君が屈託のない笑顔で笑うから……
僕は彼女に連れられて、仮想世界を散歩していた。
どこも綺麗に作られていて、一見して現実世界とそう変わらないのではと錯覚してしまうほどだ。
「そういえば、私自己紹介してなかったですね。私ちさとって言います」
「僕はや……れいです」
なんとなく本名を名乗るのは憚られ、咄嗟いに思いついた幼馴染の名前を口にした。
「れいさん……ですね」
彼女は時間を確認すると、「まだ時間ありますか?」と聞いてきた。
「……はい」
僕は戸惑いながら答えた。
彼女と一緒に最初の広場まで戻ってくると、彼女は近くの建物の扉を開けた。
扉を開けると階段が続いていた。
僕は彼女の後を追い階段をひたすら登る。
普段運動しない僕は、しんどくなるだろうと思っていたが、仮想世界の補正なのか、長い階段を苦に感じることはなかった。
最後の一段を登る。
「あ、ちょうどですね」
彼女がそういうと街に灯りが灯り始めた。
「おぉ凄い」
オレンジ色の灯りに照らされた街は、とても温かい雰囲気だ。
「ここ私のおすすめスポットの1つなんです」
彼女は街を見下ろしながら、優しく笑った。
「この世界、ゲームとかもできるので、暇な時に色々楽しんでくださいね」
それじゃあと手を振ると彼女は、時計塔から数十メートルはあるであろう地面に飛び降りた。
僕は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、慌てて彼女が飛び降りた先を見た。しかし一瞬空気が揺れると彼女は何事もなかったかのように、広場に戻っていった。
その後、僕はしばらく彼女を見ていたが、いい時間だったのでログアウトすることにした。
現実に戻った僕は、しばらくベットの上で現状について整理していた。
あんなに元気なのに、現実では外出できないくらい病状悪いんだよな……。
僕は仕事の合間を縫い、定期的に仮想世界へと足を運んだ。
本当は現実世界の彼女に会いたかったが、居場所がわからない。
彼女の父へ連絡してみたが、返信は返って来ていない。
近くの病院へ行ってみたが、朝霧ちさとという人はいなかった。
僕は彼女に聞きたいことが、たくさんあった。
まだ未完成の曲もある。
どうしたらいいんだろうか。僕は。
いっそのこと仮想世界で僕だって言ってしまおうか。
別に悪いことをしてるわけではないのだから、問題ないだろう。
次行った時に、彼女に打ち明けようと心に決める。
数日後、時間が空いたので、仮想世界へ行くことにした。
しかし、あんなにいつも賑わっている広場からいつものように歌が聞こえてこない。
僕は近くまで、歩を進める。
しかしやはり彼女の姿はなかった。
僕は時間が悪かったかなと思い、一旦ログアウトし、時間を置いてまたログインすることにした。
しかしその日は何時に行っても彼女に出会うことができなかった。
1週間経った。
僕は仮想世界の広場にいる人達に彼女について聞いて回った。
しかしみんな首を傾げるだけだった。
僕は彼女に曲を作り、そして送った。
彼女から連絡はないけど、どこかで聞いていることを祈って、僕はたくさん曲を描いた。
動画サイトへアップした曲も増えた。
どうか彼女の元に届くようにと。
仕事が忙しくて、良かった。そう思った。
そんなある日、彼女からメッセージが届いた。
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