第9話 図書館で
アパートの近くに、図書館がある。最初、デパートの二階の本屋に行って、キャンプの本やサバイバル料理みたいな本を持って帰ってきてから、どうして先に図書館に行かなかったんだと思い出したのだ。けれど、なんとなくそのあとも図書館には行かなかった。ひとりと二匹で暮らすのに、一週間ほどはそんなに問題がなかったからだ。
でもこれから、ずっと誰も戻ってこなかったら? そもそも、ここはどこ? 私が朝起きるまでいた、人がたくさん暮らしていた世界と、同じなの? いないのは、人だけじゃない。犬も猫も、カラスも虫も、みんないない。
どうして、私とハチとコノだけなの?
あの日、私が願ったから?
本当に、神様が叶えてくれたの?
今いるこの世界は、私が望んだ、私にとって完璧な世界なんだろうか。でも、私はこの世界ではきっと長く生きられない。だって、これが元いた場所と同じところで、たとえば私たち以外の人たちが消えてしまったのだとしたら、この世界には滞りなく夏がきて秋が来て冬が来る。夏の暑さに耐えられる気もしないし、冬はマイナス十度になる。生き延びられる自信がない。
そこで、もう一度図書館の存在を思い出した。図書館に行けば、何か分からないだろうか。たとえばSF小説とかで、主人公だけがどこかの世界に飛ばされるとか、取り残されるとか。
そう思って、図書館に来た。歩いて来られる距離だった。けれど、私はこの図書館にひどい違和感を覚えた。
何かの気配がする。
用心深く、周辺を見回した。図書館の周りは濃い緑で丈の低い植物が生い茂っている。誰もいないはずで、誰も手入れしていないはずだけれど、枯れたり元気がなくなったりしている様子はない。
でも、違和感はそこじゃない。もっと何か、違う何かだ。
「あっ」
思わず声が出た。
図書館のガラスが壊されていた。そして、人がひとり入れるくらいの穴が開いていた。
誰かいるんだ。
どんな人が中に入っていったんだろう。いや、人じゃないかもしれない。人じゃなかったらどうしよう。もしここが異世界みたいな場所で、化け物みたいなものが住んでいるとしたら。
食べられちゃうかも。
そうしたら、ハチとコノも生きていけない。
引き返そうか。それとも、中を確認しようか。とりあえず、穴からは少し遠ざかって様子を見た。穴から、中にいる生き物が飛び出してきたら怖いからだ。
迷って迷って、今日は一度帰ろうかと体の向きを変えたとき、頭の上でガラスの割れる鋭い音がした。
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