第10話 恋の大騒ぎ
「ところでさ、美沙がくれた名簿にはソノケンだっけ? あいつの項目に母さんが惚れていたって書いていなかったけどもしかして知らなかったの?」
屋上への廊下を早歩きしながら美沙に問いかける。
まあ知らなかったんだろうな、俺がその事を伝えた時にかなりイライラしていたからな。
「そうよ、真紀とはお泊りで一緒のベッドで寝る程の仲なのにそんな話聞いた事が無かったわ……あんなに唇を重ね合ったのにまさか男に興味があったなんて……ショックだわ」
今聞き捨てならない事を言ったな。
どうやら美沙は真正のレズビアンの様だ。
この事からわかる、なぜ真紀がソノケンを好きな事を暦にしか話していないかを。
親友同士なら好きな男の話しは共有するはずだが、美沙がレズで真紀にぞっこんな以上、真紀が男であるソノケンの事を好きな事を言える訳が無いのだ。
これを知ったら美沙がどんな行動に出るか容易に想像が出来るからな。
結局美沙に知られる事となったが真紀本人ではなく俺の口から知ったからまだ良かったのだろう。
しかも今は暦がソノケンに告白中という事もあり下手な手出しはしないはずだ。
そうこうしている内に屋上へと繋がる扉の前まで来た。
音を立てない様にそっと扉を開き、俺と美沙は顔だけを外に出して様子を伺った。
居た、暦と園田だ。
出来れば何を話しているのか聞きたいところだ、何とか近づけないだろうか。
屋上には身を隠せるところが殆ど無いのだが、用途がよく分からない構造物がいくつかあるのでそれを少しづつ渡り歩きながら彼らに近付こうと思う。
身を屈めコソコソと構造物から構造物へと移動し彼らの死角に隠れる。
そう言えば昔、こうやって隠れながらミッションを達成するスパイゲームがあったな。
(何で私がこんな事を……)
(しっ……聞こえちゃうよ)
愚痴る美沙を窘めながら、二人のすぐ近くの構造物までやってくることが出来た。
「どうしたのヨミちゃん? こんな所に僕を呼び出して」
「あっ、あの……」
今まさに告白の直前であった。
しかし暦は赤面しながら俯き、かなり緊張している……中々本題の言葉を紡ぐ事が出来ない。
「けっ……健太郎君の事が、すっ……好きです!! 付き合ってください!! 」
おおっ!! 良く言ったヨミ!! 他人の告白なのにこちらも顔が熱くなり胸がバクバクと破裂しそうだ。
果たして園田の答えは……。
「……ゴメンね、ヨミちゃんの気持ちは嬉しいんだけどお付き合いは出来ない」
(はぁ……)
俺は心の中で深い溜息を吐くと同時に身体から力が抜けていく。
美沙も同様でかなり脱力している。
それもそうだろう、不本意ながら親友の告白が失敗したところに居合わせているのだから。
「健太郎君って誰の告白も受けないって評判になってるんですよ……あの美人で有名な山吹先輩まで振ってるんですもんね……」
暦の言葉の後、美沙が横から無言で一枚の写真を差し出す。
うちの学校のセーラー服を着た物凄い美人が写っているな、美沙が必死に指先でヨミと写真を交互に指している。
ああ、なるほど、この美女が山吹先輩ね、確かにここまでの美人すら袖にしているとなるとすでに絶望的だ。
ていうか何で美沙はこんな写真持ってるの? あっ、そうか、綺麗な女の子は取り合えずチェックしていると。
それはさておき、暦には悪いけど何となくこうなるだろう事は薄々予想はしていた。
事前に聞いていた教室の女子たちの会話では園田は誰の告白も受けた事がないらしいし。
これは完全に俺の勘なのだが園田はきっと最初から誰とも付き合う気がないのではないか。
ただこの仮説を裏付けるには有る情報が足りていない、それは……。
「……それなら健太郎君は誰の告白なら受けるの!? 誰の事が好きなの!? 教えてよっ!!」
暦……本当に心の底から園田の事が好きなんだな、彼女の悲痛な叫びに俺も心が痛む。
そう、園田の思い人という情報……これこそが最重要。
しかしこれはさすがの園田も答える訳にはいかないだろうな。
振った相手に自分の思い人を教えるなんて傷口に塩を擦り込むのと同意だ。
園田もそれを分かっていて今までそんな事はしていないと俺でも断言できる。
何故そう言い切れるか、園田が過去にもしそれを言っていたのなら今頃学校中の噂になっているはずだからだ。
そうなっていない以上園田も振った女の子には最低限の敬意を払っているという事になる。
そこは素直にリスペクト出来る所ではあるな。
「分かった、そこまで言うなら教えてあげる……」
前言撤回、おいいい!? 見損なったぞソノケン!!
だが教えてくれるというならこちらにも聞く準備があるぞ。
「僕の好きな人は……早乙女真紀さんだよ」
「ええええええーーーーーっ!!!!?」
俺は思わず叫びながら勢いよく立ち上がっていた。
当然、園田と暦と目が合う訳で……。
「バカ!! 何やってるの!?」
美沙に怒鳴り付けられるも後の祭り。
俺を見つめる暦の顔が涙でくしゃくしゃになっていく。
そして顔を手で覆いながら走り出し屋上から屋内へと入っていった。
「ちょっと!! 暦!?」
美沙も暦の後を追う。
期せずして屋上に取り残される俺と園田。
「あっ……あの……」
気まずい……告白されてしまった手前、園田とどう話しをしたらいいのか分からない。
「聞いていたのなら好都合だよ、早乙女さん、僕と付き合ってください」
「………!!」
園田は優しい笑みを浮かべながら俺に向かって右手を差し出す。
俺の身体は頭から湯気でも出ているんじゃないかと思う程熱を帯びていく。
何でだ? 俺は男だぞ、男に告白されて嬉しい訳がないのに。
ああそうか、これは母である真紀の身体が反応しているんだ。
そりゃあ男から、こんなイケメンから告白されて嬉しくない女の子がいない訳ないもんな。
それが元々好いていた相手ともなれば尚更だ。
「はい……」
気が付けば俺は園田の右手を掴んでいた。
ええっ!? 俺はまだどうするか決めていなかったのに、身体が独りでに……。
「ありがとう」
園田は俺の身体を引き寄せ抱きしめた。
そして俺の顎をそっと持ち上げるとそのまま唇を重ねて来たではないか。
ああ……俺、男ともキスしちゃった……。
しかしこうなったという事は園田が俺の父親に確定したんだろうか?
だがキスのせいで頭がボーーーっとしてそれ以上考えを巡らす事が出来い。
実はこの時、スカートのポケット内で赤い宝玉が光っていたのだが、俺は全く気が付く事は無かった。
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