ある日突然、猫と
@ichirun1062
第1話 静かすぎる朝
嫌なことがあった。
ノートに嫌なことを書き連ねた。最後にこう書いた。
私とハチとコノだけ、違う世界に飛ばされてしまったらいい。
ハチとコノは、私のたった二匹の家族だ。
ハチは八月にもらってきた黒猫。よく勘違いされるけれど、ハチワレではない。
コノは九月に拾った茶トラ猫。
どっちも男の子。コノは大きくて、ハチは小さい。
最初はシャーシャー言い合っていたけれど、今は仲良しだ。雄猫は縄張り意識が強いから、成猫になってから出会ったらもう少し仲良くなるのに時間が掛かったのかもしれない。ハチとコノは、どちらも3か月くらいの子猫だった。
ハチとコノがいるから、毎日頑張れた。どん底の気分で帰ってきても、ハチが足に頭をこすりつけてくれたら、ほんの少し体が軽くなった。
休みの日、何もやる気になれなくて寝転がっていると、コノがお腹の上に乗ってきてグララと喉を鳴らしてくれた。振動を感じながら、好きなだけ微睡んだ。
こんな幸せは、ハチとコノが来てくれるまで知らなかった。味わったことがなかった。
ハチとコノだけいてくれればいい。他は何も要らない。こんな世界、ハチとコノとすべての猫と、それからもし生き残ってもいいのなら私を残して、滅んでしまえばいいのに。
翌日、なんだか空気が静まり返っているような気がした。すぐに異変に気付いた。蛇口を捻っても水が出ないのだ。スマートフォンもつかない。パソコンもつかない。電気が止まっているらしい。
私が寝ている間に、大きな地震があったのかもしれない。それで電気が止まってしまった。
真っ先に気になったのはハチとコノの水だ。少し食べカスが沈んではいるけれど、まだ大丈夫。
「おはよう」
ハチとコノには、停電なんて言葉は分からない。ハチはいつも通り、ニィィニィィとくぐもった声で鳴いてご飯を催促する。コノはキャットフードが置いてある机の上に手をかけて伸びている。
「ご飯だね」
二つのお皿に、計量スプーンで二十グラムずつキャットフードを入れる。ハチは痩せているけど、コノはちょっと太り気味なので、二十グラムよりもちょっとだけ少なめにした。勢いよく食べ始める二匹。猫がご飯を食べる音は、いい音だ。
それにしても、いつまで停電が続くのだろう。テレビもつかなかった。情報を得られるものが何もない。とりあえず、外に出てみることにした。
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