第5話 デパートへ(2)

 結論から書くと、私はミスを犯した。

 朝とはいっても、電気のつかないデパートの中は暗すぎて、歩けそうになかった。

 もう一度自転車を漕いで、アパートに戻った。蛍光灯を取ってくるためだ。ハチとコノは、私が戻ってくるとドアのところで待機していた。「どこに行っていたんだ」と言いたそうな目。もし、ハチとコノまで世界から消えていたら、きっと私はこんなことしていないだろう。ただ布団のなかに横たわって、時間が過ぎ去って餓死するのを待っていたかもしれない。

「もう1回行ってくるね」

 2匹の顎のところをくすぐるように撫でて、私は再出発した。


 人のいない暗いデパートは、思っていたよりずっと怖かった。

 動いていないエスカレーターは階段と同じで、なんだか不思議な感じがした。まずは二階の本屋、そして四階の下着売り場(着たことがないような高いのを持って帰ることにした)、最後に地下1階の食品売り場に行ってみた。

 まだ食品が腐敗する匂いはないように思えた。そもそも、魚やお肉といった生鮮食品が並んでいなかった。でも、これから冷凍庫に閉まってあるものなんかが溶けていくだろう。お漬物だって、しばらくしたら異臭を放つようになるかもしれない。とりあえずパンと、それから水と調味料を失敬した。水と塩と砂糖があれば、人間はしばらく生きていけると、何かで読んだ記憶があったのだ。パンにつけられるようにと思って蜂蜜も取っておいた。


 目当てのものは詰めることができた。懐中電灯を取ってくるときに、欲張ってボストンバッグも持ってきたので、予定より多く入れられた。持てるだけの重さで詰めて、自転車に乗せた。籠が重くて、帰りはヨタヨタした。


 帰ってきたら、相変わらずハチとコノがドアのところで待機していた。ハチは爪とぎの上、コノは棚の上。

「ただいま」

 今度は額を少し強めに掻いた。コノが気持ち良さそうに目を細めた。ハチはあまり撫でられるのが好きではない。喉を鳴らして機嫌のいいときはいいのだけど、今は嫌そうな顔をして爪とぎから飛び降りた。嫌そうな顔も可愛い。抱っこしたくなった。

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