4.2度目の目覚めと魔法

「ふぁぁぁあ…もう昼か」



 目覚めると、外は完全に太陽が昇り切っていた。隣には抱き着いたままなかなか離れないリーリアがいる。顔にかかる髪を撫でるように持ち上げると、小さな呻き声を上げ、むくりと起き上がった。



「んぅ、どうしたのカナデぇ」



 まだ眠いのか、目を擦りながらむにゃむにゃしている。可愛い。



「ん、起こしちゃった?ごめごめ……もうお昼だよ。あと、そのカナデ呼びはやめた方がいいと思うんだが」



 リーリアは、ぐーっと伸びをすると眠たそうに再度眼を擦る。



「確かにそうだよね~じゃあこっちでのいつも通り、レオでいくね」


「俺もいつも通りリアで」


「うんうん、あ、ところでレオはこの世界の知識とかはどれくらいあるの?」



 それはレオ自身も気になっていたところだ。記憶が目覚める前の知識がちゃんと残っているのかずっと疑問に思っていた。


 今朝目覚めた際に会話は問題なく出来たし、名前もちゃんと分かっていた事から、脳ミソが丸ごと入れ替わってるなんてことにはなっていない。恐らく、よくある転生時に記憶を一緒に送るもののある程度育つまでは封印を掛けておくとか、そういう類のものだろうとレオは予測していた。



「この世界の言葉は話せてるから、他の知識も大丈夫だと思うんだけどね」


「俺もそう思う。傷を治してくれた聖女様が使う魔法の事も知っていたから問題ないんじゃないか?」



 その時、リアの目がきらりと輝いた気がした。すると食い気味に、



「聖女様の魔法を見たの!?」



 と、レオの肩を鷲掴みにして思い切り揺らす。



「い、いや、その時はもう意識なかったし。あ、でも刺された直後にルーフが魔法使ってたのは覚えてるよ」


「おおおおおお!!どんな感じだったの!」



 リアの前世、マリは世界的に人気の某魔法学校のシリーズが大好きで、その他の魔法が出てくる空想小説・漫画は、貪るように読み漁るほどの魔法好きだった。



「んーそうだなぁ……魔族を串刺しにした攻撃魔法と俺に掛けた治癒魔法の2つだな。攻撃魔法は魔法名だけの詠唱だったけど、治癒魔法の方はその前にもあったな」


「ほぉぉ、それは特別な呪文タイプ?それとも普通の言葉でするタイプ?」


「落ち着け落ち着け、何言ってるのか分からなかったから、多分前者だと思う。あ、でも使った魔法名は分かる。攻撃魔法が確かランスで、治癒魔法がヒールって」



 その後はひたすら、ルーフが使った魔法についての質問攻めが続いた。



「おもしろーい!!魔法についての知識は【精霊の儀式】の前に両親に色々教えてもらってたけど、実際に使うところは見た事なかったんだよね!」


「へぇー、じゃあ今度はリアが聞いた話俺にも聞かせてよ」


「いいよ!えっとね…」



 リアが言うには、この世界には魔法と魔術の2つがあり、魔法は呪文を詠唱することで発動、魔術は属性や効果などを定める『術式記号ラツォン』と呼ばれる未だ全て解読しきれていない古代言語と、複数の図形を組み合わせる事で魔法より複雑で高度な効果を発揮できるそうだ。


 魔法と魔術は併せて『魔法術』と呼ばれる。


 魔法術には属性があり、炎・水・土・風のいわゆる4元素に加え、空間と光の全6属性から成るらしい。適性のない属性の魔法が使えないという訳ではないが、適正のある者と比べると効果は半減するそう。


 その魔法は個々が有する魔力オドを燃料として発動する。魔力オドは空気中に含まれる魔素マナと呼ばれる物質を凝縮する事で作られると云われている。


 呪文はその魔力オドを適切に活用するための、いわば補助的なもので、言い換えれば魔力オドの緻密で変幻自在な操作力があれば呪文は必要としない。所謂いわゆる、無詠唱だ。


 しかし、その魔力オドを思うがままに操作し魔法を発動すると云うのは、長年鍛錬を積んだ魔法士でさえ非常に集中力を必要とする技術だ。時間を掛ければ出来る者はそれなりにはいるが、詠唱をした方が断然早いため、無詠唱で魔法を発動する者はほとんど居ない。


