紫陽花が無情に世界を染める
その日は久しぶりに土砂降りのだった。
「外凄い土砂降りですね」
スタジオの受付のスタッフが声をかけてきた。
「あぁ」
「タオル必要だったら言ってくださいね」
僕はタオルを借り、荷物を拭くと彼女との曲作りの準備を始めた。
それにしても遅いな。
ふと時計を見ると、すでに20分経過していた。
いつもなら僕より早めにスタジオに到着している彼女に何かあったのだろうか?
僕は彼女の携帯に電話をするが、繋がらなかった。
彼女にメッセージを残し、僕はいつ彼女がきてもいいようにしておいた。
しかし彼女はその日結局来ることは無かった。
その後も彼女からの連絡は来なかった。
僕はメンバーが歌詞を書き終えたと言うこともあり、全員の歌詞を確認していた。
その歌詞を確認しながら、曲に乗せていく。
相変わらずというか、見事に解釈がバラバラで面白い。
でもどれもいい詞だった。
僕はメンバー全員にそれぞれの歌詞と仮歌を送った。
僕がどの歌詞を採用するか決まらないときは、メンバー全員で投票して決めることになっている。
零がさすがにチャットじゃ話合いづらいからと言うことで、急遽皆でスタジオに集合することになった。
数時間後全員がスタジオに集まると、早速仮歌を流す。
1曲目はバラード調の曲に少し明るめの歌詞。人を励ます詞だ。
2曲目はTHEバラード。失恋の詞。
3曲目は恋愛し初めのドキドキ感を表現した詞。
そして4曲目。みんな4曲目があることに驚いていたが、これは僕がみんなの描いた詞を見てから描いた詞だ。少しの切なさと温かさが感じられる詞。
4曲目が終わったが、皆んな考え込んでいるのかシーンとしていた。
最初に口火を切ったのは伊織だった。
「4曲目は八雲?」
「あー確かに蓮っぽい歌詞じゃ無かったけど、この心に突き刺さる感じは蓮のだろうね」
「あーやっぱり蓮さん素敵っす」
「でも今回他のも良かった」
「へぇ〜京が褒めるなんて槍でも降るんじゃない?」
「はぁ?」
伊織が零を睨む。
「まぁまぁ。でも伊織さんが褒めるのは珍しいっすよね!それだけみんな成長したってことっすね」
「それにしても誰の描いた歌詞かわかりやすいね〜1は琉くんでしょ。2は京。で3が俺。いやぁよくもこんなにバラバラなのにバンド組めてるよねー」
「それは蓮さんがいるからっす」
「同感だ。八雲がいなければお前みたいなやつと一緒に活動してない」
伊織が零の方を見る。
「あっ?俺。俺がいなきゃ蓮はバンド組んでないっつーの」
「まぁまぁ落ち着いてくださいよ」
俺はみんなのやりとりを見て、懐かしさで笑った。
「あっ!!!蓮さんが笑った!!!!」
喧嘩していた二人もこちらを見る。
「くそー見逃したー」
「君には八雲の笑顔は勿体無い」
「俺はこんなに小さい頃から蓮と一緒に育ったんだよ」
メンバーとの懐かしいやりとりはしばらく続き、気づけばその場の勢いでみんなで合わせていた。
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