動画配信⑤


「やったぁ~やっと勝ったぞ。」

「お兄ちゃんに負けちゃった。(手加減して負けてあげたけど、はしゃいでいるお兄ちゃん可愛いなぁ。)」


妹と超乱闘を初めて数十分。

嫌らしいコマとビームが使えるロボロボに最初はボコボコにされていたが、それの出てくるタイミングを見切り下Bのリベ◯ジをし、溜めに溜まった状態で横Bを打ってラ◯アットを決めることで、何とか場外にロボロボを六試合目で吹き飛ばすことが出来た。


前世では勉強同様超乱闘も少しやるだけでいくつものキャラを極めていたつもりだが、かおりと六試合やって一試合しか勝てなかったということは、かおりが強過ぎるのか? それとも弱いのか?

とりあえず、後でお姉ちゃんとも超乱闘をやってみて俺の実力を試してみよう。それで勝てそうだったらここで負けた鬱憤をお姉ちゃんに……

まぁ、お姉ちゃんには襲われたしそれくらいのことをしたくらいで怒られることはないだろう。


「ねぇねぇお兄ちゃん。」

「ん?どうしたんのかおり?」

「さっき投稿したMV見てみようよ!!もしかしたら、もう一億再生回数超えてるかもよ?」

「そんな訳ないだろ~ったく、それじゃあ少し見てみるか。」


冗談半分で、一万再生くらいされてたらいいなと思いながらヨウヅベを開こうとするが、開かない。

可笑しいなと思いながらも、何度スマホをタップしてもヨウヅベを開くことが出来ないので、一度シャットダウンしてもう一回起動させて開こうとするが………開かない。


何でだろうと、膝の上で赤色の女の子らしいスマホを弄る妹を撫でながらスマホを放置することにすると、膝の上で妹が深刻そうな顔をした。


「うわぁ……これは、ちょっとヤバイかも。」

「ん?どうしたんだそんな深刻そうな顔をして?」

「この記事見てよお兄ちゃん!!」


突きつけられた赤いスマホの画面を見ると、そこに書かれているのは………えっ?

もう一度よく近付いてその記事の名前を見てみるが、何も変わらない。

スマホの画面に映っていた記事の名前は「ヨウヅベのサーバーダウンは一人の男性のMVが原因」となっていた。


あれ?

もしかしてだけど、俺の動画が原因じゃないよな?

嫌な未来を想像し冷や汗をかきながら記事を見ると、その男性のMVというのは……恐らく俺の事だった。

記事には、チャンネル登録者数が動画を投稿してから数十分で一億人を突破したことや、投稿されたから数分で視聴回数が十億再生回数を超えたこと、そのチャンネル名が「狼一」という、俺の名前を逆さにしただけの適当な名前も記事に乗っていた。


どういうことだ?

何で俺の投稿したMVがあのヨウヅベのサーバーをダウンさせた!?

そんなことがあるなんて今まで聞いたこともないし、あのヨウヅベのサーバーがダウンするなんてことがあるわけ………


しかし、俺の目の前にはそれについて書かれた記事が。

現実でないと思いたくても、現実だということを認識しなければいけなかった。


■■■■■■■■■■■■■


「お母さんごめんなさい。」

「お母さんあのMVが投稿されるなんて知らなかったなぁ~相談もされなかったし悲しいなぁ~」

「うっ」

「別にお兄ちゃんの動画を皆に広めるのは悪いことじゃなくない?よくよく考えれば男に飢えた女共の特定だってお母さんの権力でいけるし。」

「別にお母さんも一狼の動画が投稿されて、皆に一狼の凄さが伝わるのはいいの。でも、声を掛けるくらいのことはしてほしかったな。」

「ごめんなさい。」


正座のような姿勢をとって、俺はお母さんに頭を下げる。

かおりから権力という恐ろしい言葉が聞こえたが、保護者であるお母さんからしたら、子供が何も言わずに動画を投稿したら悲しくなるだろう。

前世では親が酷い親だった為、何も親に相談せず動画を投稿したり配信していたが、今の親であるお母さんは酷い親などでない。それなら、相談はしなくても声掛けくらいはした方が良かっただろう。


俺は自分のした行動に後悔を感じた。


「……デート。」

「え?」

「お母さんとデートしてくれたら許してあげようかな~」

「なっ!!この糞親めぇ!!本当はそれが狙いだ……」

「デート何かでいいの?」

「え?もしかして、本当にデートしてくれるの?」

「お兄ちゃんっ!!?」

「うん。お母さんの空いてる日って何曜日?」


もの凄い勢いでガッツポーズを取る母親。

そんな母親を血走った目で妬ましく見つめるかおり。

この世界で男性とデート出来るというのは、物語上での出来事。

女性に対して恐怖心を抱いている男や傲慢な男しか居ない世界で、女性とわざわざデートをしようなんて思考をする男性は居ない。

現に、母親の華でさえ、少しの期待はしていたがほぼ冗談だった。


しかし、息子である一狼にほぼ諦めていたデートの日程を迫られているのだ。

簡単に言えば、デートは目の前。

女性として一度は思った男性とのデート……そんな妄想止まりだったデートが男性と、しかもイケメンで体も太っておらず筋肉質な一狼と出来そうなのだ。


こうしてガッツポーズをするのは女性として正常な行動。

そして、血走った目でそれを見つめるかおりも女性として正常な行動と言えるのだ。


しかし、それを正常と思わない一狼は、そんな母親や妹のかおりを困惑した表情で見つめた。


「それで、何日にするのデート?」

「ええっとぉですねぇ……土曜日なんてどうでしょうか?」

「それじゃあ土曜日ね。約束だよ。」

「……嬉し過ぎて土曜日になる頃には死んでそう。」


緊張のあまり語尾が滅茶苦茶な中会話をする華。

ここで一狼とデートの日程を合わせられなければ、デートは中止。

目の前まできた全女性の夢の男性とのデートが消え去ってしまう。

そんな緊張の中、自分の全ての運を使ってもと土曜日を選択すると、見事その曜日にデートを約束することが出来た。

見事全女性の夢を叶えることが出来た嬉しさから、”嬉し過ぎて土曜日になる頃には死んでそう”という言葉が出るのは断じて普通だ。



外せ外せと願っていたかおりだが、見事デートの日程を合わせられその場に崩れる。

どうして自分では無いんだと頭を動かしても、現実は変わらない。

イケメンで優しさを何十倍にも増した兄とのデートを、自分の母親は出来るのだ。

妬ましい。実に妬ましい。

全世界の女性の嫉妬をこの手に────


半分本気で華の首に一直線に動いていった手は、一狼に容易く止められた。


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ちなみに、姉は幸せな夢を見てまだ寝てます。

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