世界の花束
FN
#1 説明
「ねぇ、もう何もないよ。次のとこ行こ」
「まだ、役に立つものがあるかもしれない。隅々まで探さなきゃ」
「それは、そうだけど…もう1週間もお風呂入れてないよ? 流石に華のセブンティーンでも1週間もあればただのセブンティーンだよ…」
「いつもただのセブンティーンだよ…仕方ないなぁ、そこのビルに入ろ。ここら辺、人の気配するし誰かいるかも」
そう言ってハルはビルの入口まで早歩きで向かう。
私はその背中を追って歩く。いつもの歩く早さで。
青々とした空に筆から白いインクを数滴垂らしたような雲。空高く連なるビル群。
「TOKYO」昔の人はそう呼んだらしいけど、今は知らない。知らないって言うのはこの世界に境界線が無くなったから。
どう呼んでいいかなんて誰も分からないし、誰も興味が無い。
人類が消えたのはいつだったかな。多分、うん100年前。
理由は不明。よく分からないけど消えちゃった。そんな感じ。
この世界のどこかには解明する人もいると思うけど、大体の人には興味が無い。役に立つかと言うと、今のところ立たないし。
そもそもそういう理由で解明しようなんてしてないと思うな。
それは置いといて、人類の大半が消えてどうなったかと言うと、みーんなあっけらかんになってしまった。
ぼーっと生きてもいい環境になったから。みんな適当に好きなことをしている。
ゆる〜く適当に。それが現人類のモットー。「この世界が衰退の一途を辿るなら、人間性も衰退させるのが筋というものだろう!」と酔っ払ったお父さんが怒鳴ったのは、去年の夏のことかな。
つまり、全力で堕落すること。これが私たち人類の生きる理由だったのだ。
なんて言っていても、暇なんだと思う。
店を構える人。選挙活動(都知事も市長も村長も居ない)する人。廃墟になった建物を管理してる人。遊ぶだけの人。サラリーマン(昔の労働者)ごっこをする人。
ほとんどの人はしたいことをしているか、何にもならない遊びをして暮らしている。
何もしていなくても生きていけるけど、何かしないと生きていけない。
ハルもその1人だ。ハルは私の幼なじみで、小さい頃から冒険が好きだった。
一緒に山、川に行ったり。
知らない場所に行って、大泣きしてしまい、通りすがった人にAIを呼んでもらって、家まで帰った時、人間性の衰退したお父さんたちにしっかり怒られた事もあった。
その時にハルは「これこれ!これこそ冒険だよ!」とでも言いたげな表情で私を見てきたのを覚えている。私は「どれこそが冒険なの?」という顔をしていたと思う。
冒険というより、冒険ごっこかな。
ずっとそんなおふざけをしていた。
そんなこんなで16歳になり、年齢だけ大人になった私たちは、行動範囲がこの世界全てに及ぶようになった。
故に冒険という、このご時世でしか出来ない経験を積み重ねている。
親が止めなかったのか、という話。
全く止められなかった。
「好きにしな、好きに出来るんだから」と言った私たちの親は、楽観的な性格で、月に1回状況報告という名の生存報告をするだけで満足するらしい。
親にしては心配が足りないと思うけど、それも私たちには丁度いい距離感で、多分私たちにとって丁度いい距離感を察して保っているんだと思う。
その生存報告も12回を超えて13回目を迎えようとしている。
2人とも誕生日は過ぎて17歳になった。
晩夏。私たちの冒険は続いていた。
「ナツ、さっきから1人で何言ってるの?」
少し先からハルの声が聞こえる。
「説明かな」
「誰に対して?」
「うーん、世界?」
「夏の暑さでおかしくなっちゃったって冗談はもう使えないよ。今日は涼しいし。」
したり顔で言われるけど、何も「したり」なことはされていない。
私は少し声を張る。
「夏の暑さのせいでおかしくなっちゃったー」
「もう使えないよ」
ふっと頬が緩む。なんだか楽しいやり取りをした気がして、嬉しくなる。
なんて言っている間にビルの前まで着いてしまった。
「ほら、着いたよ。入ろ」
ん。とハルの返事。
そばのアスファルトから小さい花の咲いている、自動では無くなった自動ドアの間からビルに入った。
世界の花束 FN @goto39713
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