第8話 パターン8

「オリコー! 貴様との婚約は破棄じゃあ~!」


 今日は学園の卒業式の日。


 卒業パーティーに臨む生徒達の、浮かれた気分を台無しにするような大声を上げたのは、この国の第2王子アホヤネンである。その傍らには最近アホヤネンと噂になっている、バッカーナ男爵令嬢の姿があった。


「婚約破棄って...一体何を仰っているんですか?」

 

 困惑しながらそう答えたのは、オリコー公爵令嬢である。


「貴様は俺様とバッカーナが仲良くしているのを見て、嫉妬に駆られてこのバッカーナを虐めたな! まず、バッカーナの教科書を全て破り捨てた! 次にバッカーナを噴水に突き落とした! 更にバッカーナを階段から突き落とした! 更に更に...」


「ちょっと! ちょっと待って下さいよ! さっきからなんなんですか? さっぱり意味が飲み込めないんですけど?」


「な、なんだとぉ!? それはどういう意味だ!?」


 いきり立つアホヤネンの言葉を遮ってオリコーが叫ぶ。


「そもそも私は殿下の婚約者じゃありませんよ?」


「ぬなぁっ!? ふ、ふざけるなぁ! そ、そんなバカな話があるかぁ!」


 アホヤネンがますます激昂する。


「ふざけてません! ほら、見て下さい! これ!」


 そう言ってオリコーは左手の薬指に嵌まった指輪を見せる。


「私の婚約者から貰った指輪です」


「ふわぁっ!?」


 またもやアホヤネンが奇声を発する。


「ちなみに私の婚約者は殿下の兄君テンサイダー第1王子殿下です」


「そ、そんな...じゃあ俺様の婚約者は...」


「アホヤネン、お前に婚約者は居ないぞ?」


「あ、兄上!?」


 そこに颯爽と現れたのは、第1王子のテンサイダーだった。


「お前のアホさ加減は世に知れ渡っているからな。誰も婚約者になりたがらなかった」


「そ、そんな...」


 アホヤネンが愕然とする。


「ちょうどいい。その頭の軽そうな女と結婚したらどうだ?」


 アホヤネンとバッカーナが二人揃って呆けた顔になる。


「大方、最近巷で流行りの小説『婚約破棄大好きです!』に影響されたんでしょうけど、良かったですね? お二人の邪魔をする者は誰もいませんよ?」


 二人はその場で顔を見合わせる。


「それではご機嫌よう」


 オリコーはテンサイダーと共に軽やかな足取りでその場を後にした。


「あぁ、忘れる所だった」


 テンサイダーは立ち止まりこう告げた。


「アホヤネン、お前廃嫡になったから」


 アホヤネンはその場に崩れ落ちた。


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