第41話 うそつきの麦わら
「ミーシャも行ってしまいました」
ありすは淡々と呟いていた。
いつものありすらしくない、静かな物言い。
もしかすると突然にいくつも重ねてきた別れに、少し気持ちが凍ってしまっていたのかもしれない。
でもこんな様子はありすには似つかわしくはなかった。
だとすれば僕に残された仕事はありすの心を溶かす事なのだろう。
「ありす、君の占いのことを覚えている?」
突然の僕の問いにありすは驚いたのか大きく目を開いていた。
だけどすぐに沈んだ声で答えを返してくる。
「……あんな占いうそっぱちなんです。私が適当に本に書いてあった言葉をつなげただけで、本当は何の意味もなかった。ただ謙人さんが戻ってこないかなって、それだけ思って適当に言いました。あれは私のついたうその一つなんです」
ありすはただただ抑揚のない声で静かに答える。
おそらくありすの言うとおり、なんとなく考えてみたうその占いなんだろう。
「この村に
春と共にこの村の止まった時間を動かしにやってくる。
四月一日は
四月一日は三月を愛しみ、そして三月は四月一日に手を伸ばす。
届いた手は全てを壊し、代わりに二人は永遠を手にするだろう。
だったっけ。でもね。あり得ないと思っていたけれど、今の僕は君を大切に思っている。何よりも君の事を想っている。確かに僕は君は愛しんでいるよ。
僕達は村の現状を壊してしまったのかもしれない。でも代わりに僕と君は永遠を手にいれるんだ。僕は君に誓うよ。ずっとずっと君を好きでいるって」
僕が告げた言葉にありすはどうしたらいいのかわからないでいるようだった。
辺りをきょろきょろと見回してみて、あからさまに挙動不審だった。
でもそれでいい。
僕は全てを壊して、新しい形を作らなければいけないんだから。
「これからは僕と一緒に生きてくれませんか。僕がずっと旅をして探していたのは、生きていく意味だったんだと思う。ずっと何のために生きているのか、僕にはわからなかった。だけど今、僕は君と一緒に行きたい。人生という名前の長い旅をずっと一緒に過ごしていたい」
僕は言いながら手を伸ばす。
ありすは少しの間、考えているようだった。
「これってまるでプロポーズみたいですね」
ありすは静かな声でたずねてくる。
だから僕は間髪入れずに答えていたと思う。
「まるでじゃなくてプロポーズそのものだよ。もちろん僕とありすはまだ結婚できる歳じゃないけれど。でも君と一緒に生きていきたいんだ」
僕の答えにありすは突然に背を向けていた。
同時に麦わら帽子をおろして、それからメガネを外して麦わらの上におく。
それから三つ編みもほどいていた。
なみなみとした髪が背中に広がっていた。
こうしてみるといつもより少しだけ大人びて見えた。
「謙人さん。そんなこといっていいんですか。私は自分を魔女だっていってみたり、自分の名前をありすだと言ってみたり。伊達メガネをつけてみたり。ずっとうそをついてきました。うそつきな娘だったんです。そんな私でいいんですか。これから先、もっと素敵な人に出会うかもしれませんよ」
背を向けたまま静かな声で告げる。
確かにこれからも沢山の人と出会っていくだろう。その中には素敵な女性だっているかもしれない。
だけどこれだけははっきりしている。
僕にとって彼女以上の女性なんていないって。
「僕はずっと探していたんだ。ただ一つだけ生きる意味を。僕が見つけたのは君だった。だから君以外にはもういらない」
告げた答えにありすの背が震えていた。
「謙人さん。一つだけお願いがあります。私の名前を呼んでもらえませんか?」
背を向けたまま僕へとお願いをする。
彼女が本当に何を求めているのかは、僕にはわからない。
でも僕が思う。
彼女の麦わら帽子。三つ編みと伊達メガネ。たぶんそれが彼女にとって魔女だった時の、彼女の言う『うそつき』だった時の象徴。
だから彼女はきっと『うそつきの麦わら』を外してしまったんだ。前を向いて歩くために必要な儀式だったんだろう。
そして最後に一つだけ外さなければいけない『うそ』がある。
だから僕は彼女の名前を呼んでいた。
「
「はいっ……!!」
有子は振り返り、僕へと飛び込んでくる。
僕はそれを受け止めて、そして強く抱きしめていた。
僕にとっての旅の目的。それは何かを探す旅だった。
何を探していたのか。それすらもわからなかった。
だけど今ははっきりとわかる。
僕はただ生きる意味を探していた。
彼女とふれ合って、大切な形を見つけていた。
僕が見つけた答えは、いま確かに目の前にある。
だから彼女を強く抱きしめていた、
これから新しい形を作っていきたいと思う。
有子と二人で。
了
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あとがき
喋る黒猫とうそつきの麦わら。楽しんでいただけましたでしょうか。最後まで楽しんでいただけていたなら嬉しいです。
このお話ほぼほぼ私の好きだけを詰め込んで書き続けていたお話です。
ヒロインのありすは私の好きな三つ編み少女だし、黒猫のミーシャはボクっ娘だったり。
ちょっぴりいじわるなお姉さんのあかねに、ツインテールのおませ少女なかなた、博多弁少女のこずえ。
のんびりした村の風景に、ゆっくりと流れるお話。
そして最後に切なさと恋の成就で終わるストーリー。
読者に受ける受けないは気にせずに、とにかく自分の好きなものを詰め込んでみよう。
そんな事だけを意識して書いたお話でした。
なので今時の流行は全く気にしていませんし、これやったら読者に受けるんじゃないかなーとかいうのも一切考えませんでした。とにかく自分が書いて楽しいお話を書こう。そんな感じで始めたお話でした。
それというのも、私はずっと執筆が出来ないでいた時期がありました。
なので、10年くらいはたぶんまともにお話を書いていなかったと思います。
六畳一間はそちらももともとは書きかけていて止まっていた話を再開したものでした。
ですので短編を除けば100%の完全な新作はこの「喋る黒猫とうそつきな麦わら」がひさしぶりの新作になります。
そんなこともあって、とにかくまずは自分が書いて楽しいと思えるお話を書こう。そう思ったのでした。
そういう意味では、読者を向いて書いていないので、あんまり読んでもらえないかなぁとは思っていました。
でも思っていたよりも沢山の読者さんにきていただけて、たくさんの応援をいただきました。本当にありがとうございます。
某投稿サイトさんでは総合ランキングにいれてもらったりジャンル別では常にランキングに入れていただいたりもしました。本当にありがとうございます。
楽しんでもらえましたでしょうか?
もしもよろしければ楽しかったの一言でもいいので、最後にコメントや……れ、れびゅー等残していってもらえると嬉しいです。
ついったーのリプとかでもいいですよっ!!
それでは本当に皆様、ありがとうございました!!
(追記)
後日譚を追加しています。よろしければそちらもどうぞ!
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