第4話 デパートへ(1)
世界から人がいなくなった。らしい。
電気が使えない。ガスも当然使えない。誰もいない世界の初日は、コンビニまでの偵察で終わった。まずはコンビニからもらってきた(あとでお金を払うつもりだ)ご飯を食べて、飼い猫のハチとコノと遊んだ。お風呂に入れないのが少しつらい。
このまま電気が止まり続けると、冷蔵庫の中のものがダメになるはずので、早く傷みそうなものはカセットコンロで火を通しておいた。まだ6月だから、火を通したものがすぐに駄目になるということはない。東京みたいな暑い地域なら駄目になるのかもしれないけれど、ここは青森だ。
両親からの支援物資(主に食料)が届くのが月曜で、人が消えたのが日曜だったのは、救いだった。ちょうど、冷蔵庫のなかはほとんど空になるタイミングだ。
電気がなくなったということは、日が暮れると真っ暗になるということだ。不自然なくらい静かな朝は、電気がないせいもあったのかもしれない。暗くなる前に、その日考えたことをノートにまとめていった。私はノートを書くのが好きだ。ハチが邪魔してくるけど。
――電気が止まるということは、電力会社が機能していないということ。電力を送るために働いている人たちもいないということだ。
――コンビニに行ったとき、冷蔵の食品に触った。あのとき、食品はまだ冷たかった。つまり、電気が止まってからそんなに時間が経っていないということだ。
――電気が使えなくなるとどうなる? これから、どうなるんだろう?
――分からない。本屋が近くにある。明日はそこまで出かけよう。
翌日。明るくなると同時に目が覚めた。いつもなら、八時くらいまで寝ているのに。
朝ごはんはスープとパンにした。ハチとコノもご飯をよく食べ、くさい便もしっかり出していた。私のトイレは、昨日コンビニに2回出かけて、災害時に使える簡易トイレをあるだけ持って帰っておいた。水が流れないので、これは大切だ。全て使い尽くしても世界がこのままだったら、おむつを使うことになるのかもしれない。
ご飯を食べ終えたあと、倉庫から自転車を引っ張りだして漕いだ。実家にいた頃は引きこもりだったけれど、アパートに引っ越してからはときどき外に出るようになっていたので、外自体は特に珍しいわけでもなかった。
アパートから十分くらい漕いだところにある中心街という場所に、五階建てのデパートがあって、二階に本屋がある。買うお金はなかったけれど、本は好きなので、土日にときどき立ち読みに行ったことがあるのだ。
問題は、デパートが閉まっていて開かないことだった。漫画やドラマではよくガラス戸を蹴破って開けたりするが、シャッターも閉まっている。私の非力な力で、何か重たいものを使ってガラスを叩き割ったとして、シャッターもこじ開けて建物に入るわけだ。ガラスの破片が刺さったりしそう。刺さったら痛そう。
一階の本屋がガラス張りになっていて、そこだとシャッターではなくカーテンだけのようだったので、その窓を割らせてもらうことにした。割る道具は、壁に埋め込まれていた消火器。勢いよく振り下ろす。家にあったパーカーで顔以外は防御してある。ガラスは硬く、なかなか割れなかった。
ようやく私が入れるくらいにガラスを割って、デパートの中に入った。警報機なんかは鳴らなかった。やはり、人がいないのだ。
リュックサックを持って来ているので、めぼしい本と、それから腐りにくそうな食料と、あと水と服を持って帰るつもりだった。
汚い話だけれど、洗濯機が使えないので、下着が洗えないのだ。水を増やせば洗えるけれど、水道が使えない今、水は貴重だ。猫は常に新鮮な水を飲まなければならない。猫は腎臓が悪くなりやすく、飲水量が重要な健康のバロメーターになる。
これまでもそうだったけれど、これからはより一層、ハチとコノは私が守らなければならない。そのために、いろいろ考えなければいけないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます