第4話 次期領主
人間の頃と違って、猫の状態でできることは限られている。
ルッコは次期領主でありカルダを従える立場だが、自分のことは自分でやりたいというのがルッコという青年だ。
これまでは記録をとるのも荷物を持つのも全てルッコが自分で行っていた。カルダはその様子を目の当たりにするたび「私がやりますのに」と唇を尖らせていたが、ルッコは何故だか彼女にやらせようという気が起きなかった。
勿論ルッコがカルダを信頼していないという意味ではないのだと彼女もわかっているが、これまでがそうだったのでカルダはルッコを頭に乗せて歩き回り、荷物を運び、彼に代わって記録をとるようなことが嬉しかった。
カルダは領民から説明を受け、野菜の種類や土壌の改善点、前回との対比などを記録していく。ルッコはその様子を頭上から眺め、内容をチェックしていくのが役割だ。
「今回の野菜は前回と比べて随分と質が良くなったみたいだね」
カルダの記録を覗き込むルッコ。彼女もルッコと話しながら資料を確認する。
「そうですね。記録を比較すると全体的に品質の改善ができているのがわかります」
元々仕事熱心で、本来なら自分で記録をつけたいルッコだが猫の状態でできるはずもない。仕事ができなくて落ち込むルッコになんとか仕事をさせてあげたいと、カルダが提案したのだ。
カルダが土壌の記録をつけ終えるが、一日の仕事はこれだけではない。
「次はなんだっけ?」
「橋の修繕をしたいから小川に仮設橋をかけたいという相談が来ていましたから、その確認ですね」
午前中領地の視察や領民たちから相談を受け、午後も雑務をこなし空き時間も勉学に励むなどルッコの生活はそれなりに忙しい。
忙しいのはマードがルッコに領主として後を継がせるべくいくつかの仕事を任せているからだ。
カルダは自分よりも年若いのに真面目で努力家であるルッコを誇りに思っている。反面、彼女からすればルッコは頑張りすぎだった。
ルッコが忙しいのは自らの意思で領地を良くしようと働きかけているのが要因であり、その精神は素晴らしいものだとカルダも思う。
マードは仕事で人も使うし、手続きの簡略化などで自身の負担も減らしている。何より彼はガス抜きも上手い。だが熱心でそこまで経験もないルッコは仕事の負担を減らそうということに気が回らないようだった。
「坊っちゃま。疲れていらっしゃいませんか?」
「僕は大丈夫だよ。カルダは?」
頭に乗っているルッコはそこまで疲れないので代わりにメードを気にかける。
「少し疲れてしまいました」
「じゃあ休憩しようか」
頭上の主人が穏やかな声で提案した。
本当はカルダもそこまで疲労していない。自分が疲れたと言って休憩の時間を得るのは、仕事に神経を注ぐルッコを休ませるための口実だった。
まだカルダの方から気にかける必要があるものの、マードも考えて仕事を振っているようなのでいずれルッコも自分のキャパシティを見極めた働き方を身につけるだろう。
それまでは猫の姿でいる今くらい自分に甘えてほしいとカルダは思う。黒猫になったことでルッコが少しでも楽をして休めるのならそれが一番だ。
もっと言えばカルダはルッコに自愛してほしい。彼女にとって最も大切なのはルッコなのだから。
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