季節は止まることなく移ろい行く

気づけば季節は夏になっていた。

動画サイトにアップした曲は気付けば再生回数が100万回を超えていた。

他の曲も軒並み再生回数が伸びていた。

昔からのファンは復活を喜ぶと共に、ファンが増えたことにより多少もめてもいるようだ。

僕達はサマフェスに参加することが決まった。

僕は夏も嫌いだし人混みも嫌いだから断ってと零に言ったが聞き入れてはもらえなかった。

初めての大きな舞台だ。他のメンバーは決まった時から気合が凄かった。

初めての野外。そしてアウェイな環境でどのようにパフォーマンスをするのが正解なのかわからず、零の家で過去のサマフェスの映像を見ていた。

「だめだわからない」

僕はクッションを抱きながらソファの上で天を仰いだ。

「蓮は考えすぎ。そんなに気負う必要ないって。いつも通りが1番」

「なんでお前はそんなに落ち着いてるんだよ」

一緒に活動してきたから、野外もフェスも初めてのはずなのにどうしてこんなに落ち着いてるのか気になっていた。

「いやいや正直心臓バクバクよ。でもせっかく良い機会をもらったんだから楽しまなきゃ!他人を気にしたって意味ないよ。俺らは俺らの築き上げてきたものがあるんだからさ」

こいつにしては良いことを言う。

「でも盛り上がる曲じゃないんだけど……」

零は急に笑い出した。

「いやいやいやそれで良いんだよ。蓮の曲は。」

「でも……フェスって盛り上がりが1番重要じゃないの?」

「……そこは大丈夫だよ。当日は映像も流れるし、会場をあっためるのは俺と琉に任せとけって」

「あぁ」


メンバー、スタッフと当日のスケジュールを再確認し、あとは本番まで各々やれることをやる。

彼女がひょっこりと顔を出すのではないかという淡い期待をしながら僕はスタジオに篭り曲作りをする。

彼女との曲作りの日々はとても短かったが、僕の人生の中ではとても色濃く、長い時間のように感じられた。

曲作りを再びできるようになったのは、彼女との楽しい時間があったからだ。

久しぶりの曲を作ることの楽しさを教えてもらった。

小さい頃は母と一緒によくピアノを弾きながら、即興で曲を作って遊んでいた。

僕もたまに海外に連れて行ってもらうことがあったが、いろんな国の人がいて、僕には聞き取れない言葉がいくつかあった。でも僕がピアノを弾くとみんな笑顔になってくれた。音楽はコミュニケーションの一部だった。音楽は言葉だった。

しかしそんな母との楽しい時間は、凄惨な事故によって切り裂かれた。

僕が15歳の時に、母は目の前で亡くなった。

それから僕は学校へも行かず母へ宛てた曲をずっと書き綴っていた。

だからテーマを指定された曲を描いてと言われた時に、納得のいく曲が描けなかった。

曲のストックがあったから、メンバーとの活動もある程度は続けられた。

しかしファンは新しい曲を求める。メンバーもそれを理解していた。

だけど僕は新しい曲を生み出せなかった。

彼女と出逢ったあの日、僕は助けを求めて一度広場へ足を運んだ。

でもそこに僕を助けてくれる音楽はなかった。

彼女がカフェで曲を弾いた時に久しぶりに、音楽が色づいていた。

彼女のまっすぐなピアノの音は、僕を闇から救ってくれると思った。

曲作りを教えるって言っていたが、僕こそ彼女からいろいろ教えて貰いたかったのだ。

最近の曲は多分以前作った曲とはだいぶ違うことを僕が一番理解している。

僕は彼女に僕の音楽を聴いてほしいと思った。

だから久しぶりに彼女へメッセージを送った。

彼女へ宛てた曲を添えて。

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