第5話 モノローグ -ひとのおもい- あやは、ひとのおもい
わたしは野に住む狐として生まれた。
初めは狐として生きた。
野の獣として生まれ、育ち、
そして子を産み、育て、
やがて老いて、野に骸を晒すはずだったのだ。
けれども、そうはならなかった。
わたしは途中で、あやかしになる道につまずいた。
やがては神使と成るべく、稲荷の神へと仕えることになるのだけれど、
あの日のことを思い返してみると、たまたまつまずいた、あやかしの生が、
あの頃のわたしには、たいそう魅力的なことに思えていて、
だからわたしは人に化けて、人里へとその住処を求めたのだった。
思えば、野に暮らす狐だった頃から、人への興味を持っていたように思える。
子狐の頃から、里の人らの営みを眺めることは好きだった。
人の子ども、人のおとな。
集団で群れて生きる人たちの集落。
それぞれに集団の役割があり、素朴で一生懸命に生きることは、けものと同じ。
でも少し違う。
笑い、安らぎ…。
よくわからなかったけれど、わたしは彼ら人のことに惹かれていたのだと思う。
戦国の頃のことだ。
人の世は争いが起こり、荒れていたとはいえ、
人の営みはやはり魅力的だった。
荒れていたからこそ、
人が一人増えたからとて、気にするものなど居なかった。
わたしは行き倒れで発見されたという幻の記憶を村人に与えて、
村の片隅の空き家へ住み着いた。
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