第30話 30、水穂国への侵攻

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 穂無洲国はまだ発展途上にはあったが侵攻の準備はできた。

周平は海穂国の領主に水穂国への侵攻を伝え海穂国軍の派遣を要請した。

領主の一海は了解し、属国としての義務を果たすと約束した。

侵攻軍の総大将には荒波が就任した。

 荒波には世界地図と水穂国とその周辺国の詳細な地図を渡し、侵攻は水穂国だけでよいと伝えた。

周平は双方の兵の消耗を極力抑え相手を屈服させるようにと荒波に伝えた際、『水穂国も同じ言葉を話すから』とも洩らした。

 侵攻は4月1日と決められた。

3月20日、周平は水穂国の領主に次のような宣戦布告状を送った。


  侵攻布告状

 穂無洲国と海穂国の共同軍は4月1日をもって貴国に侵攻する。

 応戦及び反撃の準備をされたい。

 貴国への恨みは無い。

 侵攻を止めるのは侵攻の実力阻止か無条件降伏である。

 本侵攻の目的は文明進展のための世界の言語の統一である。

 本日をもって貴国は穂無洲国と海穂国への攻撃の正当性を有す。

  3月20日            穂無洲国領主 周平


 水穂国から見れば酷(ひど)い話しだったが、侵攻される国とはそんなものだ。

水穂国は4月1日までの10日間に穂無洲国にも海穂国にも攻撃はしなかった。

攻撃準備が整わなかったのかもしれない。

 4月1日、荒波は総勢1万の軍を海穂国と水穂国の国境の関所から侵攻させた。

装甲歩兵が5千名、熱気球部隊が5百機2千名、戦車部隊が30両千名、銃騎兵部隊が200騎5百名、砲兵部隊が30門5百名、補給隊が1千名であった。

荒波は気球から指揮し、命令及び報告には手旗信号を使った。

 水穂国は平坦な土地が大部分であり、大きな河からの支流や運河から水を引き込んでいる田畑が地平線まで見渡す限り広がっている。

所々に集落があり、それらを取りまとめている役所がある町が道沿いに点在していた。

小高い丘の頂上にある関所から城のある都市までは広い一本道である。

食べることには困難がないため人口が多く、都市は豊かであった。

 豊かさにおいては海穂国にも負けていなかった。

兵の数は常時は5万人であったが、同数以上の兵が農作業に従事していたので非常時には10万人になっているはずであった。

 関所は既に壊されて燃やされていた。

水穂国は一本道で戦おうとしていた。

周囲は4月の田植え前の水田であり、横から大部隊に回り込まれることはない。

少数の兵は可能だが見晴らしの良い水田では死ぬだけである。

一本道での消耗戦となれば1万の軍勢は10万の軍勢に勝てるはずがない。

兵站も自国での戦いであるから有利である。

 荒波は装甲歩兵の密集隊形を取らせた。

100名の兵士になる分隊毎に100mの間隔をとらせ1千名の兵を道に進めた。

装甲歩兵は学生が開発した軽い戦闘服に身を包み、片側の肩には銃を負い、片方の肩には十字弓を背負い、長矩形の大型の盾を片手に持っていた。

盾も学生が開発した物で軽く穂無洲国の鉄砲の弾を弾き、半鏡面で内からは見えるが外からは鏡となって見えなかった。

 盾は縦横自在に連結できるようになっていたし軽く堅い棍棒も付いていた。

戦闘服は刃物を通さなかったし銃の弾には痛い思いはするが貫通はさせなかった。

腰には擲弾筒が二個と水筒が二個ぶら下がっていた。

 ズボンのポケットには応急の治療薬と腹持ちがある糧食がつめられ、背中に背負った背嚢には長く巻いたちり紙と薄い袋型の布団が畳まれて入っていた。

これらの装備は兵士に安心感を与えた。

 密集部隊は町に近づくと停止し、代って熱気球部隊が町の上空から爆弾を投下した。

爆弾も学生が作ったものであり、物に当ると爆弾に書かれた時差をもって爆発するようになっていた。

 町が破壊され焼失してから密集部隊は前進し、生存者は殺され町と共に焼かれた。

六つの町が壊滅されての昼近く、道の向こうに水穂国の軍隊が現れた。

およそ2万の軍勢であった。

 相手の軍勢を気球から観察した荒波は密集部隊を2千mほど後退させ、密集隊形を解いてあぜ道に散開させた。

相手の軍勢は大砲を持っていたからであった。

侵攻軍の砲兵部隊は補給隊の後方の最後尾に位置していた。

