってた曲あったでしょ?あれの続きを作りたくて」

「あぁ。いつにする?」

「えーっとそれでなんだけど、私まだ外に出れなくて……蓮さんはVRゴーグルって持ってる?」

「あっ……。持ってる。最近知り合いに使い方教えてもらった」

「そうなんだ。それは良かった。えーっと私がサイトを送るからそこに来れる?」

「サイト??小さなカードないと入れないんじゃないの?」

「あぁ〜大丈夫大丈夫。多分大丈夫……」

彼女は画面外に視線を移すと誰かに話しかけているようだ。

「大丈夫だって」

「それじゃあメッセージ送るから、この後すぐに入ってきてね」

彼女はビデオ通話を切る。

僕は彼女から送られてきたサイトを確認する。

しかしこのURLどうやってVRゴーグルに送ればいいんだろうか……。

彼女からまたメッセージが送られてきた。

「このサイトに携帯からアクセスして、VRゴーグルと携帯を接続すれば入れます」

僕は彼女の指示に従い、携帯でサイトを開きVRゴーグルに繋いだ。


そこはグランドピアノが1台とギターが1本置いてあるだけだった。

彼女は僕に気づくと微笑みながら手招きした。

彼女はピアノに触れると、一緒に作っている曲を弾き始めた。

その暖かな音色は、現実世界の音と一見変わらないようだ。

途中でピタッと曲が止まる。

この曲はそこまでしか完成していない。

しかし彼女は深呼吸すると、そのままつづきを弾き始めた。

彼女の温かく優しい音に僕は胸が熱くなる。


ピアノを弾き終えると彼女はどうだった?と言う感じで僕を見つめてくる。

「良い曲だった」

僕は気の利いた感想を言えなかった。

「でしょ〜」

彼女は満足そうに笑った。


「それでどうしてここに呼んだの?曲は完成してたし……」

「……」

彼女は数秒押し黙ると小さい声で話した。

「……たの」

「なんて??」

「聴かせたかったの。蓮さんに会えない間にこの曲のイメージが浮かんでずっと弾きたかったの」

「ずっと連絡くれなかったのはどうして?」

「それは……」

彼女は俯いた。

「ごめん。僕がわるかった」

彼女が病気の治療をしていることは知っていたし、現実で会えないと言うことは……あまり病状がよくないのだろう。

さすがに悪いことを言った。それでも僕は言葉を止められなかった。

「僕はずっと君からの連絡を待っていた。いつ返事が来るかなって」

「……」

「数日間一緒に曲を作っただけだったけど、僕にとってはとても大事な時間だった。音楽の楽しさを思い出させてくれた」

「……」

「僕は」

僕は彼女が泣いていることに気づいた。

「あっ……ごめん……違うんだ」

僕はどうして良いかわからず、彼女を優しく抱きしめようとした。

しかし、彼女は「ごめん」と言って姿を消した。

僕は強制的に現実世界に引き戻された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る