死者の出る病室/あとがき (※微ホラー)


 ――――眠った先の、無かった話。



 僕は病院に勤めている。

 うちの病院には、入ったら必ず3日以内に死んでしまう、と噂される病室がある。事実その病室は、終末医療用の病棟でもないのに死者を出し続けていた。

 しかし、なんの根拠も無く病室を開けておく訳にはいかない。病床数には限りがあるし、ただでさえさほど大きくない病院だ。仕方無くその『死の病室』は稼働させられ続けており、死者は出続けている。

 病院内では、病室に何か問題がないか調査する動きが生まれた。各ベッドに二つずつと部屋全体用に三つ、監視カメラが設置された。

 カメラが置かれて暫く経った。

 その間に六人死んだ。

 データも溜まったので、病院の職員で監視カメラの内容をさらうことにした。

 案の定と言っていいものか、病室全体を映したカメラには、時折人影のようなものがちらついていた。ただ、各ベッドのカメラは特にこれといった異変もなく――――否。

「あの、これ」

 僕は映像を止めて指差した。

 それは、患者の絶命の瞬間だった。患者の足先、右足の親指に、うっすらと暗い靄がかかっている。他の患者の映像を見ても同じだった。昼夜問わず、死の間際に、右足の親指を何かの影が染めている。

 この影が死の気配で、これが足を染め上げたら死んでしまう……なんて妄想が真っ先に思いついたが、これ以上の異変は見つからなかった。

 足元をズームしてみる。

 どの映像でも、その影は同じ形をして見えた。上から見れば弓なりに、横から見るればの字形に、患者の指先を包む影。

 ――――これって、もしかして。

 僕が気付いたのと同時に、一人の看護師がぽつりと言った。


ねぶってる」



 ――――起床。




   ◆ ◆ ◆


あとがき


 分かりにくいのですが、「病室を徘徊し、患者の爪先を舐って命を吸い取る化け物がいる」ということに気づいてしまう夢でした。短いのであとがきも併記してしまいます。


 書き起こしてみて、これをホラーと取るか落語的おかしみのある話と取るかは人によるな……と感じました。サゲの言葉が「舐ってる」なの、ちょっと面白いかもしれない。

 しかし、私にとっては結構しっかりホラーでした。

 足の指先を口に含んで命を抜き取っていく幽霊、という怖くて気持ち悪過ぎる存在への生理的嫌悪感が凄いです。足先舐ってるんだこれ、と気付いた瞬間に、怖さで目が覚めました。

 暫くは寝ている間に爪先を布団から出せないな、と思いましたが、最近寒いので出すはずがないことに気付きました。

 残る寒さの厳しい折、皆様に置かれましても、足はしっかり温めて養生してください。

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かごめかごめ――夢十夜 揺井かごめ @ushirono_syomen

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