密集部隊の後退をみてから敵軍は大砲を前面に押し出して射ち始めた。

弾は装甲兵の百mほど手前の水田の中に落ち、泥しぶきを巻き上げた。

危ういところであった。

 荒波は砲兵部隊に砲撃を命じた。

最初の十発の斉射は相手軍勢のずっと後方で破裂し輜重隊の馬車を馬ごと吹き飛ばした。

十秒の間をおいて次の斉射がなされ、弾丸は軍勢の中央で炸裂した。

さらに十秒の間をおいて次の斉射がなされ弾丸は大砲部隊の直前で炸裂し、大砲を転がした。

 実際には怒号が飛び交っていたのであろうが二分程の驚く程の静寂があり、再び十発の斉射があった。

今度の弾は榴弾であり軍の中央で炸裂し、軍隊の中央に大きな穴ができた。

十秒の間をおいて次の榴弾が斉射され軍の前方に展開していた砲兵隊は壊滅した。

 二十秒の間があって次の斉射が行われた。

十発の榴弾は敵軍勢の前から後ろまで均等に分散されて爆発した。

侵攻軍の砲撃は正確に狙い撃ちしているのが明らかであった。

最大飛距離もがんばれば四㎞もありそうだ。

地平線まで届く距離だ。

 荒波は砲撃を止め、気球部隊による上空からの狙撃を命じた。

5百機の熱気球が敵軍の上空に展開し気球に乗る3名の狙撃手は個別に敵兵を狙撃していった。

熱気球は大穴が開けばもちろん墜落する。

 気球部隊が使っている気球の布は歩兵が着ている戦闘服と同じ生地であったので上空への鉄砲の弾では穴が開かなかった。

籠の底も同じ布で覆われ防弾構造にされていた。

弓矢はとどかなかった。

気球の射手は顔を曝すこと無く籠の覗き穴から射撃することできた。

500機の熱気球は強力な8連発1500丁の銃を平面で持つことになる。

 一時間も経たないうちに射撃音は止み、二万の軍勢は全滅した。

荒波は気球から数名の斥候(せっこう)が遠くの農家から見ていたことを知っていた。

全滅させても報告はされるだろう。

侵攻軍には一名の死傷者も出ていなかった。

荒波は歩兵部隊を再び密集隊形にさせ、進軍を開始させた。

最後尾の歩兵1000名は二万名の敵兵を道ばたの家々に分散させ火葬するよう命ぜられた。

水穂国の残りの兵は正規兵で三万名であった。

 夕方、都に近づくにつれて水田はなくなりぎっちりと詰った町並みとなった。

荒波は兵を3㎞ほど引き返させ、周囲を水田で囲まれた地点で陣を張り、兵に交代で食事を摂らせた。

夕闇が迫る頃、荒波は100機の熱気球を城の上空に飛ばし高空からの爆撃を命じた。

二の丸と三の丸の上部を破壊しその後に焼夷弾を投下して炎上させた。

気球部隊は帰り道に等間隔に焼夷弾を投下して城下町を直線状に火災を発生させてから帰ってきた。

 荒波は敵を休ませたくはなかった。

部隊の陣は何の防壁も無く無防備に畑中に曝(さら)されている。

たとえ見張りを厳重にしても夜間に忍び寄られては損害を被る。

部隊後方の30門の大砲を持つ砲兵部隊は一時間に一発だけ城に向けて射(う)つように命じられた。

 夜明けと共に荒波は気球に乗って高空から状況を観察した。

城内はいたる所で土が掘り返され、やがて来るであろう爆撃を防ごうとしていた。

兵の数は3万程度であったが、鎧がまちまちであったので正規兵に交じって多くの予備兵が集められている様子であった。

 どこかにまだ5万ほどの兵が潜んでいることを意味する。

町の中に潜んでいるのか、大回りをして侵略軍の後方に回り込んでいるのか、予め国境沿いに潜んでいたのかもしれない。

3番目だったとしたら、昨日の戦闘があまりに早く終わってしまって予定の行動が取れなかったのであろう。

 荒海は100機の熱気球を周辺の偵察のために派遣した。

周囲は一面の水田であったので相当広範囲に偵察しなければならなかった。

そして発見した。

敵の大部隊は国境を越えて海穂国の森林の中に潜んでいた。

 関所を放棄してあったのはこのためであったのかもしれなかった。

国境沿いに軍を展開さないように国境を通過させたかったのだ。

一本道で大軍同士が消耗戦をしている時に背後から攻め込むつもりだったのであろう。

だが攻め込む前に戦いは終わり、侵攻軍は城に向かって前進を始めてしまった。

今更攻め込んでも見晴らしはいいし、相手は十分に対応できる距離をとっていたのだった。

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