 他にも同時に複数の魔法を発動する重複詠唱マルチスペリングといった技術も存在する。



「まぁ詠唱要らずでポンポン魔法が放てるなんて、普通に考えてチートすぎるもんね」


「確かに。にしても、重複詠唱マルチスペリングとかめっちゃ憧れるわぁ……こう、両手で魔法発動させてバッてさ……ふふふ」



 大勢の怪物を前にいろんな属性の魔法を組み合わせ、壊滅させていく妄想を繰り広げていくが、その緩んだ顔にリアは若干引いていた。



「キモいからその顔やめなはれ!」


「んなっ……ひどい……あ、魔力オドの話があったけど、個々の保有してる量はもうすでに決まってるとか?」


「特異体質でもない限り、ほとんどの人があるみたいだよ。総量の増減については、リルフィストの同盟国で魔法術研究が盛んな魔導国が実験をしてるんだけど、限界まで魔力オドを使い切ると自然に増えていくとか、体を鍛えて器を大きくすることで取り込める魔素マナが増えて総量も増えるとか、色々あるみたいなんだよね。ただ結果の個人差がありすぎて確証にまでは至ってないんだってさ」



 魔力オド量は家系に依存するという家系説が最も信憑性が高い。また、体格説は力を溜めておくには、その分器も大きく丈夫でないとそのうち溢れてしまうからというのが主な理由だそうだ。

 家系説は主にこの国の貴族のことだ。魔法教育が代々施されてきた貴族と、普通教育でさえまともに受けられない平民では魔力オド量に大きく差が出ている。



「あ、でもその魔力オド量ってどうやって判断するの。魔力オドを溜められる石とかに注ぎ込んで測るとか漫画だとよくあったけど…」


「儀式を受けると腕に紋様が表れるの。魔紋オドリングって言うんだけどね。その輪の数で魔力オドの総量を、色で適性のある属性が、輪の型でその人の魔力オドの特性が分かるんだ」



 一つの輪で大体、初級の魔法術(簡単に火や水を出すだけ)が5~8発程度とされる。色はそれぞれ、炎は赤・水は青・土は黒・風は緑・光は黄・空間は紫となっている。



「腕に紋様が浮かぶのか!」


「ぐるっと腕に巻き付く感じ!ほら見て!」



 リアが右腕の袖をまくると、手首のあたりから20本の真っ直ぐな輪があった。線1本1本は非常に細く、レオの目測ではあるがだいたい5ミリほどである。

 色は水の青と土の黒、光の黄が一つの線を均等に3等分するように分かれていた。



「青と黒と黄色…リアは水と土と光属性に適性があるのか…この輪の数の平均とかは分かるの?」


「んー、確か魔法教育がしっかりとしてる貴族はその分、引き継がれる魔力オドも多くなるんだけど、大体12,3本が普通ってとこかなー。平民だと偶に2桁もいるらしいけど、ほとんどが1桁ね」


「そういうところで違いが出てくるのか…リアの量は平均よりも多いんだね」


「そうみたい!数百年前にいた勇者は片腕でじゃ収まりきらなくて両腕に紋様が出たって話もあったよ。その合計は確か80本だったかな」


「勇者かぁ…やっぱり全属性適性とかなんだろうなぁ」


「その通り!ちなみに4色以上は輪に対してクロスするように色が入るみたい。あと、さっきも言ったけど個々の魔力オドにも性質がいくつかあるの」



 魔力オドの性質は「形態適正」とも呼ばれ3種類ある。


 まず1つ目は、6角形が連なる硬派紋。これは放つ魔法の強度が普通の者に比べて高くなるというもの。

 2つ目は、ジグザグ模様から成る鋭波紋。非常に攻撃性が高く、攻撃系の魔法と組み合わせる事で威力が上がる。

 そして3つ目は、何の模様もないただの正円。軟派紋と呼ばれ、緻密な操作性を持っている。



「じゃあ、リアは軟派紋にあたるわけか」


「うん!複雑な魔法を発動するのに長けてるみたいだから結構うれしいな~

あ、ちなみに2属性以上の適性があるのは、この国の王族か魔族、100万人に1人と云う特異体質者、あとは亜人の1000人に1人の割合でいるんだって」


「この国の王族って人間としてはかなり凄いんだな」


「だって、この世界で唯一聖獣と盟約を結んだ一族だもん」



 聖獣とは、この星にある4つの大陸それぞれの守護をするために神が遣わしたとされる存在である。隣国では、空を飛ぶ大陸があって、そこにも聖獣がいるという神話もあるが、そんな物あればすぐに見つかっている、という意見で一蹴され今に至っている。


 数百年前にその内の一匹と盟約を結んだフィスト族は建国する際、その聖獣の名前である黒虎リルベインから2文字を授かってリルフィスト王国としたそうだ。



「王家特有の紺色の髪はその証みたいなものなんだよ」


「へぇー、確かに父上と同じ髪色をしてるね」


「レオだってそうじゃない!!でもなんかちょっと薄いような?気のせいか」



 リアの髪と並べてみるとわずかに薄いようにも思えたが、多少の濃淡の違いくらい出るかと受け流した。

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