最終話? 俺が妹になるんだよ!!


 「………」


 俺は見慣れた天井を見上げている。

 しかも四方を格子状の柵が覆っている。

 

 身体は思うように動かない。

 それは当然だ、今の俺は赤ん坊なのだから。

 そう、先ほどの柵はベビーベッドの囲いであった。


「あら~~~、美紀ちゃん、お目目が覚めまちたか~~~?」


 俺に母の真紀が腕に赤ん坊を抱きながら俺を見下ろしている。

 その赤ん坊は有紀、要するに俺の幼少期だ。

 そして俺は今、妹の美紀になっている。


 何故こんな事になっているかというと……それは宇宙人との戦いが終わった一か月後に遡る。


「有紀、本当にやるのか?」


 道明寺が不安そうな顔をして俺を見つめる。


「ああ、もう決めたんだ」


 実家に戻り居間で道明寺と二人で語らう。


「疑いたくは無いが、お前の立てた計画は本当に実現可能なのか?」


「理論上は可能だ、そのための能力開発もこの一か月間努力を重ねて来たつもりだよ」


 道明寺が言う俺が立案した計画とは宇宙人との戦いで命を落とした美紀やその仲間を俺がタイムリープして美紀になる事で結果を変え、死なせない様に導くと言うものだ。


「以前お前が過去の真紀に入り込めた原因は分かっていないんだろう? それを任意に起こすことが出来るのか?」


「確かに未だにあれがどういった経緯で起きたのかは分からない、眠って起きたら真紀になっていたんだからな……だけどこの前の戦いで分かった、能力は念じる力の強さで結果が変わるんだってね」


「そう言うものなのか……?」


 道明寺は難しい顔をしている。

 悪いが能力の無い一般人には想像もつかないだろうからな。


「まあそういう事でちょっくら過去に跳んで美紀の中に入り込んでくるよ」


「美紀が可愛いからって変な気を起こすんじゃないぞ?」


「何を言ってるんだ、美紀は俺自身になるんだから大丈夫だよ、これだから男親は」


 お生憎さま、もう既に女の子として生きてきた経験のある俺に隙は無い。


「おい、今不意に思いついたんだが、俺が接してきた美紀はもしかしてお前だったんじゃないだろうな……」


「どうだろうな、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない……だけどこれだけは言える、俺が美紀になるのはこれが初めてだよ」


 かと言って以前だって真紀になったのは初めてにも拘らず既に何万回も真紀と有紀の人生を行ったり来たりしていたんだ、実は今回も初めてとは断言できない。


「じゃあ今度こそ行ってくる」


 俺はソファに腰掛け目を瞑る。


「ああ、行ってこい、美紀を頼んだぞ」


 道明寺のその言葉がこの身体で聞いた最後の言葉となった。

 俺の精神は暗闇に沈み込んでいくような感覚に包まれ、意識が遠のいていった。


 そして現在に至る。


「見てあなた、美紀ったら私の方をじっと見てるわ」


「へぇ、もう人の顔が認識できるまでになったのか、赤ん坊の成長は早いよなぁ」


 横から道明寺が顔を出す。

 まだ若い頃の道明寺だ。


「ふぎゃあ!! ふぎゃあ!!」


「あら、有紀ちゃんがおしっこをしたみたいね、オムツを変えてくるからあなたは美紀ちゃんを見ててね」


「おう、任せな」


 真紀が有紀を連れ隣の部屋に行った。

 俺の側に居るのは道明寺だけだ。

 今がチャンス、能力を使うなら今だ。

 精神感応の能力を使う為に俺はじっと道明寺の顔を見つめ強く念を送った。


『パパ、パパ聞こえる?』


 声色は俺の知っている少女時代の美紀の声を再現してみた。


「なっ……誰だ!?」


 道明寺がきょろきょろと辺りを見回す。


『こっちよパパ、私よ、美紀よ』


「何!? 美紀、お前が俺に話しかけているのか!?」


 目を見開き信じられないという顔をした道明寺が俺をベビーベッドから抱き上げた。


『そう、どうしてもパパに聞いてもらいたい話があるの……』


 俺はこれから起こる事件の事を当たり障りのない所まで道明寺に話した。

 以前の彼らがしたように根幹にかかわる肝心な部分はぼかしながら。


「そんな事が未来に起こるだって? そんな事が信じられるか……」


『あら、じゃあ私がこうしてパパに話しかけている事も信じないんだ?』


「ぐむっ……」


 さすがにこう言えば信じない訳にはいくまいて。

 俺も中々ズル賢いと自分でも思う。


「それで、お前は俺に何をさせたいんだ?」


『話が早いわねそう来なくっちゃ、それじゃあ……』


「どうしたの? 何か話し声が聞こえた様だけど」


 有紀を連れ真紀が戻ってきた。

 今だ、俺は真紀の目を見つめて能力を発動した。

 一時的に身体を乗っ取りソファに座らせた。

 記憶を消すときに意識を失わせるのだがその時に倒れ込んで二人に怪我をされたくないからな。

 よし、記憶消去完了。


「真紀に何をしたんだ!?」


『安心して、記憶を消しただけよ……私を産んだ記憶とパパと結婚した時の記憶をね』


「おい!! ちょっと待て!! 何て事してくれたんだ!!」


 道明寺が激昂する。

 まあ、当然の反応だわな。


『パパには悪いけどこれは地球を宇宙人の魔の手から救う為にどうしても必要な事なの……』


「しかし……」


『本当にごめんなさいね、パパを巻き込んでしまったわ』


 これは道明寺にとってさぞ辛い体験だったろう。

 しかもこれが結果的に彼と真紀の今生の別れになってしまうのだ。

 しかし感傷に浸っている間もなく、玄関から作業着と帽子を被った数人の男が家の中に乗りこんできた。


「なっ、何だお前たちは!?」


『落ち着いてパパ、この人たちは対宇宙人組織の人間よ……彼らが私とパパがこの家に居た痕跡を徹底的に消してくれるわ』


 作業着の男たちは黙々と美紀と道明寺に関する家財道具だけを片付け始めた。

 その様はまるで引っ越し業者にしか見えない、完璧な偽装だ。


『パパは私を連れて彼らのトラックに同乗してくれればいいわ、そこから先は組織の指示に従って』


「……分かった、もうこうなってしまった以上あとには引けないんだろう?」


『そういう事になるわね』

 

 済まないな道明寺。

 だがこれだけは誓う、未来に命を落としてしまう運命にある美紀は俺の魂に賭けて必ず救って見せると。

 今回で成し得なかったとしても何度でも何度でも成功するまで繰り返してやる。

 きっと今までと同様、過酷な旅路になる事だろう。

 しかし俺は諦めない。

 

 それがこの地球ほしの元に生まれた俺の運命さだめだから。




                 NEVER END

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俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~ 美作美琴 @mikoto

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