動画配信⑥
(うん?もしかして寝てた?何か幸せな夢を見たような………でも、寝た記憶なんて無いぞ?)
ふぁ~と大きく手を伸ばしながら欠伸をすると、目を擦りながら自分の記憶を彼女は振り返る。
家に帰ってきて………えーっと何があったんだっけ?
自分の記憶力には自信があるつもりだったが、何度振り返っても思い出せない。
………考えても無駄だし、一秒でも早く愛しい一狼に会いに行こう。
一狼の部屋に入ると、私が部屋に入った瞬間一狼の顔は林檎のように赤くなる。そんな一狼を見て私は、思わず可愛い過ぎて抱きつこうと、一狼目掛けて足を出来るだけ早く動かす。
しかし、私の抱き付きは下に敷かれていた布団を使われ、可憐に避けられてしまった。
一狼に見事抱き付きを避けられた桜だが、彼女は一狼を襲ったことを覚えていない。
無論、襲われた一狼が忘れる訳もなく、襲われたとはいえ勝手にキスをしてしまった桜に対して気まずく、そして初めてしたキスに恥ずかしく思っているが、そんなことを桜は知るよしもない。
普通の女性なら男を襲ったという素晴らしい体験を、生涯を終えるまで脳細胞に焼き付ける筈だが、桜は焼き付けることが出来なかった。なにせ、男である一狼からキスをされてしまったのだ。男からの甘いキス。桜の欲望や妄想のつまった漫画と同じシチュエーションが一狼と出来たのだ。そんなことをされて脳が正常に働く女性など居らず、桜はその物凄い幸せの体験を記憶として永久保存する前に脳がシャットダウンしてしまった。
そんな彼女に、一狼の顔が赤くなった理由など知るよしもなく、一狼が避けた理由など知ることは出来る筈もなかった。
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「やばい。耳が蕩けちゃいそう。お兄ちゃんの声エロ過ぎでしょ。」
お兄ちゃんに似せた人形を膝に置きながら、イヤホンでお兄ちゃんの作ったMVを聞く。女性より少し低い透き通った声に、曲の最中で時々聞こえる叫び声や耳元で是非呟かれたい背筋がゾクゾクしてくる吐息。
ヨウヅベには
「うん?
私は急いで削除ボタンを押して、今書いた文字を全て消す。
ふ~危なかった。
ポチポチと、『その曲歌ったの私のお兄ちゃんだよ~私のお兄ちゃん凄いでしょ!?』って入れちゃってた。
これ送ってしまっていたら、絶対に真美から鬼のように電話掛かってくるだろうし、明日から学校行けなくなっちゃってただろうな。危ない。危ない。
スマホをベットに置いて、私はそっと胸に手を置く。
小学校からの親友で、同じ中学に通う真美にだろうと流石に私のお兄ちゃんについては教えられない。
私の中学校も含めほぼ全ての学校で、『男を見つけたら報告、連絡、相談』がルールとして定着している。これは、希少な男に少しでも会う機会を増やす為に作られた女同士の協定であり、裏切りは許されない。このルールを破った者は半殺し覚悟とされていて、このルールは強制参加………というより、参加しなくてもいいが参加しないと男を隠しているのでは無いかと疑われる為、どちらにせよ入らないと
私もこの協定に入っているけど、私にお兄ちゃんが居るとは言ったことはない。そんなこと言ったら、私の兄を巡って連絡先を教えてくれと女共が近付いてきたり、家に遊びに行ってもいいとか言われたり、お兄ちゃんについての質問で
そんな訳で、私は親友である真美にポチポチと適当に返事をする。
『本当にエロいよね。曲を一回聞くだけで何回も濡れちゃった。』……よし、嘘はついてないしこんなもんでいいか。送信と。
RINEを閉じると、私はお兄ちゃんのMVを聞く作業にまた戻る。
イヤホンから流れてくる曲は何度聞いてもエロい。速度を変えたり、少し声のトーンを上げたり下げたりして聞いたり…………何度聞いても飽きることはなかった。
次の日の授業は、眠気が一時間目からして辛かった。だけど、眠そうなのは私だけじゃなくて先生含めてほぼクラスの全員が一時間目から目を擦っていた。
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