第5話 パターン5

「オリコー! 貴様との婚約は破棄じゃあ~!」


 今日は学園の卒業式の日。


 卒業パーティーに臨む生徒達の、浮かれた気分を台無しにするような大声を上げたのは、この国の第2王子アホヤネンである。その傍らには最近アホヤネンと噂になっている、バッカーナ男爵令嬢の姿があった。


「婚約破棄ですか。それは構いませんが、理由をお聞きしても?」


 涼しい顔でそう答えたのは、アホヤネンの婚約者に当たるオリコー公爵令嬢である。


「貴様は俺様とバッカーナが仲良くしているのを見て、嫉妬に駆られてこのバッカーナを虐めたな! まず、バッカーナの教科書を全て破り捨てた! 次にバッカーナを噴水に突き落とした! 更にバッカーナを階段から突き落とした! 更に更に...」


「あぁ、もうその辺で結構です。どうせもう意味無いですから」


「な、なんだとぉ!? それはどういう意味だ!?」


 いきり立つアホヤネンの言葉を遮ってオリコーが断言する。


「そもそも殿下が浮気なさったのが発端ですから、殿下の有責として慰謝料を請求しますので」


「ぬなぁっ!?」


 アホヤネンが間の抜けた声を発する。


「殿下の個人資産で払えないとなれば、国王陛下に請求しますので覚悟して下さいね? 公爵令嬢たる私を10年間も婚約者として縛り付け、王子妃教育を毎日やらせたんですから。その努力が全て無駄になったんですよ? そのツケはたっぷりと払って貰いますからね?」


「くぎゅう!」


 またもやアホヤネンが奇声を発する。


「それと当然ながらバッカーナ嬢の男爵家にも多額の慰謝料を請求しますよ? 払えるといいですね? あぁでも、恐らくは爵位を手放さないと払えないでしょうねぇ」


「「 びでぶっ! 」」


 最後はアホヤネンとバッカーナが二人揃って仲良く玉砕した。


「大方、最近巷で流行りの小説『婚約破棄大好きです!』に影響されたんでしょうけど、王命で結ばれた婚姻を破棄するってことの重大さを、その身で持って思い知って下さいね」


 二人はその場に崩れ落ちた。


「まぁとにもかくにも婚約破棄は承りました。それではご機嫌よう」


 オリコーは軽やかな足取りでその場を後にした。

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