アレン②


「何やってるんだこの人殺し!! ローズを離せ!!」

「な、何でアロン様がここに。」


僕は、ローズの上に跨がってローズの首を締めているように見えるラエアに、出来る限りの怒声を浴びせる。ラエアの手によって首を挟まれているローズは、とても苦しそうに表情を歪めて、息をしようと横にブンブンと首を振って、どうにかして空気の穴を見つけるように激しく動かしている。こいつは僕の平穏を奪っただけでなく、僕の好きな人までを奪うつもりだったのか?



ローズに跨がるラエアに近付くと、ラエアを僕は突き飛ばす。

突き飛ばされるラエアは、僕に突き飛ばされると思っていなかったのか、受け身を取らずに、ベットの上に留まることなく体を床にぶつける。そのまま首の骨でも折れてくれても良かったのだが、ラエアは突き飛ばした僕を睨み付けてきた。


「何てことするのですか?今の調子でいけばローズを亡き者にすることが出来たというのに。……こんな血みたいで気持ち悪い髪をした女が亡き者になったって、貴方には私が居るんだから別に関係ないですよね?」

「ーーは?もう一回言ってくれ。」

「だから、こんな気持ち悪い赤い髪をした女が亡き者になったところで、誰も困らないですよ。むしろ、私が亡き者にするんだから感謝すらしてほしーー」

「ーー潰す。」


懐から取り出した剣を振り抜き、床に手を付いて倒れているラエアの首筋に押し付ける。何てことを言うのだこいつは。ローズが亡きものになっていいだと?そんなことがあっていいわけない。それに、こいつはローズの綺麗な赤い髪をこんなにも侮辱した上で、ローズを窒息死させようとしたんだ。許せるわけがない。


剣を握る力を、そっと強めた。


「何で?何で?何でそんなこと言うの?」

「ローズが大事だからに決まってるだろ!!」

「貴方には私が居るんだよ?どうしてローズを選ぶの」

「……ローズと僕はは恋仲で愛しあっていた。そんな仲をお前に引き裂かれたとしても、僕の心は変わるつもりはない。」

「何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?」


恐怖で頭が混乱しているのか、ラエアは狂ったように同じ言葉を低いトーンで何度も口にする。月の光だけなのでよく見えないが、一瞬見えた目は虚になっていて光が無く、感情を失っているように見えた。ラエアからの表情からは、何も読み取れない。ただ伝わってくるのは、何を考えているのか分からないことから感じる恐怖のみだ。


そんな雰囲気を作り出すラエアに、少しだが体がブルッと震える。

その首を吹き飛ばしてやりたいという程憎しみを持っているはずなのに、体が無意識に震えた。自分の手を横目で見ると、鳥肌がぶつぶつとたっている。僕はこいつのことを怖いと思っているのか?


虚な目をするラエアの首筋にしっかりと剣の刃を定めると、ラエアはまた狂ったように言葉を口に出し始めた。


「アレンは私の困っているところが見たくて、そういう意地悪をするんだね。今日だって悲しかったんだよ私。アレンの態度がこの赤髪と違くて。何故か私にだけ冷たくて。別に冷たくされることは嫌じゃないんだけど、この女に優しくしたり誘ったりするのはいけないよね?貴方には私が居るんだから。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇ。」

「ーっ!!僕の元にはローズしかいない。お前に冷たくしたのは僕の本心だ。察してくれ。」

「ーーー嘘って言ってよ!!……もしかして、そこの女に洗脳されて?許せない。許せない。やっぱりこいつは潰すしかーー」

「止めろ。それ以上ローズに近付くな!!」


ポキポキと指の骨を鳴らしながら立ったラエアは、鬼のような形相でローズに近付いていく。僕が首にしっかりと剣を当てていたのに、それを息を吸うようにはね除けて、ラエアがたってしまった。僕は、慌てて鬼のような形相をするラエアに近付いて抱き締める。


「やっぱり、私のこと好きなんですよね?抱き締めてくれるなんて。今まで一度も抱き締められたことがなかったので……とても嬉しいです。」

「あぁ……そうだな。じゃっ。」

「グッーー」


抱き締めたラエアを僕に近付けると、首を後ろに回す振りをしてそのまま首に手刀を打ち込む。鬼のようで怯むことがないように見えたラエアだが、手刀は問題なく決まるようだ。気絶させて力の抜けたラエアを、そっと地面に寝かせる。


「ローズ?大丈夫か……?ローズ!!」


ローズは、僕が見たときよりも苦しそうな表情をしていた。

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