第3話 楽しいお世話
カルダは膝の上に乗せたルッコのブラッシングをしていた。
ルッコが黒猫にされた日の翌朝から始まったこの行為は最初こそ彼が恥ずかしがったものの、今では気持ち良さそうにブラッシングされている。
ルッコがブラッシングを好きなのは事実だが、カルダもこの時間が好きだった。
カルダはルッコよりも年上で彼が幼い頃から世話をしている。
カルダにとってルッコの世話は彼が猫になる前から至福の時間だが、ルッコが成長するにつれて彼はカルダに世話をされることを恥ずかしがるようになってしまう。特に黒猫になる少し前などはメードのカルダがいるにもかかわらず、大抵のことを自分でやろうとしていたほどだ。
ルッコの世話をする機会が減ってしまったことでカルダは寂しい想いをしていたが、今は猫になったとはいえルッコが彼女に身を任せて自由に触らせてくれる。
ルッコの呪いは一刻も早く解けてほしいとは思っているが、ルッコの世話をできて嬉しいのもカルダの本音だった。
カルダは自分に身を委ねる黒猫の身だしなみを整えながら幼い頃のルッコを思い出す。
かつて幼いルッコを負ぶったときと同じような手つきで彼を抱くとカルダはそのまま自身の頭上に黒猫を乗せた。
小柄なルッコならではの行為だが、自然な流れでできるのはカルダとルッコ双方の信頼があってこそである。
当然だが、頭の上に乗せたのには意味がある。
「坊っちゃま。今日は午前から領地の視察があります」
「土壌改良の件で見に行くんだっけ?」
ルッコは頭の上からカルダの顔を覗き込もうとする。彼の動きは落ちないようにするのではなく、彼女の髪を乱さないように意識を注いでいた。
ルッコの動きはいつものことなのでカルダも特に反応しない。
「領民の方の話では前回よりも野菜の質が良くなったそうですよ」
「それはしっかり記録しておかないとね」
カルダとルッコは出かける前の朝食をとるため部屋を出て明るい廊下を歩く。
カルダの足取りの軽さに反して頭上のルッコは全く揺れを感じない。ルッコにとっては快適だが、同時に何故だか不思議な気分にもなる。
食堂に着くとすでに朝食が用意されていた。ルッコは適当なところでカルダから降りてテーブルの上の皿の前に座る。
先に席についていたマードと朝の挨拶を済ませたらそのままカルダも交えての朝食だ。
今でこそ難なく食事ができるルッコだが、猫になった当初は皿から零す、身体を汚す、そもそも皿に口をつけて食べることに抵抗があるなど問題だらけだった。
これまでの練習の甲斐あって今日も綺麗に食べ終えたルッコは農地に向かうため、カルダと共に準備に取り掛かった。
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