〜序章〜 始まりの日

彼女は僕よりも幼く見えるが、どうも学校へは行っていないようだ。

先日曲作りを教える日程を相談した時に、学校はと聞いたが濁されてしまった。


「それじゃ蓮さん、続き始めよー」

昼ごはんを食べ終えた彼女は、早く始めようと急かしてくる。

「僕まだ食べ終わってないんだけど」

彼女は僕の目の前に残っている食べ物を一瞥すると大きく溜息を吐いた。

「はぁ〜蓮さんそれくらいペロリと食べないと体力持ちませんよ」

「ははは」

僕よりはるかに多い量を食べ終えた彼女に言われて乾いた笑いしかおきない。

見るからに華奢な彼女。一体どこにそんなにエネルギーを使っているのか……。

「じゃあ私先にスタジオに戻ってるので、食べ終えたらきてくださいね」

手を振ってスタジオに戻る彼女を見送った。

僕はすでにお腹いっぱいだったが、なんとか食べ終え彼女の待つスタジオへ向かった。



スタジオに戻る途中、バンドメンバーの零と出会った。

「あれ?蓮ここくるの珍しいね」

「……あぁ」

歯切れ悪く答える。

「そっかそっか!!まぁ無理すんなよ」

機嫌を良くした零に軽く背中を叩かた。何も聞かれなくてホッとしたが、期待を持たせてしまったのではないかと罪悪感も湧いた。

僕はしばらくその場に立ち尽くしていたが、彼女が待つスタジオのドアを開ける。

すでにピアノを弾いていたようだ。

僕は邪魔にならないように彼女に声をかける。

「朝霧さん……??」

しかし集中していたのか、僕がスタジオに入ってきたのにすら気づいていなかったようだ。

「あっ!?ごめんなさい気づきませんでした」

「今弾いてたのは?」

「あっ、えーっと……なんとなく弾いてたので……」

彼女は言葉を濁した。

「そうなの?」

僕は置いていたギターを手に取ると、先程彼女が弾いていたメロディを思い出しながら演奏した。

僕は弾き終えると彼女をみた。

「お昼前に作ってた曲もいいけど、これにアレンジして曲作るのも良さそうだよね」

「……そうですね。でも午前中に教えてもらった部分の続きを教えてもらえますか?」


その日は結局17時ぐらいまで彼女に曲作りを教え解散する事にした。

「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る