第6話 パターン6

「オリコー! 貴様との婚約は破棄じゃあ~!」


 今日は学園の卒業式の日。


 卒業パーティーに臨む生徒達の、浮かれた気分を台無しにするような大声を上げたのは、この国の第2王子アホヤネンである。その傍らには最近アホヤネンと噂になっている、バッカーナ男爵令嬢の姿があった。


「婚約破棄ですか。それは構いませんが、理由をお聞きしても?」


 涼しい顔でそう答えたのは、アホヤネンの婚約者に当たるオリコー公爵令嬢である。


「貴様は俺様とバッカーナが仲良くしているのを見て、嫉妬に駆られてこのバッカーナを虐めたな! まず、バッカーナの教科書を全て破り捨てた! 次にバッカーナを噴水に突き落とした! 更にバッカーナを階段から突き落とした! 更に更に...」


「あぁ、もうその辺で結構です。もうどうだっていいですから」


「な、なんだとぉ!? それはどういう意味だ!?」


 いきり立つアホヤネンの言葉を遮ってオリコーが断言する。


「私との婚約が破談になれば、殿下は廃嫡され王家からも除名され平民に落ちるってことですよ?」


「ぬなぁっ!?」


 アホヤネンが間の抜けた声を発する。


「この婚姻は王命です。出来の悪い殿下を支えてやって欲しいと、我が公爵家が王家から頼み込まれて結んだものです。それを一方的に破棄した場合、その瞬間に殿下は王族で無くなるんです。ご存知なかったんでしょうね」


「くぎゅう!」


 またもやアホヤネンが奇声を発する。


「それと当然ながらバッカーナ嬢の男爵家にも責は及びますよ? なにせ王命を破棄する手助けをしちゃったんですから。恐らくは爵位を返上することになるでしょうねぇ」


「「 びでぶっ! 」」


 最後はアホヤネンとバッカーナが二人揃って仲良く玉砕した。


「大方、最近巷で流行りの小説『婚約破棄大好きです!』に影響されたんでしょうけど、良かったですね? お二人は仲良く平民になって結ばれることになりますよ?」


 二人はその場に崩れ落ちた。


「まぁとにもかくにも婚約破棄は承りました。それではご機嫌よう」


 オリコーは軽やかな足取りでその場を後にした。

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