5.精霊の加護
「それより手の甲にある模様は何?魔紋と同じ3色だね」
リアの手の甲には3本の線から成る模様が刻まれ、それぞれ適性属性に沿った色であった。
「これは
「スティグマ?十字架上のキリストの傷だっけ?」
「読みは同じだけど……まぁ、証っていう意味合いでは同じかな!これでどんな精霊の加護を授かったのかが分かるんだよー」
精霊の儀式では魔紋と精霊の加護を授かる。精霊も魔法と同じ6つの属性が居り、属性によって効果が変わる。精霊の加護とは、精霊がもつ力の1部を与えられるため、【
炎は武術・体術などの肉体を使う戦闘技術、水は治癒魔法、風は精霊魔法、土は器用さ、光は聖魔法、空間は影魔法だ。治癒、精霊、聖、影は加護がなければ使えない特殊な魔法で、個人魔法と呼ばれたりしている。
そして、精霊にも階級があり下位、中位、上位、高位、王位の4つで、現在王位精霊の加護を授かっているのは3人だ。
「幅広いなぁ、王位精霊の加護持ちは3人いるって言ったけど、母上もそうなのかな?従魔のルーフって、亜人の中でも最強の種族、
「そう!その通り!ラナリア様は風の王位精霊の加護を受けているんだって!あともう1人は、レオを治してくれた聖女様ね」
「母上って凄いんだな……」
ラナリアの実家、ラゼル伯爵家は代々魔物や獣を従える従魔獣術を得意とする一族で、伯爵領内のほとんどがそういった生物の保護区域となっている。領民も従魔獣術に見識のある魔法術士が多い。
ラゼル伯爵領はアリスレイン大公領北東部のダリル平原にあり、その北東はダリル山脈が囲うように聳え立っている。山も川も平原も湖もあるダリル平原は、まさに保護区としてうってつけの場所だったのだ。
「そういえば、もう1人は?」
「んーそれは私も知らないんだぁ、空間属性って事だけは知ってるんだけど…」
「空間属性か…亜空間に収納できたり転移できたりするのかなぁ」
「適性のある人が少ない分、効果も大きいみたいだけど、どんな魔法が使えるのかは私も知らないの」
少し残念そうな顔をしているが、とにかく魔法が実在する世界に来れた事がなによりもうれしそうだった。明日、自分の適性属性や精霊の加護を授かれる事を考えるレオは、もうすでに頭の中は魔法を使ってる自分を妄想するのに夢中だった。
先程と同じく、ヘラヘラと歪んだ表情にまたリアからのビンタを食らうのだが。
「あ、そういえば手袋嵌めてるのはどうして?大人もみんな手袋はめてるよね」
「あぁ、これ?
「へぇー」
その後も魔法の話で盛り上がっていたその日は、気づけば日が暮れようとしており、リアの迎えが来ていた。久しぶりに会えた恋人との時間は、彼女の抱えていた精神的なストレスをだいぶ緩和させたようで、迎えにきた衛兵達も安心していた。
夕飯は家族揃ってご馳走をお腹一杯食べ、翌日の【精霊の儀式】に向け早めに寝る事になった。
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翌日。
早めに起きたアリスレイン一家は、馬車に乗って儀式を行うノートリザン大聖堂へと向かっていた。
「くぁ……よく眠れたか?レオ」
目の前であくびを噛み締めているのは、レオの父親、ブローヴィルだ。記憶だといつも黒い生地に青い線が入った軍服のような服装だったが、今日は真っ白な神官服のようなもので身を包んでいる。
「色々考えてたら興奮しちゃって、中々寝付けなかったよ」
「わかるぞ!父さんも初めて儀式を受けるときは興奮で眠れなかったなぁ」
「私もよ~」
そう言うのは、レオの隣で髪をいじっている母親、ラナリアだ。普段はパステルカラーの綺麗なドレスを纏っているが、今日はブローヴィルと同じ真っ白な服を着ている。
「レオはどんな魔法適性が欲しいんだい?」
これまた、2人と同じく白い服を着たルーフが興味津々といった感じで尋ねてくる。いつも結っている髪は下ろし、その艶やかな毛色は彼の後ろにある小窓から差す朝日がさらに神々しくさせている。
「うーん、どれも魅力的だけど…炎と風と空間かな!」
「ふむふむ、レオも炎がいいか!そうかそうか!はっはっはっ!」
ブローヴィルはうれしそうに笑い飛ばしている。ブローヴィルはこの国を守る軍の5つある師団のうち1つを受け持っている。元々の戦闘センスに、炎の上位精霊による加護が相まって、中近接戦闘であればこの大陸では敵無しと謳われるほどの実力者だ。
剣術の発展が盛んな東邦海洋帝国で三本の指に入る剣士が使う二刀流の剣術【雷虎二刀流】をベースに様々な武器の基本武術へと発展させ変幻自在な戦闘スタイルを持つ。最も得意なのは原点とも言える片刃剣の二刀流だ。
「レオは従魔獣術にも興味があるのかしら?」
「うん!ルーフみたいに強い生き物と仲良くなって一緒に戦ってみたいな、と思って」
「ボクみたいな?そうそう見つかるもんでもないよ~?まぁ、主君の子なら才能が全くないわけでは無さそうだし。もし加護を授かったら協力してあげるよ!」
「ありがとう!」
他愛ない話で盛り上がる大公家一家。レオはふと馬車の外を覗いてみる。石造りのおよそ2~4階建ての家が規則正しく並んでいる街並みは、非常に綺麗だ。この大通り沿いは様々な店が多く、奥の方にはちらほら集合住宅のような建物も見える。車道も歩道も掃除が行き届いており、地球の中世ヨーロッパの不潔さというのがあまり感じられない。
地球の中世ヨーロッパは、下水道が完全に整備されていなかったりなどで道端の溝に排泄物が捨てられていたり、あっても近くの川に直結したりしており、伝染病の原因となる事がしばしあった。しかし、この街ではそういった様子が一切見られない。
ブローヴィルによるとこれは大陸でも珍しい方なのだという。リルフィスト王国と同盟を結ぶ3つの国の一つ、デイツ魔導国では
その魔導国が数百年前に勇者と合同で空間転移魔術を利用した
下水道建設の際、第6代国王の「全部一から作り直そう」という思い切った提案によってただの下水道建設だけでなく、大規模な首都改造計画となっていた。
「先代の国王、ひい爺さんに聞いた話なんだが、相当ぶっ飛んだ人だったみたいでな。首都改造計画するためにわざわざ近くに都市作って王都民の一時的な滞在場所にしたり、整地するために街をまとめて魔法でぶっ壊したりと大暴れしていたそうだ。」
「このマルタ通りもその際に作られたものなのよ」
マルタ通り。別名、正門通り。その名の通り、王城の正門からまっすぐ街の関門まで伸びる幅50メートル4車線の街路である。真ん中の上下2車線は上級貴族のみが使用できる専用路となっており、レオ達が今ちょうど走っているところである。
東西南北で十字になるように作られた大通りはすべて王城を中心に引かれ、そこから等間隔にぐるりと車道が引かれている。街の区画は中心に近づくほど身分が高くなっており、王城周辺の貴族街はセントラルとも呼ばれ、その手前にも関門が置かれている。
交差点には赤と緑の二色信号機が設置され、馬車の交通整理がしっかりと行われている。これは前々から開発されていた
「お、そろそろ大聖堂が見えてくるころじゃないか?」
ブローヴィルに促され、行く先の方を見る。まだ、距離はあるが、周囲とは一線を画すそのあまりの大きさにレオは空いた口がふさがらなかった。
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