第5話 カルダの時間

 メードであるカルダにも自由にできる時間は存在する。

 早朝のルッコを起こす前、夕方ルッコの仕事が終わった後、就寝する前が彼女の主な自由時間だ。

 夕方にルッコの仕事が終わるとカルダは一人で外出する。

 目的はレカの墓参りだ。彼女の墓は屋敷からそう遠くない場所にあるので空き時間でも十分に移動できる。

 レカの墓まで来たら簡単な手入れや清掃をしてから墓石の前で跪き、彼女に一日の報告をする。

「奥様。本日も参りました。坊っちゃまは今日も熱心に働いておられましたよ」

 レカの墓は手入れが行き届いており、寂しい墓地の中でも凛と佇んでいるような気さえした。

 報告が終わったら祈りを捧げる。これもカルダは毎日欠かさずに行っていた。

「奥様、どうか坊っちゃまの呪いを解くための力をお貸しください」

 魔法や呪術に詳しくないカルダができることはルッコのために祈ることくらい。カルダはルッコのために日々祈っていた。

 そして、レカの墓前ですることはもう一つある。

「奥様。この命に代えてもお守りすると誓った坊っちゃまが呪われてしまいましたことをお許しください」

 この謝罪もカルダは欠かすことがなかった。メードでありながらここまでするのはカルダがレカに対して特別な想いを抱いているからだった。

「あのとき奥様に救って頂いた恩を忘れたことはありません。私は生涯をかけて坊っちゃまを支えます。ですから、どうか奥様も坊っちゃまを見守ってあげてください」

 これはルッコにも言っていないことだが、カルダは元々奴隷だった。まだ子どもだった頃にレカに救われ、彼女はそれ以降ルッコの世話役として屋敷で生活させてもらっている。レカはカルダにとって恩人以上の存在だった。

 尤もここまで頻繁に墓を訪れてルッコのために真摯に祈るのは相手がレカだからというだけではない。カルダがルッコに想いを寄せているからというのも理由の一つだ。

 カルダが祈り終えた頃にはもう日が暮れ始めていた。

「奥様、私はこれで失礼いたします」

 最後にカルダは一礼してから屋敷へと歩き出す。レカの墓参りをすると色々考えてしまうカルダも気持ちを入れ替えてルッコに見せるいつもの面持ちへと戻す。

 薄暮の中、レカの墓が一人屋敷へと歩くメードの背中を見送った。

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