第7話 パターン7

「オリコー! 貴様との婚約は破棄じゃあ~!」


 今日は学園の卒業式の日。


 卒業パーティーに臨む生徒達の、浮かれた気分を台無しにするような大声を上げたのは、この国の第2王子アホヤネンである。その傍らには最近アホヤネンと噂になっている、バッカーナ男爵令嬢の姿があった。


「婚約破棄って...一体何を仰っているんですか?」

 

 困惑しながらそう答えたのは、オリコー公爵令嬢である。


「貴様は俺様とバッカーナが仲良くしているのを見て、嫉妬に駆られてこのバッカーナを虐めたな! まず、バッカーナの教科書を全て破り捨てた! 次にバッカーナを噴水に突き落とした! 更にバッカーナを階段から突き落とした! 更に更に...」


「ちょっと! ちょっと待って下さいよ! さっきからなんなんですか? さっぱり意味が飲み込めないんですけど?」


「な、なんだとぉ!? それはどういう意味だ!?」


 いきり立つアホヤネンの言葉を遮ってオリコーが叫ぶ。


「そもそも私は殿下の婚約者じゃありませんよ?」


「ぬなぁっ!? ふ、ふざけるなぁ! そ、そんなバカな話があるかぁ!」


 アホヤネンがますます激昂する。


「ふざけてません! ほら、見て下さい! これ!」


 そう言ってオリコーは左手の薬指に嵌まった指輪を見せる。


「私の婚約者から貰った指輪です」


「ふわぁっ!?」


 またもやアホヤネンが奇声を発する。


「ちなみに結婚式は明日です」


「そ、そんな...じゃあ俺様の婚約者は...」


「そんなの知りませんよ。そちらの方と婚約されたら如何です?」


 アホヤネンとバッカーナが二人揃って呆けた顔になる。


「大方、最近巷で流行りの小説『婚約破棄大好きです!』に影響されたんでしょうけど、良かったですね? お二人の邪魔をする者は誰もいませんよ?」


 二人はその場で顔を見合わせる。


「それではご機嫌よう」


 オリコーは軽やかな足取りでその場を後にした。

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