第2話 異変
車が一台も通っていない。人もいない。田舎町だからそういうのは当たり前だけれど、ここまで誰もいないのはおかしい気がした。静かすぎる。運動は嫌いだけど、天気はいいので黙々と歩き続けてみた。
時計は動いている。時刻は八時半。住宅街を抜けると、商店街がある。この時間はまだお店はやっていないけれど、コンビニなら開いているはずだ。
けれど、その期待は、角を曲がってすぐに打ち消された。
嘘。
声を出すのは嫌いだから、心の中だけで呟いた。入らなくても分かる。コンビニは、電気がついていなかった。人もいなかった。何より、大通りなのに車が一台も走っていなかったのだ。
世界から、人が消えている。そのとき、私はようやく理解した。この世界に、異常が起きていること。どこまでの範囲か分からないが、人がいないということ。少なくとも、今、この商店街までの範囲では、私とハチとコノ以外に、生き物がいないかもしれないということ。
どうしよう。
どうしようって言ったって、誰もいないし、何もできないのだ。とりあえず、家に帰らないといけない。ハチとコノのご飯は済んだから、次は私のご飯。でも、電気とガスは使えない。温める必要もなくて、傷んでない食べ物を食べないと。
家にあるのは、ポテトチップスとチョコレートだ。普段の私ならそれでいいやと思ったけれど、これからはそうはいかない。どこまでいくことになるか分からないけれど、この人がいないところにずっといても、長くは生きられないだろうから。
コンビニエンスストアに入って、冷蔵になっていないものを失敬した。今は、お金は持っていない。あとで、ここに人が戻ってきたら払おう。
常温保存できるパンに、ミックスナッツ、ちょっと怪しいかなと思ったけれど、カウンターのすぐそばに置いてある唐揚げとイカリングも袋に詰めた。袋はもちろん、コンビニの袋だ。日持ちしそうなもので、体力がつきそうなものを慎重に選ぶ。消えた人たちは、すぐ戻ってくるかもしれないし、しばらく戻ってこないかもしれない。そもそもこんな急に、一気に、人が消えるなんていうことがあるんだろうか?
袋はあっという間に重くなった。あまり詰めすぎても、帰り道が大変だ。これくらいにしておこう。家に帰ったら、商品の名前をメモしておかないといけない。ごめんなさい、あとで必ず払いますから。
家に戻ると、ハチとコノが扉のそばで待っていた。特に私が昼に出かけることは滅多にないから、出かけたあとはいつもこうなのだ。
「ただいま。ご飯食べるね」
ウインナーが挟まっているパンを食べた。マヨネーズが効いていて美味しい。でも、できれば温かいコーヒーと一緒に食べたかったな。飲み物はまだ冷たかったカフェオレにした。甘い。コーヒーも好きだけど、うんと甘いカフェオレも好きだ。
腹ごしらえが終わってから、コンビニから取ってきたものをノートに書く。ハチはシャープペンシルが動くのが好きで、私が何か書いているといつも手を出してくる。
「めめだよ、はっちゃん」
注意しても、聞く耳持たない。代わりに、ビビりのコノがごめんなさいという顔をした。
テレビはまだつかない。電気はきていないのだ。周りからも、音はしない。いつもなら、これくらいの時間に隣の家で掃除機をかける音がしてくるのに、今日はしない。きっと、隣の家にも誰もいないのだ。
世界に何かが起きた。ハチとコノはここにいる。それだけが、私に分かることだった。
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